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【ケムステSlackに訊いてみた②】化学者に数学は必要なのか?

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日本初のオープン化学コミュニティ・ケムステSlackの質問チャンネルに流れてきたQ&Aの紹介シリーズです。実は専門的な質問以外にも、気軽なヒアリングやアンケート、化学者の生態や考え方を知るための質問なんかも飛び交っています。

第2段はそんな一例として、下記の質問を取り上げてみます。

Q. 僕は難解だからという理由で数学を避けてきたのですが、やはり化学者としては不可欠なツールなのでしょうか?皆様のご意見をお聞かせください。

確かにこれは気になる点ですね。筆者としても世の皆さんがどういうスタンスであるのか、率直に尋ねてみたいところです。スレッドで出てきた回答を紹介してみましょう。

A1. 私は有機化学に特化してます。四則計算と六角形を書くことができれは充分やっていけますよ!!(実際複雑な数学は全く使っていない)

筆者も有機化学が専門ですので、この回答者とほぼ同じノリです。使うとしても線形近似とか統計的なところが多いのですが、実験目的には数値解さえ出ればいいので、Excelでちょちょいのちょいで終わるレベルです。

A2. できないなら化学者ではないかと言われれば、できなくても化学はできるでしょう(できるに超したことはない)。ただ、できない人が多い中でできることは一種のアドバンテージになります。例えば、有機化学系の人が、計算化学も趣味レベルで嗜んでるとします。計算化学を全く理解していない(ボタンを押すだけでしょって人)と趣味でやってる人、どちらが円滑に進められるかと考えることもできるかと思います

数学できるといいなぁと思ったことは、筆者自身少なからずありますが、できることを伸ばすことがやはり何にも増して重要だとは思います。「強み」とは一体何なのか?という観点からも、的を射たコメントですね。価値とはすなわち希少性なのです。

A3.  有機化学全くわかりませんが、計算機で作ったものは専門の人が評価してくれるので、計算しかできなくても化学者ですよ。

もの作りだけが化学なのかというと、そういうわけでもないですよね。いろんな見方が化学にはあって良いと思います。これからは実験化学者といえども計算機やAIにいろんな判断を頼ることになりそうなので、数学強い方はそういう方面から化学を発展させてくれれば有難いと思います。

A4.  化学と一口に言ってもカバーする範囲が広いので、数学が重要になってくるかどうかは分野次第と思います。難解だという理由だけで食わず嫌いするのはもったいないかなとは思います。私も学部時代は数学も物理化学も難解に感じて勉強も続かず、全く成績もよくなかったですが、自学自習を繰り返していくうちにだんだん面白くなってました。すっかりハマって、今は楽しく物理化学の研究者をやっています。初めは苦手だと思いこんでいたのですが、意外と向いていたということなんでしょうね。今は先入観を持ちすぎず好奇心が赴くままにいろいろ勉強してみて、様々な分野の奥の深さに触れてみると良いと思います。その中で、心底ハマれる分野に出会えたらよいですね!

筆者個人も「分野次第」という見方に同意します。合成化学は数学からかなり疎遠ですが、物理系や分析系に近づくと相応の数学話が出てくるように思えています。結晶学などは数学的な思考が必要ですし、NMRにしても原理を理解するには数学が要ります。計算化学は専門レベルでは確かに数学的素養が多々必要にも感じるのですが、実験結果のサポートで使う程度であれば、中身の数学はさほど深掘りせずとも良く、ツールとしてのソフトウェアや分析機器を使いこなせればOKに思えます。とはいえ数学が必要であれば覚えますし、やって分かるようになれば楽しくなっていく、というのもまた真理なのだと思います。

 

化学のオープンコミュニティ・ケムステSlack

実はケムステSlack内にも「数学」チャンネルが存在しています。まだまだ活発ではありませんが、是非やりとりして盛り上げていっていただければと思います。興味を持たれた方は、こちらのケムステSlack開設時の記事をご覧下さい。一緒に化学を楽しみ、盛り上げる仲間になっていただけると幸いです!

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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