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化学者のつぶやき

第3のフラッシュ自動精製装置がアップグレード:分取クロマトグラフィーシステムPure

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先日、バイオタージ製の自動精製装置「Isolera Selekt」をレビューしましたが、フラッシュ自動精製装置のシェアは、おそらくバイオタージ(Isolera)山善(Smart Flash)の2強です。しかし数年前からビュッヒ社も自動精製装置を販売しはじめています。以前ケムステでもデモ記事をご紹介しました(過去記事:フラッシュ自動精製装置に新たな対抗馬!?: Reveleris(リベラリス))。少し前にリベラリスモデルがアップグレードされ、分取クロマトグラフィーシステムPurePure Chromatography Systemという製品名に変わりました。

筆者(副代表)自身は頑健でなかなか壊れないIsoleraを長年愛用してきたので、新規購入は考えてなかったのですが、とあるツテからPure Systemは分取HPLCと共用可能である事実を耳にしました。ちょうど分取HPLCの機種検討を行っていたタイミングでもあったため、今回はフラッシュ/HPLC一体型のPure C-850をデモ頂きました。他社装置では手の届かないところをカバーできる候補になるかと思いましたので、レビューします。

解説動画

説明はビュッヒのサービスマンの方にお願いしました。動画撮影に快く応じていただき、この場を借りて感謝申し上げます。かなり丁寧に説明頂けましたので、一通りご視聴いただければ装置の特徴は掴めると思います。

特徴

リベラリスから比較すると、見た目もスタイリッシュになっています。溶媒置き場も天板上にあり、スペースを取りません。バイオタージ・山善装置が置ける面積があれば、十分設置可能です。フラクションコレクターも60試験管x2でたっぷりあります。

パンフレットから引用

リベラリスにも搭載されていた各種機能は、Pure Systemでも継続されており、他社製品との差別化ポイントでもあります。

  1. ELSD(蒸発光散乱)による検出:これが一番の特長でしょうか。UVで見えない化合物も検出できるため、取り漏らしが防げます。
  2. 画面遷移無しに全ての操作が可能:設定を確認したい場合に、いちいち戻る必要がありません。多少ごちゃごちゃしてそうですが、そこまで複雑ではないので見慣れれば問題なし。
  3. 自社パックドカラムのRFID読み取り機能:分離条件の設定省略や、カラム寿命管理に役立ちます(自分たちで情報を入れれば他社カラムも勿論使えます)。

さらにC-850のデモ中に情報を頂けた特長は下記のとおり。なるべく装置の前にいなくて済むよう、装置設計面からの工夫も盛り込まれています。

  1. 精製パラメータは運転途中でもオンデマンド変更可能:あれ、この化合物出てくるはずだったのにな・・・とか、このままやるとロストしてしまう!とか気づいた時に、すぐさま対応可能です。
  2. 検出波長が4つまで設定可能:C-850は最上位機種ゆえに機能もリッチです。低価格モデル(C-805)だと同時検出波長の数は少なくなります。
  3. Gradient→Isoclaticへの自動切替機能:ピークの溶出しはじめを検出し、溶出完了まで展開系をIsoclaticへと一時的に自動で切替えする機能が付いています。これは分離度を稼ぐ工夫として秀逸です(精製時間と溶媒消費は増えます)。
  4. 最大流速が250 mL/min:これは途轍もない値で、装置内溶媒置換は一瞬で終わります。ただパックドカラムにこの流速に耐える品がまだないため、精製時に力量がフル発揮できないオーバースペックのようです(苦笑)。今後に期待。
  5. 中圧フラッシュ・分取HPLCの共用:全く同じUIで、分取HPLCカラムを用いた精製が行えます。

デモしてみての感想

特に分取HPLC機能がどのようなものか知りたかったので、手元にあるC18分取HPLCカラム(内径20mm)を使い、逆相系(0.1% TFA aq/MeCN)で流して見ました。写真のとおり、モード切り替えは操作画面から簡単におこなえます。UIもフラッシュ精製と共通です。

サンプルのマウント方法は、フラッシュ精製ではパックドカラムに直接打ち込むのに対し、HPLCでは付属サンプルループへインジェクトして行うという違いがあります。

注意点として、精度高く検出を行おうとすると、HPLCモードでも流速が最低10 mL/minは必要になるそうです。第一に想像できるようなHPLCのイメージでは無く、あくまで中圧フラッシュ精製を一段グレードアップした装置と見るべきでしょうか。流速がそれ以下になるマイクロ~セミ分取サイズのカラムを使うことは難しそうです。その場合はやはり専用のHPLC装置が必要とされるようです。筆者個人は、数ミリグラム程度のルーチンのペプチド精製に使えないかと考えていたのですが、その目的には最適カラムサイズが大きすぎるという実感でした。ある程度多量の化合物を太めHPLCカラムで分離したいニーズがあるならよさそうです。

デモ期間が土日祝をはさむ3日だったこともあり、徹底的に使い倒すまでは至りませんでしたが、操作そのものは慣れてしまえば簡単です。ポンプが強力なのは良い点ですね。手離れの良さをウリにしてはいますが、マニュアル操作を厭わなければ出来ることも割と多そうで、使い込むほどに便利に使えていきそうです。

C-850は最上位機種なので、お値段はやはりそれなりにします(2022年3月末までキャンペーン期間中)。とはいえ中圧フラッシュ装置+分取HPLCのスペースが1台分で済むと考えられれば、目的次第では割にあいそうな価格帯だと思えました。

フラッシュ精製だけ・ELSD無し・UV検出のみでよければエントリーモデル(C-805)が税抜170万円程度(キャンペーン期間202112月末まで)、かなりのお手頃価格で入手可能です。他社に比べても価格競争力はありそうです。目的に応じて、各モデルを比較されてみるのが良いと思います。

またビュッヒが取り扱う分取カラムFlashPureそのもの分離能もとても高く、こちらの記事の番外編でも少し触れていますので、検討されてみてはいかがでしょうか。

お問い合わせ先

日本ビュッヒ株式会社

〒110-0008 東京都台東区池之端2-7-17 IMONビル3F
Tel.: 03-3821-4777
Fax: 03-3821-4555

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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