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化学企業が相次いで学会や顧客から表彰される

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武蔵エナジーソリューションズ株式会社に所属する研究者が、2022年度電気化学会技術賞(棚橋賞)を受賞しました。受賞した題目は「低抵抗3000 F 大型リチウムイオンキャパシタの開発と民生品への応用」です。(引用:PRTIMES12月27日)

JSR株式会社は、2021年12月16 日にTSMC社より、Excellent Performance Award (Excellent Technology Collaboration) を受賞しました。JSRは今回、材料開発、技術サポート、高品質製品の安定供給に関する貢献が認められ、本賞を受賞しました。(引用:JSRプレスリリース12月23日)

三井化学株式会社は、スイスに拠点を置くグローバル医薬品メーカーのDebiopharm社から2020年度ベストサプライヤー賞を受賞し、2021年10月7日にオンラインによる表彰式が開催されました。2019年度に続き、二度目の受賞となります。(引用:三井化学プレスリリース12月8日)

太陽インキ製造株式会社は、「新規樹脂を用いた高周波対応熱硬化型フィルム」で第17回JPCA賞(アワード)を受賞しました。本開発品は、次世代通信規格5Gの高周波帯域で使用される電子機器向けに、太陽ホールディングス研究部門と太陽インキ製造が共同開発した素材です。(引用:太陽ホールディングスプレスリリース10月29日)

2021年の10月から年末に発表された化学品に関する技術賞・サプライヤー賞をいくつか紹介します。

まず、武蔵エナジーソリューションズの受賞についてですが、リチウムイオンキャパシタという電子部品の開発で電気化学会技術賞を受賞しました。

キャパシタはコンデンサとも呼ばれる電子部品の一種で、短時間で電気を蓄えたり放出する機能を持っています。電気を充放電する機器で一般的に有名なのは電池ですが、コンデンサは電池とは異なり蓄えられる電気(電荷)は少ないものの充放電速度が早いのが特徴です。リチウムイオンキャパシタは、静電気で電荷の授受を行う電気二重層キャパシタと化学反応で電荷の授受を行うリチウムイオン電池を組み合わせた仕組みを持ち、負極では酸化還元反応、正極では誘電と分極で電荷の移動が起きます。電気的にも二つを組み合わせたような特性を持ち、電気二重層キャパシタよりも貯蔵できるエネルギー密度は高いもののリチウムイオン電池よりも高い出力を持っています。応用としては、瞬間停電・電圧低下から機器を守るためや燃料電池自動車の補助電源などがあります。

リチウムイオンキャパシタの紹介(0:25から)

武蔵エナジーソリューションズでは、このリチウムイオンキャパシタの製品開発を進めてきており、セルの低抵抗化することで大型で大容量のリチウムイオンキャパシタの開発を行ってきました。その結果、低抵抗3000 F(ファラッド) 大型リチウムイオンキャパシタの開発で電気化学会技術賞を受賞しました。受賞対象の技術について詳細は公開されていませんが、大型化に際して電気抵抗が増加するのをキャパシタの構造や使用される素材を改良して抑える技術開発があったと予想されます。

武蔵エナジーソリューションズのリチウムイオンキャパシタ

二つ目と三つ目のニュースは顧客から送られた賞で、JSRは半導体大手のTSMCよりExcellent Performance Award (Excellent Technology Collaboration) を受賞しました。

JSRでは、フォトレジストをはじめとするリソグラフィー材料や化学的機械的研磨用のスラリー、洗浄剤を製造しており、これらの材料開発、技術サポート、高品質製品の安定供給に関する貢献が認められ受賞に至ったようです。JSRのほかに、信越化学SUMCOキャノン東京エレクトロンも2021 TSMC Excellent Performance Awardを受賞しています。半導体の微細化によって、材料や製造機器に求められるパフォーマンスも高くなっていて特に材料については、高い純度と安定供給性が求められており、過去には品質不良で多額の損失が出たこともあります。予想外のことが頻繁に起こる昨今の状況の中で、安定供給をチームで達成してきたからこそ表彰されたのだと思います。

三井化学では、徐放性トリプトレリン製剤の主原料であるPLGA(ポリ乳酸・グリコール酸共重合体)をDebiopharm社に約25年間にわたり供給しており今回、その安定供給と品質改善が高く評価され受賞されたそうです。共重合体によってカプセル化された化合物は、体内で徐々に血中に放出され、少ない注射回数でも長く効果が持続します。Debiopharm社の徐放性トリプトレリン製剤注射剤は前立腺癌や子宮内膜症の治療薬として、現在90か国以上で販売されているそうです。長きにわたって安定的に化学品を製造することは難しく、自社だけでなく原材料の購入先のトラブルによっても製造が止まることがあります。そのため、原料の入手先を複数にしておくこともよく行われますが、入手先によって品質が異なることもあり、自社の製品の品質に影響が出ないようにするのは簡単ではありません。各部署の長年の努力がカスタマーからの表彰につながったと予想されます。

トリプトレリンの構造

太陽インキ製造株式会社では、電子回路・半導体パッケージ用の絶縁材を製造しています。携帯各社4Gより高速で通信できる5Gのサービスを始めておりますが、なるべく通信速度を上げるには5Gに使われる周波数のうち、ミリ波と呼ばれる30GHz帯から300GHz帯の電波に対応する必要があります。電子デバイスの中の工夫として伝送損失を少なくすることが挙げられ、誘電率の1/2乗に比例して損失が大きくなっていくことから誘電率の低い電子デバイス向け基材が求められています。そこで電気特性に優れた熱可塑性樹脂であるPPEを変性し、新しい熱硬化型樹脂を合成し、配合を調製することで電気特性、加工性、信頼性に優れた高周波対応熱硬化型フィルムを開発しました。

受賞対象となった熱硬化型絶縁材料ドライフィルム(Zaristo700)(出典:太陽ホールディングスプレスリリース

日本電子回路工業会(Japan Electronics Packaging and Circuits Association)は、電子回路製造業の業界団体で、毎年電子機器トータルソリューション展を運営しています。その中で電子回路技術及び産業の進歩発展に顕著な製品・技術への表彰制度としてJPCA賞を設定しています。他の材料系の受賞企業として大阪有機化学工業が挙げられ、高伸張アクリル系エラストマーおよび伸縮性導電材料の開発で受賞しました。

5Gの発展には化学の関連は薄いと考えており、低誘電率の素材開発が必要ということに驚きを感じました。他分野の技術革新に対しても素材開発で性能をさらに高められることが示された例だと思います。

製品に関連する技術が表彰されたり、顧客から公開された表彰を受けることは稀であり、新製品の受注が決まったり、特許が登録されたりする方がより身近な成果だと思います。特許登録や新製品の完成でさえも開発スタートから何年も関わる場合もあり、成果に結びつくまでに時間がかかります。そのため製品化という最終ゴールにうまくたどり着けるように、メンバーのモチベーションを保つ環境を整備している企業が成長し続けるのではないでしょうか。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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