[スポンサーリンク]

一般的な話題

Micro Flow Reactor ~革新反応器の世界~ (入門編)

[スポンサーリンク]

Tshozoです。

ケムステではこれまでに何度かフロー合成()に関して記載がありましたが、今回はもう少し初歩的なところを出発点に書いてみようと思います。お付き合いください。(冒頭図はこちらの論文より)

フロー合成・マイクロリアクターの概要

フロー合成法をざっくり定義すると、「連続的な流れ場において化学反応を進行させ、目的物を合成する方法」のことです。その中でもマイクロリアクターは、より狭い場での反応を利用し、目的物を合成する反応器になります。

FC_09

フローリアクター(左)・マイクロリアクター(右)の例
こちらの資料より引用

なお、これまでの化学界ではバッチ合成が主流。基本はお料理です。素材を順序と火加減を決めてでっかい鍋で煮て、蓋を開けて取り出して、洗って生成物を取り出す。終わったら次のカレー原料を仕込む、というような流れ。これらは条件さえ決まればドカッと楽に目的物が合成出来るうえ、大概の場合装置が安いため、スケールアップのノウハウさえあれば量産化もそれなりに出来るというメリットがありました。

一方、フロー合成。実例が無かったわけではありません。たとえばハーバー・ボッシュ法。ハーバーと助手のル・ロシニョールが創り上げた反応器はまさにフロー合成・フローリアクターのはしりであり、その原型は100年以上も前に萌芽していたわけです。その他、石油化学に近いところやPP、PEといったMass Chemical、つまりプラント稼働率をとにかく上げてコスト競争力を持たせたいようなケースでもフロー合成は使われています。

FC_04

アンモニア合成器 レプリカ(BASFの資料より引用)
ハーバーが行ったこの装置のデモをBASFのミタッシュが見とどけた

ですが上記は比較的単純な構成のものが生成物であり、最終物が医薬品や精密合成品の分野では今なおバッチ合成が主流であることは否めません。上記の理由に加えて鍋があればカレーもシチューも豚汁も作れるように、いろんな反応に適用できるし、掃除がしやすいし、とりあえず混ぜときゃ収率はともかくだいたい大量に合成できることが大きなメリットであることは言うまでもないでしょう。

バッチからフロー、さらにマイクロへ

しかし、精密合成・反応制御と言いながらいつまでも鍋で煮てていいのか、ってことで2002年あたりからフロー合成の機運はこんな感じで高まっています↓。今回取り上げるのはそのうち「マイクロリアクター」をツールとして用いるものです。

FC_02
特にマイクロリアクターの論文数伸びがすごい こちらから引用

・・・言葉で書いててもアレなので、ざっくり下記のようなものを載せてみます。

FC_07

こういう小型のものから・・・

FC_06

こういう大型の多連化したものまである(上の写真が流路、下のが組上げたもの)
実際にこれらの装置を利用して合成される市販薬品類がそこそこある模様
いずれもこちらの資料より引用

欧州ではこうしたマイクロフロー合成装置の開発が盛んなようで、グラーツ工科大学、アイデンホーベン大学などで化学企業と組んでの研究が盛んに行われているとのこと。日本でも市販品としてYMC社、中村超硬社、テクニスコ社等が販売しています。

で、こうした反応器や手法の何がうれしいのか。色々な資料に様々に記述されていますが、たとえばオランダ最大の化学会社、DSM(元オランダ石炭公社)が提唱する「フロー合成」のメリットは、下記4点にまとめられています。

苛烈な条件でも安全に反応させられること (Safe use of extreme reaction conditions)
開発期間の短縮 (Reduced development time)
反応制御性の向上 (Improved process control)
製造コストの低減 (Reduced production costs)

さらに「マイクロ」フローリアクターとなると、反応部をより狭い空間に閉じ込めてその制御をより精密に行うことを狙ったものになり、そのような研究論文はこれまでにも多く登場しております。

今後の展開

マイクロフロー合成はそれぞれの個別反応を細かく制御出来ることが持ち味です。こうした個別反応を開発することもそうなのですが、最終的にはこれらの反応器を多数含むリアクターとして、「モジュール化」が進むような気がしています。そうだとすると、反応 ルートマップでマイルストーン的な反応物があって、それに従った反応モジュールが出来、そのモジュールの組み合わせだけで所望の医薬品や精密合成品が出来ていく、という夢のような反応器が出来上がっていくことになりそうなのですが・・・。

FC_10

たとえばこんな感じで複雑な反応も原理的には組上げられる
こちらの論文より引用

ただフロー合成最大の懸念は“詰まり”Constriction/Cloggingと呼ばれる現象で、生成物がキチンと溶媒にとけてくれればいいのですが、例えば下記のように固形物が出てくるようなケースだとこれは難儀です。

FC_05

たとえばこの単純な反応でも反応壁に析出しようもんなら
圧損がガンガン上がり最終的にはドン詰まりになってしまう(リンクこちら

そのほか、ちょっとしたチリでも原料やプロセスに入ったり生成してしまうと詰まって全部止まってしまうわけで。もちろん手前にフィルタかますとかメインポイントでバイパスするとかパラレル化するとかのやり方で色々対応することが出来るでしょうが、管理的にはなかなか難儀な問題となりそうな。ここらへんもどう技術的に目途をつけていくか、非常に興味のあるところであります。素人の思いつきレベルでは、詰まりに対して超音波を定期的に当てるとかどうかな、と思ったりしましたが既にそういう技術あるんですね、はい。実際にChemtrex社などそこらへん解決して大量合成を実証してるようですから、今までできなかった反応等を進められるツールとしての発展は益々進んでいくことでしょう。

 

参考文献

・”PI Technology Update on Microreactors”  リンクこちら
・”Microreactors in Discovery and Development” リンクこちら
・”Microreactors and Microfluidic Cells in Organic Synthesis” リンクこちら
・”The past, present and potential for microfluidic reactor technology in chemical synthesis” リンクこちら

関連書籍

Tshozo

投稿者の記事一覧

メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

関連記事

  1. 第20回ケムステVシンポ『アカデミア創薬 A to Z』を開催し…
  2. 科学ボランティアは縁の下の力持ち
  3. タンパク質を華麗に模倣!新規単分子クロリドチャネル
  4. 環状アミンを切ってフッ素をいれる
  5. エステルからエーテルをつくる脱一酸化炭素金属触媒
  6. 【PR】Chem-Stationで記事を書いてみませんか?【スタ…
  7. なんと!アルカリ金属触媒で進む直接シリル化反応
  8. 2010年人気記事ランキング

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第40回「分子エレクトロニクスの新たなプラットフォームを目指して」Paul Low教授
  2. 界面活性剤のWEB検索サービスがスタート
  3. 2007年度ノーベル化学賞を予想!(5)
  4. スティーヴン・バックワルド Stephen L. Buchwald
  5. 未来の化学者たちに夢を
  6. 化学研究ライフハック :RSSリーダーで新着情報をチェック!2015年版
  7. 新たな環状スズ化合物の合成とダブルカップリングへの応用
  8. 第62回―「再生医療・ドラッグデリバリーを発展させる高分子化学」Molly Shoichet教授
  9. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり : ② 「ポスト・イット アドバンス」
  10. 化学者のためのエレクトロニクス講座~有機半導体編

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年6月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

ResearchGateに対するACSとElsevierによる訴訟で和解が成立

2023年9月15日、米国化学会(ACS)とElsevier社がResearchGateに対して起こ…

マテリアルズ・インフォマティクスの基礎知識とよくある誤解

開催日:2023/10/04 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

理研、放射性同位体アスタチンの大量製造法を開発

理化学研究所 仁科加速器科学研究センター 核化学研究開発室、金属技研株式会社 技術開発本部 エン…

マイクロ波プロセスを知る・話す・考える ー新たな展望と可能性を探るパネルディスカッションー

<内容>参加いただくみなさまとご一緒にマイクロ波プロセスの新たな展望と可能性について探る、パ…

SFTSのはなし ~マダニとその最新情報 後編~

注意1:この記事は人によってはやや苦手と思われる画像を載せております ご注意ください注意2:厚生…

様々な化学分野におけるAIの活用

ENEOS株式会社と株式会社Preferred Networks(PFN)は、2023年1月に石油精…

第8回 学生のためのセミナー(企業の若手研究者との交流会)

有機合成化学協会が学生会員の皆さんに贈る,交流の場有機化学を武器に活躍する,本当の若手研究者を知ろう…

UBEの新TVCM『ストーリーを変える、ケミストリー』篇、放映開始

UBE株式会社は、2023年9月1日より、新TVCM『ストーリーを変える、ケミストリー』篇を関東エリ…

有機合成化学協会誌2023年9月号:大村天然物・ストロファステロール・免疫調節性分子・ニッケル触媒・カチオン性芳香族化合物

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年9月号がオンライン公開されています。…

ペプチドの精密な「立体ジッパー」構造の人工合成に成功

第563回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科応用化学専攻 藤田研究室の恒川 英…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP