[スポンサーリンク]

一般的な話題

情報の最小単位がついに原子?超次世代型メモリー誕生!

[スポンサーリンク]

原子1個につき1ビットの情報を持たせることのできる記憶デバイスが開発された。

 

内容はネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」9月号から。最新サイエンスを日本語で読めるNatureダイジェストから、個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は「Nature ダイジェストまとめ」を御覧ください。

 

情報の最小単位が原子に!次世代メモリー誕生

「この原子メモリは1平方インチ辺り502テラバイトという桁外れの面記録密度を持つ。」

「集積回路の実装密度は18カ月ごとに2倍になる」という有名なムーアの法則が、あと数年で崩れるというニュースがあったばかり(関連記事:2021年、ムーアの法則が崩れる?)そのような背景のもと、機能の最小単位である分子を飛び越えて、原子でメモリをつくってやろうと試み、成功したのがデルフト工科大学の物理学者Sander Otte准教授

2016-09-03_09-54-36

 

塩素原子1個と空孔1つを「1ビットの情報」とすることで8000以上の原子ビットからなる約1キロバイトのメモリーを作り上げたのです[1]。簡単に紹介する動画が同准教授の研究室ウェブサイトに公開されていました。

 

 

そのデータ容量の効率は現存のハードディスクの3桁を超えるといいます。本記事では今回の研究を簡単に紹介し、今後の課題について述べています。量産化できないことや超低温に保たねばならないことなど、まだまだ問題は山積みですが、困難なテーマを乗り越えていくことから生まれるものが新しいサイエンスです。半導体でもついこの前まで、現状の大きさにできるなんて、不可能だ!と考えられていたことを忘れてはいけません。

 

鏡像型DNAを複製できる酵素、登場!

 左巻きのDNAを複製することができるポリメラーゼが作製された。鏡像生化学への一歩となる。

我々のDNAは右巻きのらせん構造である。構成されるアミノ酸が単一の鏡像体から成り立っているからです。なぜアミノ酸が単一の鏡像体かというと、生命の起源の研究に結びついてしまいますが、今回は、その話でなく、「鏡像体(左巻きの)DNAが複製できた。」という話。鏡像体DNAの合成は既に数十年前に達成されていましたが、難しかったのは複製プロセスを取り仕切る「DNAポリメラーゼ」の鏡像体の複製2

 

左巻きDNAをつくる(画像:)

左巻きDNAをつくる(出典:Natureダイジェストより)

 

記事は、その解決方法と研究者へのインタビューで成り立っています。最終目標は鏡像型の細胞を作成すること。それには大きな課題がありますが、わかりやすい夢がある研究だと思います。

 

arXivがリニューアルを計画

 プレプリントサーバのarXivがリニューアルを計画しているが、利用者たちは現状に満足しており、大幅な変更を警戒感をもっている。

化学系ではプレプリントサーバ「ChemRXiv」の設立が決まったばかりなのでピンとこないかもしれません。一方で、化学分野以外の科学では必須の”ツール”としてもっとも有名なものがarXiv(アーカイブ)実際アクセスした人はわかると思いますが、そのページはお世辞にも最新論文の卵が掲載されているとは思えない外観です。

 

arrive.org

arXiv.org

 

このリニューアルが近々検討されているというのが本記事の内容ですが、どうやら使用者はそんなに前向きではないとのこと。理由はいろいろな支援を受けることで、arXivの中立性が保てなくなる可能性があるから。

うまい落としどころがみつかるとよいですね。

 

その他

それ以外にも多くの最新科学記事が紹介されています。今月号の特集は、「iPS細胞の10年」として、山中因子の発見から10年の研究を紹介しています。iPS細胞関連の研究を俯瞰して改めて振り返ることができ、オススメです。

超有名科学者を毎回紹介している「私とNature」コーナーは、大阪大学の長田重一教授。細胞の自殺として知られているアポトーシス研究の第一人者です。このコーナーは過去も含めて無料公開されているので、見逃した方はぜひ御覧ください。

2016-09-06_17-01-25

 

Natureダイジェスト紹介1周年

さて、まとめをみると、昨年の10月号から紹介し始めたので、おかげさまで本シリーズもついに1年を迎えました

化学のコアな話もとってもよいですが、トップクラスのサイエンスは格段に面白く、こんなことができるようになったのか!という驚きとともに、まだまだ大量に残されている科学の課題も垣間見ることができます。出来る限り読み続けたいですね。

ちなみに、個人アカウントは公費払いは難しいようですが、研究室単位で読みたい場合、公費での支払いが可能みたいです。個人アカウントはオンラインのみですが、研究室で申しこめば、プリントされた雑誌として毎月届きます。

と、その情報を探していたら、ちょうど「Natureダイジェスト研究室購読キャンペーン」をやっているようです。どうやら、申し込みをすれば、9月号を無料でいただけるとのこと。期間は9月1日から10月24日まで。詳細はこちら

月刊化学や現代化学などの化学系月刊誌とともに、研究の合間にみなさんで読む雑誌として検討してみてはいかがでしょうか。

 

関連論文

  1. Kalff, F. E.; Rebergen, M. P.; Fahrenfort, E.; Girovsky, J.; Toskovic, R.; Lado, J. L.; Fernández-Rossier, J.; Otte, A. F. Nat Nanotechnol 2016. DOI: 10.1038/nnano.2016.131
  2. Wang, Z.; Xu, W.; Liu, L.; Zhu, T. F. Nature Chem. 2016, 8, 698. DOI: 10.1038/nchem.2517

 

過去記事はまとめを御覧ください

 

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 光触媒反応用途の青色LED光源を比較してみた【2020/8/11…
  2. 化学研究ライフハック:ソーシャルブックマークを活用しよう!
  3. Excelでできる材料開発のためのデータ解析[超入門]-統計の基…
  4. 【10月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開…
  5. 第3のフラッシュ自動精製装置がアップグレード:分取クロマトグラフ…
  6. 核酸合成試薬(ホスホロアミダイト法)
  7. 【速報】2023年ノーベル化学賞は「量子ドットの発見と合成」へ!…
  8. ニセ試薬のサプライチェーン

注目情報

ピックアップ記事

  1. 大阪近海のアサリから麻痺性貝毒が検出される
  2. M.G.フィン M. G. Finn
  3. 深海の美しい怪物、魚竜
  4. 工業生産モデルとなるフロー光オン・デマンド合成システムの開発に成功!:クロロホルムを”C1原料”として化学品を連続合成
  5. で、その研究はなんの役に立つの?
  6. アーント・アイシュタート合成 Arndt-Eistert Synthesis
  7. 動的共有結合性ラジカルを配位子とした金属錯体の合成
  8. ハイフン(-)の使い方
  9. 書物から学ぶ有機化学 2
  10. 乙卯研究所 研究員募集

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年9月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP