[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

高分子固体電解質をAIで自動設計

[スポンサーリンク]

第406回のスポットライトリサーチは、早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 小柳津・須賀研究室の畠山 歓(はたけやま かん)講師にお願いしました。

小柳津・須賀研究室では、新しい機能性高分子の創出を目指しており、その例として、レドックス反応に基づき電気や水素を可逆に貯められるポリマー、光学材料、ホール輸送材料、機能性コーティングなどを研究しています。ゴムのように伸びる二次電池など、ポリマーの特性を活かしたユニークなエネルギーデバイスも報告してきました。最近はデータ科学を活用した材料開発(マテリアルズ・インフォマティクス)にも取り組んでいます。

本プレスリリースはAIを用いた固体電解質の設計についてで、AIを用いた分子設計はいろいろな分野で利用が検討されていますが、限られた情報しか学習していないAIは、分子設計の総合的なセンスが欠落することがあり、社会実装には適さない候補構造ばかりが提案されることが大きな課題となっていました。そこでAIを用いたアルゴリズムによって材料が満たすべき分子構造の特徴を自動定義し、さらに膨大な候補群の中から最適な分子設計を富士通の「デジタルアニーラ」で高速抽出する方法の開発を行いました。

この研究成果は、「Macromolecular Rapid Communications」誌およびプレスリリースに公開されています。

Automated Design of Li+-Conducting Polymer by Quantum-Inspired Annealing

Kan Hatakeyama-Sato, Hiroki Adachi, Momoka Umeki, Takahiro Kashikawa, Koichi Kimura, Kenichi Oyaizu

Macromol. Rapid Commun. (2022)
DOI:10.1002/marc.202200385

研究室を主宰されている小柳津 研一 教授より畠山 先生についてコメントを頂戴いたしました!

畠山先生は2018年にレドックス活性ポリマーの合成と二次電池利用に関する研究で学位を取得しました。その後スタッフとして、これまでの研究と並列しながら、新たにマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の研究にも取り組んでいます。MIは、機能性高分子の合成をメインテーマに置く当研究室にも新たな切り口を与えています。また、学会発表や多くの論文出版を通じて、畠山先生は当該分野の若手の旗手として、ますます存在感を高めています。今後の更なる研究展開を期待しています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

いわゆるAI技術を駆使して、全固体リチウムイオン電池の部材として使える新しい高分子固体電解質を設計・合成しました。

我々は以前の研究で、分子構造からイオン伝導度を予測可能なAI(教師あり機械学習モデル)を報告しました。今回の研究は「逆問題」と呼ばれるタスクに挑戦し、分子構造そのものをAIに提示させることを目指しました。

一般に逆問題を解くのは困難とされています。現行のAIは特定のデータベースのような限られた情報にしかアクセスできず、人間が講義や実際の研究を通して会得する知識や視点を持てないことが一因です。そのため、AIは特定の性能は優れていていながらも、合成困難・不安定・機械強度が不足といった欠点を持つ、ちぐはぐな分子構造ばかりを提案する傾向にありました。

我々は一旦、こうした要素を明示的にAIに教え込むことを辞めました。あまりにも手間がかかるからです。代わりに、既に実績のある電解質群の分子構造の特徴をAI(教師なし機械学習モデル)に学習させ、そこからインスパイアされた構造を探索することにしました。研究者もしばしば類似構造を起点に分子設計を進めますので、人間臭い(ヒューリスティックな)手法とも言えます。

これにより、伝導度と電解質に必要な基本性質と両立した分子設計をAIを提示できるようになりました。イオン伝導体としては一風変わった構造をしていたものの、全固体電池の電解質として動作可能なことを実験的にも明らかにしました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

機能性高分子の実験研究を専門に学位取得後、データ科学をゼロから勉強しながら研究を進めました。システム実装には回帰モデルに加え、教師無し学習(制限ボルツマンマシン)、深層強化学習(分子生成)、量子アニーリング技術など、古今東西の手法を組み合わせました。研究を通し、未知の分野に挑戦できたことは幸運でした。

AIの勉強が進み、その限界も見えてきました。実験者としては「合成が容易で、高温や電極反応に耐え、強靱で、伝導度もそこそこ高い」高分子が欲しかったのですが、データベースの構築コスト等を踏まえると、その全てをAIに考慮させるのは無理でした。視点を変えたアプローチにより、化学知識を持たないAIであっても、そこそこ洗練された分子設計を提示できるようになり、嬉しく思っています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

ほぼ無限の組み合わせがある分子設計の中から、種々の仕様に沿った候補構造を抽出する必要があります。これはコンピュータにとっても難題です。対応策として、今回は共著の富士通が開発したデジタルアニーラと呼ばれるマシンを導入しました。量子コンピュータの一種であるアニーラに着想を得た技術で、膨大な組み合わせの中から効率的に解を探索できます。先端技術の導入が、一つの突破口になったと言えます。

また、私は実験屋ですので、一連の手法を「役に立つデータ科学」として昇華し、材料実験での検証に繋げることがミッションです。今回の研究も含め、AI予測が大外れすることは日常茶飯事です。理論と現実の乖離に四苦八苦しながら、好奇心と粘り強さで乗り切っています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

やりたいことのうち、幾つかを列挙します。1人ではとてもカバーできないので、同志やご協力頂ける方を募集中です。

  • プロセスインフォマティクス: 日々の材料実験をデジタル記録・クラウド管理し、AIが自動解析するシステムを目指しています。電子実験ノートを世界中の研究者・AIでシェアできたら良いと思いませんか?
  • 量子コンピューティング: ワクワクする技術なので、少しずつ研究中です。
  • 敷居の低いデータ解析ツール: 現状はプログラミングがほぼ必須なので、誰でも使える材料データの解析ツールの整備が必要です。
  • 新規材料の創出: 実験屋として、データ科学の手法、そしてロボット等も使いながら、主にエネルギー・環境問題に貢献できる新材料を作っていきたいと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

データ科学は特に若い方々にお勧めです。大半の先端研究やプログラムコードはインターネットにアップロードされ、誰でもアクセスできます。プログラミングを体得するには沢山の時間がかかりますが、年を取るほど諸業務が増え、勉強の機会も限られます。よって、時間に余裕のある若者に有利な分野です。

データ科学を学ぶと、日々の実験結果を高速・客観的に処理できるようになるかもしれません。さらには、化学の叡智を学んだ万能AI(!?)や、超絶技巧を持つロボット化学者が出てくる可能性もあります。是非、一緒に新分野に挑戦してくれる人が増えることを期待しています。

研究者の略歴

名前: 畠山 歓

所属: 早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 小柳津・須賀研究室

職位: 講師(任期付)

経歴など:

2009年4月 – 2013年3月 早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 (西出宏之 教授・小柳津研一 教授, 以下同)

2013年4月 – 2015年3月 早稲田大学 先進理工学研究科 応用化学専攻

2015年4月 – 2018年3月 早稲田大学 先進理工学研究科 先進理工学専攻

2018年4月 – 2023年3月 早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 講師(任期付)

研究テーマ: 機能性高分子、マテリアルズ・インフォマティクス、有機電気化学

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 最期の病:悪液質
  2. 誰でも使えるイオンクロマトグラフ 「Eco IC」新発売:メトロ…
  3. 化学コミュニケーション賞2026、候補者募集開始!
  4. 日本化学会 第106春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン P…
  5. ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2020年版】
  6. 受賞者は1000人以上!”21世紀のノーベル賞…
  7. 金属ナトリウム分散体(SD Super Fine ™…
  8. 有機合成化学協会誌2023年9月号:大村天然物・ストロファステロ…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ちっちゃい異性を好む不思議な生物の愛を仲立ちするフェロモン
  2. シクロファン+ペリレンビスイミドで芳香環を認識
  3. 記事評価&コメントウィジェットを導入
  4. 化学療法と抗がん剤の併用で進行期非扁平非小細胞肺癌の生存期間延長
  5. 【9月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】有機金属化合物 オルガチックスを用いたゾルゲル法とプロセス制御ノウハウ①
  6. なぜあなたは論文が書けないのか
  7. 第47回天然有機化合物討論会
  8. 高純度フッ化水素酸のあれこれまとめ その1
  9. 化学 美しい原理と恵み (サイエンス・パレット)
  10. 高収率・高選択性―信頼性の限界はどこにある?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年8月
月 火 水 木 金 土 日
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

ハロゲンの力で強力な結合を切断!天然物クマリンから医薬品・機能性材料原料のクマラノン類へ

第 722 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合…

観察を写真で残す!カメラ内蔵リアクタ EasyMax 102i を使ってみた

反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。とこ…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年9月版】

2026年9月にケムステでは21本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP