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化学者のつぶやき

化学研究ライフハック: 研究現場のGTD式タスク管理

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 今日はこれこれこういった実験をやるかな。この反応を仕込んで、待ってる間にNMRをとって、昨日やった反応をワークアップして・・・あ、そういや2日後は研究発表の担当だった。スライド作らなきゃなぁ・・・しまった、忘れてたけど夕方は文献輪読会があるじゃないか。それに近々彼女の誕生日のためのプレゼント買わなきゃだし・・・

空いてる時間に論文読みたいけど、うう、忙しすぎて面倒で、なんかどれもやる気無くなってきたなぁ・・・こんなだとプラスアルファの勉強なんて、落ち着いて出来たものじゃない。最近毎日こんなことばっかりな気がするよ・・・本当にこのままでいいんだろうか?

皆さんは、上記の様なことを1度でも感じたことは無いでしょうか?

研究作業・事務仕事・プライベートいずれにせよ、多数のタスクが並行して複雑に絡み合っているのが日々の現実です。それを上手く捌いていくためには、計画的に物事をすすめる方法論が必須となります。

しかし、一日のうち「何時から何時までこの仕事をやるんだ!」「今日これが終わったら次はこれだ!」といった計画を立てたとしても、実のところうまく機能してくれません。その結果、上記の様に思い悩むことも増えてしまいます。

果ての無い研究活動に取り組むようになってから筆者は、Getting Things Done(GTD)という考え方をアレンジして取り入れ、毎日のタスク処理に役立てています。これはなかなかに良いやり方で、大変気に入っています。

今回は、GTD方式のタスク処理術について、研究生活での実例を交えながら簡単にご紹介しましょう。

「夏休みの計画表」から脱却しよう

世間は夏休み真っ盛りですが、皆さんは小学校の時に、夏休みの計画表を書かされた経験はないでしょうか? これは、円グラフやタイムラインシートに、時間の使い方や宿題計画を書かせて決めさせるという、一種の教育メソッドです。

毎日の「食事・睡眠・勉強・自由時間」に始まり、「友達と会う時間帯や掃除時間」などまで、すべて円グラフに書いて提出させられ、大きなお世話だと筆者は当時思ったものですが・・・。

summer_planing.png

 

このやり方自体、全く効果がないわけではありません。

厳密に言えば、コンスタントな努力でケリが付く「範囲が決まっていて変化しない仕事・作業」をこなすには効果的です。つまり、学校の宿題や受験勉強などを計画的に片付けさせる目的には向いています(だから学校の先生は、こういう計画を好きこのんで書かせるわけですね)。

その一方で、先端の知的労働・研究作業・プライベートな出来事などのように、「終わりがはっきりしない仕事」をこなしていくには、あまり役立ちません。

この計画法の問題は、予期せぬイベントの発生に弱すぎる点にあります。つまりやるべき仕事内容が変わったりした場合に、甚だ融通が利かないのです。

電話・メールの応対・上司からの依頼etcなど、想定外の仕事が降ってくるのは現場での茶飯事なのですが、そういうことを処理するための枠組みが、「夏休みの計画表」にはありません。想定外の横やりが入った結果、手を付けてる仕事をどこまで片付けてしまうのが良いのか分からなくなってしまう、混乱して計画通り進める事が出来なくなってしまうといったことが、往々にして起こりえます。

しかし多くの人は、「何時から何時までこれをやって、終わったら即座に次に取りかかる、そういうふうに一日の計画は立てるものだ」という、『夏休み表固定観念』を、小学校で刷り込まれてしまってるわけです。そういったやりかたに固執してしまうと、臨機応変な対応が求められる現場では、計画通りいかないことに悩み続けるハメになります。

円グラフ通りに日常生活を営むことが出来れば、苦労なんてどこにもありません。しかしその通り生活出
来てた子供など、1度も見たことがありません。「夏休み計画表」方式があまり現実的でないことは、小学生でも理解できてしかるべきこと――というワケです。

さて、それでは現実問題としてどうすればいいのでしょうか?――そういう「タスク管理の問題」に有効な視点を与えてくれるのが、Getting Things Done(GTD)という考え方です。

 

GTD式ToDo管理:筆者の実施例

GTDとは、David Allenという人が提唱した仕事術(ライフハック)における定番概念です。用語も格好良くて今風です。しかしかつて耳にしたことがあったとしても、中身を理解してる人は意外と少ないのではないでしょうか?

その詳しい理論についてはWikipediaや記事末尾の関連書籍・関連リンクに譲るとして、ここでは具体的に筆者が実行してることをお話ししましょう。

実のトコロ、やってることはきわめて簡単です。

【一日のうちにやるべきことを、毎日朝イチで全てリストアップして書き出し、終わったらリストから消す】

これだけです。

具体的には、毎朝(もしくは前日の帰宅前)ラボに来たらすぐ、ミスプリントの裏に「今日やることリスト(ToDoリスト)」を作ります。それをデスクの目に付くとこに置いて仕事をします。
PC上でもリストは作れますが、一日で使い捨てるものですし、構造式や反応スキームも書きたいので、筆者は手書きしています。

todo_1.gif

朝イチ作成リストの例

想定拘束時間を簡単にメモしておくと、時間配分の参考に出来ます。

できること、やりたいこと、やるべきことから取り組んで行き、終わったら二重線で消します。順番通りやることにこだわる必要はありません。

もしも予期せぬ仕事が降ってきたら、その都度ToDoリストに書き加えます。

明日やっても間に合うような仕事ならば、無理してやらない(書き込まない)ようにします。
急ぎの仕事ならば、時間的に今日出来そうにない仕事、優先度の低い仕事を後回しにします(二重線を引いて消す)。

最終的に全部が二重線で消されれば、今日の仕事は終了!というわけです。

todo_2.gif

数時間経過後の例

 

実行にあたって、以下のポイントには注意を払っています。

・面倒でも、朝イチに全部リストアップしてしまう
・「何時から何時まではこれをやる」という書き方をしない(予定が動かせないケースを除く)
・嫌でも目に付くところに貼っておく(もしくは置いておく)
・優先順位は、リストアップされた作業限定で付ける 他の要素を入れない
・リストアップされてないことは、極力やろうとしない
・時間が余ったら、次の仕事に手を付けず、自分の成長になるプラスアルファ作業に回す

「12時間の割り当て」「やらなくて良いことはやらない」という考え方

普通の人が一日に使える仕事時間は、少々の個人差はあれども、ほとんど共通と言って良いです。

食事時間を除けば7~8時間、多くても12時間程度でしょう。

「夏休みの計画表方式」で、次から次へと詰め込んで順番に片付けようとすると、当然ながら一生懸命やってるうちに12時間使うことができてしまいます。

宿題とは性質の異なる「終わりなき作業」だからです。

それをモチベーションを持って一生懸命やれるうちは、もちろん充実した生活が送れます。

しかし仕事に慣れて処理速度が上がった結果、仕事の詰め込みをし出すと、残りの仕事ばかり目がいくようになります。仕事は無限にあるので、結局いっぱいいっぱいなままに毎日を過ごすことになってしまいます。

また、長期にわたる仕事を続けてマンネリになると、日々達成感に欠けてくる事態にも陥りがちです。

 

そこでこのようなToDoリストアップ方式でタスク管理をすると、一つ一つクリアしていく達成感が維持できますし、「12時間をどう振り分けるべきか」「やらなくて良いことはやらない」という考え方で、仕事のアレンジができるようになってきます。

どんな順番で終わらせてもトータルの所用時間は一緒ですから、こういう考え方で進めても、全く問題ありません。

一種の「発想の転換」ですが、この「朝イチリストアップ作業」によるGTDを徹底するだけで、時間の使い方に関する意識がかなり変わってきます。そして、途方もない作業量にうんざりすると言うことも減ってきます。

 

長時間やればやるだけ良い結果が出る、という考え方は、全くのマチガイですね。優れた結果を出すために労働することは必要であっても、それで十分ではありません。そんな取り組み方で良ければ、研究なんてとてもカンタンなもんでは?

それでも多くの日本のラボ・職場では、とにかく実験台の前に向かうことを強制する風潮が強いです。(一旦そんな空気におかれてしまうと、文句言いつつもマ
ジメに働いちゃうのが日本人なんで、上司にとってはそうしない理由が無いのですけどね!)

とはいえ、徹夜し続けてアタマも動く、若いうちにはそれで何とかなっても、長く研究を続けるにはやはりいつか「メリハリを付けて研究する」姿勢を学びたいところですね。そういうスタイルを意識したのは、正直言えば筆者自身も海外に出てからです。

適切な時点で海外留学することは、異なるスタンスを学べる、という点でも意義深いです。しかし最近日本の若者は、海外に出たがらない方向になりつつあり残念ですが、まぁそれには諸々の社会背景的理由があるようで・・・その辺りはまた後日述べましょう。

 

ともあれ、「どういう風に目先の仕事を片付けていけば良いのか?」ということにお悩みの方は、ぜひ1度実践されてみてはいかがでしょうか。

 

関連書籍

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関連リンク

もっと詳しいことが知りたい方は、Getting Things DoneもしくはGTDという単語で検索をかけると、沢山のネット記事が出てきます。分かりやすい日本語入門記事を、以下に紹介しておきます。

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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