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ヨウ化サマリウム(II) Samarium(II) Iodide SmI2

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 概要

ヨウ化サマリウム(II) SmI2は穏和な一電子還元剤であり、カルボニル化合物、ハロゲン化物、電子不足オレフィンなどを還元的に変換する。

上記以外の応用としては、ピナコールカップリングアルキル-カルボニルカップリング脱酸素化反応Reformatsky反応ラジカル環化などがあげられる。

とりわけ近年では添加剤効果の研究が進んでいる。

 

基本文献

  • Girard, P.; Namy, J. L.; Kagan, H. B. J. Am. Chem. Soc. 1980, 102, 2693. DOI: 10.1021/ja00528a029

<Review>

 

反応機構

添加剤によって反応性が大きく変化することが知られている。とりわけHMPAやEt3Nのようなルイス塩基と、t-BuOHやH2Oといったプロトン源の添加によって化学選択性や還元力が改善される。 SmI2_3.png (Chem. Soc. Rev. 2013, 42, 9155より引用)

反応例

SmI2-amine-H2O系は、反応しづらいエステル・カルボン酸すら上手く還元できる。[1] SmI2_7.gif

 

(+)-Pleuromutilinの合成[2]:LiAlH4還元では21%収率にとどまる。 SmI2_8.gif

 

Ts基の穏和な脱保護条件として重宝される。[3] SmI2_9.gif

 

Maoecrystal Zの全合成[4] :臭化物アニオンをもつ試薬がヨウ化物・塩化物よりも良い結果を与えた。 SmI2_2.gif

 

Halavenの大量合成[5]:条件を精査することにより精密な選択的還元を実現している。 SmI2_4.gif

 

Atractyligeninの全合成[6] :axial位esterを配向基として高立体選択的な還元が実現されている。 SmI2_5.gif

 

アリルエーテルの選択的脱保護に用いることが出来る。[7] SmI2_6.gif

 

実験手順

SmI2の調製法[8] SmI2_10.gif

金属サマリウム(1.65g,11.0 mmol)と精製済1,2-ジヨードエタン(1.55g, 5.5 mmol)をテフロン攪拌子を備えた加熱乾燥済100mL丸底フラスコに加え、内部をアルゴン置換する。攪拌しながらTHF (55 mL)を加え、適宜真空引き-アルゴン置換を繰り返す(エチレンガスを除くため)。 Overnight攪拌により0.1M溶液を得る。

ジヨードエタンの精製法[8]

1,2-ジヨードエタン(20 g)のエーテル(約400mL)溶液をチオ硫酸ナトリウム水溶液(5×100 mL)、水(1×100mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥する。その後濃縮することで白色固体を得る。容器をアルミホイルで覆い減圧乾燥を30分行うことで目的物を得る。

 

実験のコツ・テクニック

※ SmI2は酸素に敏感なので、凍結脱気した溶媒を用い、アルゴン雰囲気下で保存する。
※ SmI2の品質に最も影響を与えるのは水や酸素よりも、金属サマリウムの品質だとする検討結果が知られている[8]。

ヨウ化サマリウムの色は以下の通りである。

nprot.2012.034-F5(a) SmI2 in THF溶液(青色) (b)  SmI2-H2O 溶液 (ワイン赤色). (c) 反応終了後 (白黄色)DOI:10.1038/nprot.2012.034

 

参考文献

[1] (a) Szostak, M.; Spain, M.; Procter, D. J. Chem. Commun. 2011, 47, 10254. DOI: 10.1039/C1CC14014K (b) Szostak, M.; Spain, M.; Procter, D. J. Org. Lett. 2012, 14, 840. DOI: 10.1021/ol203361k

[2] Fazakerley, N. J.; Helm, M. D.; Procter, D. J. Chem. Eur. J. 2013, 19, 6718. DOI: 10.1002/chem.201300968

[3] Ankner, T.; Hilmersson, G. Org. Lett. 2009, 11, 503. DOI: 10.1021/ol802243d

[4] Cha, J. Y.; Yeoman, J. T. S.; Reisman, S. E. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 14964. DOI: 10.1021/ja2073356

[5] Eisai Inc, Synlett 2013, 333. DOI: 10.1055/s-0032-1318026

[6] Singh, A. K.; Bakshi, R. K.; Corey, E. J. J. Am. Chem. Soc. 1987, 109, 6187. DOI: 10.1021/ja00254a051

[7] Dahlen, A.; Sundgren, A.; Lahmann, M.; Oscarson, S.; Hilmersson, G. Org. Lett. 2003, 5, 4085. doi:10.1021/ol0354831

[8] Szostak, M.; Spain, M.; Procter, D. J. J. Org. Chem. 2012, 77, 3049. DOI: 10.1021/jo300135v

[9] Szostak, M.; Spain, M.: Procter, D. J. Nature Protocols, 2012,  7, 970. DOI:10.1038/nprot.2012.034

 

関連書籍

 

外部リンク

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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