[スポンサーリンク]

一般的な話題

アメリカ大学院留学:卒業後の進路とインダストリー就活(2)

[スポンサーリンク]

前回の記事では、アメリカのPhD取得後の進路について、一般的な進路や就活を始める時期について紹介しました。今回は、アメリカの企業の研究職に焦点を当て、就活の流れについて綴ります。

アメリカ大学院留学:卒業後の進路とインダストリー就活
(1)アメリカPhD取得者の一般的な進路や就活の時期
(2)インダストリー研究職の就活の流れ ←本記事
(3)私の就活の経験

1. 就活を始めるまでにやっておくこと

前回の記事で触れた通り、アメリカの企業での研究職を志望する場合、大企業では1年〜3ヶ月ほど前、スタートアップでは1〜3ヶ月ほど前から出願を始めます。出願を始めるのは、ある程度卒業時期の目処が立ってからですが、出願時期までにやっておけることもあります。

特にインダストリー就活において、重要なのはネットワーキングです。企業の場合、一つの空きポジションに対して、何十〜何百人もの応募があることも普通なので、コネクションなしにオンラインで出願してもなかなかリクルーターの目に留まることはありません。企業側も、書類に目を通す手間や信頼という観点から、社員から推薦された応募者を採用することを好みます。(適格な人を推薦した社員は、$1000-5000のボーナスや数日間の有給休暇を与えられたりもするそうです。)

それなので、大学院生活を通して幅広いコネクションを作っておくことがとても大事です。就活の時期になって、いざネットワーキングを始めようと思っても、そう簡単に企業の人と知り合えるわけではないので、早いうちから学内で開かれている卒業生との座談会に参加してみたり、学内外でのキャリアフェアを覗いてみたり、学会でのネットワーキングセッションに参加してみたりすることが大事です。また、同学年の学生だけでなく、上級生やポスドクの友達をたくさん作っておくと、後々就活を手助けしてもらえるかもしれません。

また、私は経験しませんでしたが、大学院の3〜4年目に数ヶ月間のインターンに参加する学生も多いです。インターンで良い評価を得られれば、その後、その会社に採用してもらえる可能性もあります。特に人気で競争率の高い企業の場合、インターンに参加することで自分を売り込むチャンスが増え、有利にもなります。インターンを行った企業に就職をしなくても、企業での研究経験があることが他の会社への出願においてもプラスになります。

2. 出願書類の準備

インダストリー就活での出願に必要な書類は、主にレジュメとカバーレターです。レジュメは、自分のバックグラウンドや経験を1-2ページに簡潔にまとめたものです。アカデミックポスドクなどに応募する際のCV(2-4ページが目安)と似ていますが、全ての研究経験や受賞歴などを網羅するよりも、出願先のポジションに合った経験を強調しつつ、簡潔さを心掛けて書きます。

カバーレターは、出願者のバックグラウンドや人柄、志望動機などを3段落程度の文章で示したものです。レジュメのように、箇条書きで経歴やスキルを羅列するのとは違い、具体例を折り込みつつ自分がいかにそのポジションや企業に合っているかを納得してもらえるように記述します。特に、企業はチームの一員として他の社員と協力しながら仕事を行える人を重視するため、コラボレーションの経験などがあればアピールすると良いそうです。

あくまで一例ですが、こんな感じです。

While working in the field of protein engineering for five years at the XX group at XX University, I have learned valuable protein engineering and analysis skills that I could offer your company. My major research skills include XX, XX, and XX [応募するポジションに合ったスキルを強調].

I am also a great part of a team. Aside from working on my own research, I have been working as the safety officer of the XX group for four years and managing the laboratory safety issues. I have handled XX [具体的な仕事内容について記述]. Through this experience, I worked closely with all the group members and helped to maintain a good environment in the laboratory [人と協力して働いたことを強調].

The main reason I am applying for the position at XX Therapeutics is that I am interested in developing the platform of genome editing technology to cure rare disease. I believe XX technology that XX Therapeutics is developing will provide the solution for the treatment of XX, and I would be very happy to contribute to this effort.

レジュメやカバーレターは、ネットに上がっている例やテンプレートを参考にし、完成したものを大学のキャリアセンターの人にチェックしてもらいました。どの大学にも、就活の出願準備をサポートしてくれるシステムがあるはずなので、レジュメやカバーレターの添削やアドバイスを受けられると思います。

3. 出願から採用までのプロセス

オンラインで出願書類を提出すると、その後は数回の電話面接、現地での面接、合否通知、という流れになるのが一般的です。最初の電話面接の相手は人事部(Human Resource; HR)の人であることが多く、募集内容と研究経験のマッチング・出願の動機・期待する年収・労働許可(ビザなどのステータス)・引っ越し費用が必要かなどについて問われます。その後、適性があると判断された場合は次のステップに進み、将来の直属の上司となる採用担当者(Hiring Manager; HM)と面接することになります。採用担当者には、主に研究経験や出願の動機について細かく聞かれます。人事部の人との面接と異なり、詳しい研究の話も通じます。採用担当者に気に入ってもらえれば、現地での面接に招待されます。現地面接は大抵の場合、応募者の研究プレゼンから始まり、続いて配属先となるチームのメンバーと30分〜1時間の個別面談を何回か行います。全行程は半日〜1日ほど掛かるため、結構疲れる一日となるはずです。

もちろん、会社によって面接の形式や回数などは異なるので、特定の企業に興味がある場合は、Glassdoorなどで調べると良いと思います。選考プロセスだけでなく、会社の評判や各ポジションの年収、募集中のポジションなど、就活に役立つ情報がたくさん載っています。

次回の記事では、私が実際に経験したインダストリー就活について綴ります。

次回に続く。

関連リンク

Avatar photo

kanako

投稿者の記事一覧

アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

関連記事

  1. 環状ビナフチルオリゴマーの大きさが円偏光の向きを変える
  2. 【第11回Vシンポ特別企画】講師紹介①:東原 知哉 先生
  3. 光を吸わないはずの重原子化合物でも光反応が進行するのはなぜか?
  4. 化学者のためのエレクトロニクス講座~電解金めっき編~
  5. 高分子を”見る” その1
  6. クロスメタセシスによる三置換アリルアルコール類の合成
  7. 2017年始めに100年前を振り返ってみた
  8. 「非晶質ニッケルナノ粒子」のユニークな触媒特性

注目情報

ピックアップ記事

  1. 「高校化学グランドコンテスト」が 芝浦工業大学の主催で2年ぶりに開催
  2. トンネル構造をもつマンガン酸化物超微粒子触媒を合成
  3. なぜ電子が非局在化すると安定化するの?【化学者だって数学するっつーの!: 井戸型ポテンシャルと曲率】
  4. 研究室でDIY!~エバポ用真空制御装置をつくろう~ ④
  5. 文献管理のキラーアプリとなるか? 「ReadCube」
  6. 木曽 良明 Yoshiaki Kiso
  7. ノーベル化学賞:下村脩・米ボストン大名誉教授ら3博士に
  8. メカノケミカル有機合成反応に特化した触媒の開発
  9. 第143回―「単分子エレクトロニクスと化学センサーの研究」Nongjian (NJ) Tao 教授
  10. アジドインドリンを利用した深海細菌産生インドールアルカロイド骨格のワンポット構築

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP