[スポンサーリンク]

一般的な話題

高分子ってよく聞くけど、何がすごいの?

[スポンサーリンク]

この記事では、高分子の〇〇がスゴイ!(個人的見解)をお伝えします。

私たちの身の回りにある多くのものが高分子であるということは皆さんもよくご存知でしょうか。ポリエステルや絹や木綿、ナイロンなど私たちが着ている洋服の多くは高分子です。お肉、お刺身、お芋など私たちが食べている食べ物も高分子です。住む家においてもまた同じ。床も壁も天井も畳もコンクリートもペンキも、これまた全て高分子です。そして忘れちゃいけない、私たちの肉体そのものが極めて精巧な高分子でできているのです。何もこれは人間だけに限った話ではありません。犬でも猫でもスギの木も蚕も、生きとし生けるものすべてが高分子でできているのです。衣食住に関わるもの、私たちを含む動植物たち、これらを形成するのがまさに高分子なのですからさぞかし奥が深いことでしょう。どれだけ奥が深いものなのかお楽しみ頂くために、これから皆さんを高分子の世界にご案内いたします。

 

目次

1.ちょっと寄り道~高分子でないもの~

2.高分子の〇〇がすごい!

3.熱的挙動&溶解性(〇〇のネタバレ)をさらに詳しく

4.高分子のすごいところはそれだけじゃない

 

1.ちょっと寄り道~高分子でないもの~

さっそく高分子の世界にご案内したいところですが、さっきから話を聞いていると森羅万象すべてのものが高分子であるように思えてきてしまうので、高分子でないものに一体どんなものがあるのか、まずはそこから見ていきましょう。

名前から想像がつくと思いますが、高分子でないものは低分子といいます。低分子もまた、さまざまであり、空気を構成する窒素や酸素、水、硫酸、ガソリン、塩、砂糖などもみな低分子です(図1)。化学的に説明すると、”原子”が数個~100個つながり分子量が数100程度になったものを「低分子」、数1,000個以上の”原子”がつながって分子量が10,000以上になったものを「高分子」といいます(図2)。高分子のもとをたどればみな低分子なのです。筋肉の源、タンパク質はアミノ酸という低分子からできています。ナイロンは当時、「石炭と水と空気で作られ、鋼鉄よりも強く、クモの糸より細い」というキャッチフレーズで売り出されました。では低分子と高分子の境界はどこなのでしょうか。これについて明確な答えはなく、分子量が10,000以上のものを便宜上高分子として扱っています。高分子の分子量というのは見かけ上の平均分子量であって、その中には9,990のものも11,000のものも色々混ざっており、平均が大体10,000以上のものを高分子と呼ぶことに決めたのです。むしろ大切なのは高分子らしい性質、つまり今回のテーマ、高分子のすごいところを備えているかどうかです。では高分子らしい性質とは何なのでしょう。

図1.身の回りの高分子、低分子

 

図2.高分子と低分子の違い

 

2.高分子の〇〇がすごい!1)

先程紹介した低分子の代表例、水は0℃で凍り、100℃で沸騰します。電気分解すれば酸素と水素に一定割合で分解されるので、工業的に酸素や水素をつくるのにも利用されます。このように、低分子はすべて一定割合の原子からできていることがわかります。しかも、ある決まった温度で溶けだしたり沸騰したり、融点や沸騰をもっています。さらに詳しく言うと、各圧力に対応する沸点を示し、水なりベンゼンなりに溶かすとさらりと溶け、ある分量まではきれいに溶けるという、溶けやすさの程度を示す一定の溶解度も持っています。塩にしても砂糖にしてもいずれも低分子なので水の中にいれるとある濃さまではきれいに溶けます。

ところが、高分子というものはそうはいきません。木の葉を水に溶かそうと思ってもさらりとは溶けず、温度を上げてもなお溶けだすことはなく、それが液体に変わり、ある温度で沸騰するというようなことも勿論ありません(図3,図4)。実はこれが高分子のすごいところ、大きな鍵だったのです(つまり、高分子の熱的挙動&溶解性がすごい!)。このことが高分子と低分子の性質の大きな違いを示し、高分子が私たちの生活で色々な役割を担っているのです。

天然に存在する高分子の中でも、タンパク質や核酸、多糖など生体内でつくられる生体高分子は、形態を維持したり、生体内の化学反応の制御や遺伝情報の記憶伝達をするなど、生命体の機能を支えています。そういったものがもし、ある温度になるとどろりと溶けてしまったり、もう少し温度が上がると蒸発してしまったり、雨に濡れてさらりと溶けてしまったりしてはたまったもんじゃありません。そんなことのないように、私たち動植物はちゃんと高分子でできているのです。生き物というものは全くよくできているなと感心するでしょう。このような神業を人間がまねて作り出したのが、今や生活に欠かせないナイロンやポリエステルなどの合成高分子です。なぜ高分子が低分子と同じような融点や沸点を示さず、また溶解しないのかについては、次の章でさらっとお伝えします。

図3.低分子と高分子の熱的挙動

 

図4.低分子と高分子の溶解性

 

3.熱的挙動&溶解性をさらに詳しく2)

まず熱的挙動から説明します。低分子には一般的に、固体、液体、気体という物質の三態があり、融点と沸点が存在しますが、高分子ではまた別の熱的挙動が観測されます。大まかにまとめるとガラス状態、ゴム状態、液体状態の三つです。

ここで少し話はそれますが、高分子は分子鎖が不規則に並んだ非晶性高分子と、分子鎖が規則的に並んで結晶になった結晶性高分子に分類されます。低分子の場合、分子の大きさも小さく、構造もあまり複雑でないのですべての分子が規則的に並んだ結晶にすることができますが、高分子の場合には、それぞれの分子鎖がとても長いうえに分子量に分布があるので、すべてを規則的に並べることは不可能です(図4)。何百人、何千人もの人間を整列させることを想像してみてください。どれだけ難しいか想像にかたくないでしょう。したがって、高分子はふつう結晶領域と非晶領域が混在しています。

図4.低分子と高分子

 

ガラスの状態に近い固体では、温度を上げていくと、ある温度でまず非晶領域の分子鎖が部分的に動き始めます。この部分的な分子鎖の動きをミクロブラウン運動といい、このときの温度をガラス転移点(Tg)といいます。さらに温度を上げていくと分子鎖の動きは活発になりますが、分子鎖が絡み合って外見は固体のままになります。この状態をゴム状態といい、さらに結晶領域の融点に達すると高分子は液体に変化します(図6)。このような性質によって、私たちはある温度で液体になったり気体になったりせずにいられるのです。

図6.高分子のガラス転移点

 

次は、溶解性についてです。まず、衣類繊維としても活躍するセルロースと、セルロースを構成する繰り返し単位グルコースを見比べてみましょう。グルコースの場合は、分子間で水素結合が形成され規則正しく配列された結晶構造を取りますが、この水素結合はそれほど強いものではありません。したがって、水中に入れると水との強い相互作用によって結晶が壊れ水に溶解します。一方、セルロースは、グルコースの脱水縮合によってできた高分子で、水には溶けません。高分子鎖が規則正しく配列し、さらにこの高分子鎖間に強い分子間相互作用が働くので、水と親和性の高いヒドロキシ基を有していますが、水もこの強い分子間相互作用を切ることができません(図7)。このような性質によって、私たちは雨に濡れたりプールで泳いでるうちに溶けてしまったりせずに済むのです。

図7.グルコースとセルロース 3)4)

 

4.高分子のすごいところはそれだけじゃない

もちろん、熱的挙動&溶解性という性質だけで高分子が大切な機能を担っているわけではありまん。他にも、力学的強度ゴム弾性軽量さ耐衝撃性透明性吸水性保水性など様々です。私たちが目が見えるのも、車や飛行機に乗れるのも、これらのおかげなのです。

次回以降の記事では、ここではお話しきれなかった他の性質のすごいところ、高分子の構造や合成について細かく説明したいと思います。

 

参考文献

1)神原周, 高分子の世界, コロナ社, 1961, p1~8

2)小澤美奈子, 高分子学会編 基礎高分子科学, 東京化学同人, 2016, p2~9

3)グルコース: 主要なエネルギー源となる糖 (ultrabem.com)

4)セルロース | 構造生物薬学 (iwate-med.ac.jp)

 

[amazonjs asin=”4807907549″ locale=”JP” title=”基礎高分子科学演習編”][amazonjs asin=”4807906356″ locale=”JP” title=”基礎高分子科学”]
Avatar photo

Monica

投稿者の記事一覧

高分子材料を合成している修士1年生。
本を読むのが大好きです。サイエンス系から、小説、純文学、歴史系まで色んなテーマに興味があります。個人的おススメはサピエンス全史。科学に興味のある方でも楽しめると思います。
実は運動も大好き。フルマラソンもよく走っていたのですが、今はコロナ禍でほとんど中止になってしまいました。

関連記事

  1. 研究室でDIY!~エバポ用真空制御装置をつくろう~ ①
  2. 第32回光学活性化合物シンポジウム
  3. ゲノムDNA中の各種修飾塩基を測定する発光タンパク質構築法を開発…
  4. 配座制御が鍵!(–)-Rauvomine Bの全合成
  5. 電子ノートSignals Notebookを紹介します!④
  6. 第4回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ
  7. 自励振動ポリマーブラシ表面の創製
  8. スケールアップで失敗しないために 反応前の注意点

注目情報

ピックアップ記事

  1. スケールアップのためのインフォマティクス活用 -ラボスケールから工場への展開-
  2. 第三回 北原武教授ー化学と生物の融合、ものつくり
  3. Excelでできる材料開発のためのデータ解析[超入門]-統計の基礎と実験データの把握-
  4. MUKAIYAMA AWARD講演会
  5. 【協業ご検討中の方向け】マイクロ波化学とのコラボレーションの実際
  6. 定番フィルム「ベルビア100」が米国で販売中止。含まれている化学薬品が有害指定に
  7. 健康食品 高まる開発熱 新素材も続々
  8. 松原 亮介 Ryosuke Matsubara
  9. 化学者のためのエレクトロニクス講座~電解パラジウムめっき編~
  10. トレハロースが癒着防止 手術に有効、東大など発表

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年3月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

第37回仙台シンポジウム参加登録開始のご案内

これまで「万有仙台シンポジウム」は、MSD生命科学財団の助成を受けて開催されてまいりましたが、同財団…

デイビッド・サーラ David Sarlah

デイビッド・サーラ(David Sarlah、1983年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国…

第13回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・理工学研究科…

ラジカル機構で一挙に環化!光励起PdによるPAHの合成

可視光励起パラジウムを用いたアリールハライドと末端アルキンのラジカルカスケード環化を報告した。得られ…

【産総研・触媒化学研究部門】新卒・既卒採用情報

触媒部門では、「個の力」でもある触媒化学を基盤としつつも、異分野に積極的に関わる…

励起状態での配位結合解離を利用して二重CPLを示す分子を開発!

第701回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構(IRCCS, 山口茂弘研…

化学・工学・情報系研究者も応募可能! 上原財団の研究助成が40周年で進化

上原記念生命科学財団の助成金をご存知でしょうか。私も2014年に本助成をいただき、その後、研究室を主…

【ナード研究所】新卒採用情報(2027年卒)

NARDでの業務は、「研究すること」。入社から、30代・40代・50代…と、…

【ユシロ】新卒採用情報(2027卒)

ユシロは、創業以来81年間、“油”で「ものづくり」と「人々の暮らし」を支え続けている化学メーカーです…

岡田洋平 Yohei OKADA

岡田 洋平(Yohei Okada, 1984年8月9日- )は、日本の有機化学者である。専…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP