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マーデルング インドール合成/Madelung Indole Synthesis

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概要

マーデルング インドール合成(Madelung Indole Synthesis)は、ドイツの化学者 Walter Madelung が 1912 年に報告した、塩基性・熱的な分子内環化によるインドール環構築反応である。[1]

N-(2-アルキルフェニル)アミドを強塩基で処理して高温で加熱すると、o-アルキル基のベンジル位炭素とアミドのカルボニル炭素の間で分子内環化が起こり、2-置換インドールが得られる。塩基による熱的環化でインドール骨格を組み上げる数少ない古典的手法の一つである。[1][8]

反応が成立するには、環化する炭素求核種を生じるために o-位アルキル基のベンジル位に酸性水素が存在することが必須である。古典的条件は非常に過酷(ナトリウムアルコキシドやナトリウムアミドを用い 200–400 °C)で、主に他の位置に官能基をもたない単純な 2-アルキル/2-アリールインドールの合成に用いられてきた。その後、有機リチウム塩基を用いる改良法により、より温和な条件・広い基質適用範囲へと発展している。[2][7][8]

反応機構

一般に受け入れられている機構は以下の通り。[1][8]

  1. 強塩基がアミドの N–H とベンジル位(o-アルキル基)の C–H の双方を脱プロトン化し、ジアニオン種を生じる。
  2. 生じたベンジル位カルバニオンが、同一分子内のアミドカルボニル炭素へ求核付加し、五員環(2-ヒドロキシインドリン型のアルコキシド、いわゆるカルビノールアミン型中間体)を形成する。
  3. 続く脱水(β-脱離/E1cb 型の脱離)により C2–C3 間に二重結合が生じ、2-置換インドールへと芳香化する。

特徴・適用範囲・類似反応との比較

強み
  • ハロゲン化・遷移金属を使わずに、o-アルキルアニリン由来のアミドから直接 2-置換インドールを構築できる。求電子芳香族置換では作りにくい 2-アルキル/2-アリールインドールに有効。[8]
  • 芳香環上に電子供与基をもつ基質では比較的高収率になりやすい傾向が報告されている。[1]
弱み・限界
  • 古典条件は強塩基・高温(200–400 °C)と過酷で、塩基や熱に弱い官能基をもつ基質には適用しにくい(官能基許容性が低い)。[2][8]
  • 主に単純な 2-置換インドールの合成に限られ、電子求引基をもつ芳香環基質では収率が低下する傾向がある。[1]
  • o-位アルキル基のベンジル位に酸性水素が必要という構造的制約がある。
改良法
  • 改良マーデルング(Houlihan 法):塩基に n-ブチルリチウムや LDA を用い、THF 中 −20〜25 °C 程度で反応させることで、古典法の高温を回避し実用性を大きく高めた。3-置換体などへの展開も報告されている。[2][3][6]
  • Smith 変法(Smith インドール合成):2-アルキル-N-トリメチルシリルアニリンから調製した有機リチウム種を、エステルやカルボン酸と縮合させてインドールを構築する。分子内 Peterson 型オレフィン化を経るのが特徴で、アルキル・メトキシ・ハロゲンなど多様な置換アニリンや、エノール化しないエステル・ラクトンにも適用できる。[7][9]
  • 遷移金属触媒・ワンポット型:銅触媒によるアミド化/縮合を組み合わせた Madelung 型ワンポット合成(Kondo ら)[10]、3-トシル/3-シアノ-1,2-二置換インドールへのワンポット改良法(2022)[11]、および LiN(SiMe₃)₂/CsF 系による遷移金属フリーのタンデム型(メチルエステルと N-アルキル-o-トルイジンから 2-アリールインドール、Ma ら 2023)[12] などが近年報告されている。
反応 主な出発物 典型条件 得意な生成物 使いどころ
マーデルング法 o-アルキル-N-アシルアニリン 強塩基・高温(改良法は有機Li・低温) 2-アルキル/2-アリールインドール o-アルキルアニリンのアミドが手元にあり、強塩基条件(または有機Li改良法)が許容できるとき[2][8]
フィッシャー法 アリールヒドラジン+ケトン/アルデヒド 酸触媒・加熱 2,3-二置換インドール 最も汎用。対応するケトンが入手容易なとき
レイングルーバー・バッチョ法 o-ニトロトルエン誘導体 DMF-DMA→還元 2,3-無置換・4〜7位置換インドール 温和・大スケール向き
ラロック法 o-ヨードアニリン+内部アルキン Pd触媒・塩基 2,3-二置換(位置選択的) 官能基許容性・位置選択性を重視するとき
バートリ法 o-置換ニトロアレーン+ビニルGrignard 低温 7-置換インドール 7位置換体を狙うとき
福山法 o-イソシアノスチレン等(チオール/ラジカル) ラジカル/温和 2,3-二置換インドール 複雑天然物合成での温和な環化

反応例

古典的実施例[1][8]
  • N-ベンゾイル-o-トルイジン(N-(2-メチルフェニル)ベンズアミド)を 2 当量のナトリウムエトキシドとともに無空気下で加熱 → 2-フェニルインドール。
  • o-アセトトルイジド(N-(2-メチルフェニル)アセトアミド)を強塩基(NaNH₂ 等)・高温で処理 → 2-メチルインドール)。
(−)-ペニトレム D の全合成[9]

Smith らは複雑な振戦原性インドールアルカロイド (−)-penitrem D の全合成において、インドール核の構築に Madelung 型(Smith 変法)の環化を用い、当該インドール形成段階を高収率(81%)で達成したと報告している。複雑な多環性基質でインドール環を組み上げられることを示す代表例である。

分子内・温和条件版[4][5]

温和な条件下で分子内マーデルング反応を行い、ジヒドロピロロ[1,2-a]インドールやテトラヒドロピリド[1,2-a]インドール類を合成した例が報告されている。

遷移金属フリー・ワンポット版[12]

安息香酸メチルと N-メチル-o-トルイジンを LiN(SiMe₃)₂/CsF 系で処理する一段階反応により、N-メチル-2-アリールインドールが得られる(収率最大 90%)。

実験手順

LiN(SiMe₃)₂/CsF 系によるワンポット・マーデルング型合成[12]
  1. 反応容器に N-アルキル-o-トルイジン(例:N-メチル-o-トルイジン)と芳香族カルボン酸メチルエステル(例:安息香酸メチル)を仕込む。
  2. 塩基として LiN(SiMe₃)₂(LiHMDS)、および添加剤として CsF を加える。(各試薬の当量は原報で要確認)
  3. 溶媒に tert-ブチルメチルエーテル(TBME)を用い、110 °C で 12 時間加熱撹拌する(ワンポット)。
  4. 反応後、通常の水系後処理・抽出を行い、カラムクロマトグラフィー等で精製する。
  5. 対応する N-アルキル-2-アリールインドールが得られる(報告収率 50–90%、最適条件で最大約 90%)。
古典的条件

改良マーデルング(Houlihan 法)[2]では、N-(2-アルキルフェニル)アミドを THF に溶かし、低温で n-BuLi または LDA(2 当量程度)を加えてジアニオンを発生させ、昇温後に水系後処理することで 2-置換インドールを得る。古典法(NaNH₂/NaOEt、200–400 °C)は過酷なため、実験室規模では有機リチウム改良法が扱いやすい。[2][8]

実験のコツ・テクニック

  • 古典条件は強塩基・高温での無空気(不活性雰囲気)下反応が前提とされ、厳密な無水・脱酸素操作が必要という報告がある。[1][8]
  • 官能基許容性が低いため、塩基や高温に不安定な官能基をもつ基質では、古典法ではなく有機リチウム塩基を用いる低温改良法(Houlihan 法)や Smith 変法を選ぶのが実際的とされる。[2][7]
  • o-アルキル基のベンジル位に酸性水素が必要で、ベンジル位が立体的に混み合う・電子的に不利な基質では環化効率が下がるとの指摘がある。[1][8]
  • 芳香環上の電子供与基は収率向上に、電子求引基は収率低下に働きやすい傾向が報告されている。[1]
  • 近年は遷移金属フリー(LiHMDS/CsF)やワンポット型など、操作性を改善した手法が報告されており、目的の置換様式・官能基に応じて条件を選択できる。[10][11][12]

参考文献

  1. Madelung, W. Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1912, 45, 1128–1134. DOI: 10.1002/cber.191204501160
  2. Houlihan, W. J.; Parrino, V. A.; Uike, Y. J. Org. Chem. 1981, 46, 4511–4515. DOI: 10.1021/jo00335a038
  3. Houlihan, W. J.; Uike, Y.; Parrino, V. A. J. Org. Chem. 1981, 46, 4515–4517. DOI: 10.1021/jo00335a039
  4. Verboom, W.; Berga, H. J.; Trompenaars, W. P.; Reinhoudt, D. N. Tetrahedron Lett. 1985, 26, 685–688. DOI: 10.1016/S0040-4039(00)89179-0
  5. Verboom, W.; Orlemans, E. O. H.; Berga, H. J.; Scheltinga, H. W.; Reinhoudt, D. N. Tetrahedron 1986, 42, 5053–5064. DOI: 10.1016/S0040-4020(01)88057-1
  6. Orlemans, E. O. M.; Schreunder, A. H.; Conti, P. G. M.; Verboom, W.; Reinhoudt, D. N. Tetrahedron 1987, 43, 3817–3826. DOI: 10.1016/S0040-4020(01)86867-8
  7. Smith, A. B., III; Visnick, M.; Haseltine, J. N.; Sprengeler, P. A. Tetrahedron 1986, 42, 2957–2969. DOI: 10.1016/S0040-4020(01)90586-1
  8. Gribble, G. W. J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1 2000, 1045–1075. DOI: 10.1039/a909834h
  9. Smith, A. B., III; Kanoh, N.; Ishiyama, H.; Minakawa, N.; Rainier, J. D.; Hartz, R. A.; Cho, Y. S.; Cui, H.; Moser, W. H. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 8228–8237. DOI: 10.1021/ja034842k
  10. Kondo, Y.; Abe, M.; Denneval, C.; Nozawa-Kumada, K. Heterocycles 2016, 92, 900. DOI: 10.3987/COM-16-13440
  11. Sterligov, G. K.; Ageshina, A. A.; Rzhevskiy, S. A.; Shurupova, O. V.; Topchiy, M. A.; Minaeva, L. I.; Asachenko, A. F. ACS Omega 2022, 7, 38505–38511. DOI: 10.1021/acsomega.2c03754
  12. Ma, R.; Wang, Y.-E.; Xiong, D.; Mao, J. Org. Lett. 2023, 25, 7557–7561. DOI: 10.1021/acs.orglett.3c02927

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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