[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

核酸合成試薬(ホスホロアミダイト法)

[スポンサーリンク]

核酸とは?

核酸とは、デオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)の総称です。DNAは主に遺伝情報の蓄積や貯蔵、RNAは情報の伝達やタンパク質の合成などの役割を担っています。DNAは、デオキシリボースの1’位に核酸塩基が結合したユニット(デオキシヌクレオシド)に、さらに5’位にリン酸が結合したデオキシヌクレオチドを最小単位とした生体ポリマーです。一方、RNAはリボースが主骨格になります。(図1, 2)。

図1 DNA構成単位(デオキシリボヌクレオチド)とRNA構成単位(リボヌクレオチド)(注. 塩基は代表してアデニンで表現)

図2 核酸塩基:アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)、ウラシル(U)(RNAではチミンの代わりにウラシルになります)

これらの誘導体を連結させたオリゴ核酸からなる核酸医薬品が注目されています。ターゲットに対して特異的に働くため、副作用が少ないことが特長です。今回は、核酸合成の主流であるホスホロアミダイト法による固相合成について、各工程で使用する核酸合成試薬の紹介を踏まえながら概説します。

ホスホロアミダイト法

ホスホロアミダイト法とは、1980年代にCaruthers教授によって開発された核酸合成法です。亜リン酸ジエステルのモノアミド体であるホスホロアミダイトモノマーを使用し、ポリマービーズなどの固相上で核酸モノマーを付加させる方法です。1つの核酸モノマーを付加するためには、以下の①~④の工程を1サイクルとして、目的の鎖長になるまで繰り返します(式1)。その後、濃アンモニア水を用いて固相担体から切り出します。自動合成装置用の試薬として、多くが溶液として販売されており、適切な濃度や組成のものを選択することで、別途調液する必要がないため効率的です。

<各工程>

①脱保護: 固相に担持されたヌクレオシドから、5’位の4,4′-ジメトキシトリチル基(DMTr基)を除去する。(デブロッキング試薬)

②カップリング: ①で5’位のDMTr基を除去したヌクレオシドに対し、ホスホロアミダイト(核酸モノマー)と活性化剤(アクチベーター)を用いて縮合する。(アミダイト・アクチベーター)

③キャッピング: 副反応を抑制するために、②で生じた未反応鎖の5’位水酸基をアセチル化する。(キャッピング試薬)

④安定化: 酸化もしくは硫化によって、亜リン酸エステルを安定なリン酸エステル、もしくはチオリン酸エステルに変換する。(酸化試薬・硫化試薬)

 

式1 ホスホロアミダイト法での4工程の反応 参考)和田猛監修:核酸医薬の創製と応用展開 (株式会社シーエムシー出版) (2016).

デブロッキング剤

固相に担持されたヌクレオシドの市販品(例えばNittoPhase®)は、5’位の水酸基が DMTr基で保護されています。5’位は次工程のカップリングにおける反応点ですので、事前に脱保護しなければなりません。この用途で使用されるのがデブロッキング試薬です。主にジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸の溶液が用いられます(式2)。

式2 弱酸によるDMTr基の除去

ホスホロアミダイト・アクチベーター

ホスホロアミダイトは、3’位の水酸基と結合したリン原子上にシアノエトキシ基とジイソプロピルアミノ基を有し、5’位の水酸基はDMTr基で保護されています(図3 左)。このホスホロアミダイトはDNA用、RNA用ともに多くの種類が市販されています。4,5-ジシアノイミダゾールや、1H-テトラゾール誘導体などの活性化剤(アクチベーター)存在下、ホスホロアミダイトと5’位がフリーの水酸基となったヌクレオシドもしくはヌクレオチドを反応させるとカップリングが進行し、1ユニット分が連結したオリゴ核酸が得られます(式3)。また、天然型の構造だけではなく、架橋型人工核酸(Locked Nucleic Acid)のようなホスホロアミダイトも存在します。リボースの2’位と4’位がアルキル鎖で架橋した構造です。ヌクレアーゼ(核酸分解酵素)耐性を示すため、核酸医薬品への応用が期待されます(図3 右)。また、必要とするアミダイトが市販されていないときは、アミダイト合成試薬を用いることで、ヌクレオシドから誘導体化が可能です。

図3 ホスホロアミダイト、および架橋型人工核酸の構造

式3 ホスホロアミダイト法によるカップリング工程

キャッピング試薬

カップリング工程では完全に反応させることは難しく、多くの場合には未反応鎖が残ってしまいます。次工程で別のヌクレオシドのユニットをカップリングさせたい場合には、この未反応鎖の5’位は望まない反応点になってしまいます。そこでキャッピング試薬でアセチル化し不活性化させます(式4)。キャッピング試薬のアセチル化剤としては無水酢酸、塩基としてはピリジンや2,6-ルチジンを用いることが多いです。

式4 キャッピング試薬による未反応鎖の不活性化

酸化試薬

カップリング工程においては、亜リン酸エステル結合が生成されますが、この結合は不安定です。次工程以降の副反応を抑制するため、安定なリン酸エステルに変換する工程が酸化工程であり、酸化試薬が用いられます(式5)。酸化試薬は、ヨウ素の水/THF溶液に、塩基としてピリジンや2,6-ルチジンが添加された溶液が用いられます。

式5 酸化試薬によるリン酸エステル結合への変換

硫化試薬

酸化によってリン酸エステルに変換したオリゴヌクレオチドは安定ですが、核酸医薬として適用する場合には、生体内での安定性を考慮する必要があります。生体内の核酸分解酵素であるヌクレアーゼによって、リン酸エステル結合が加水分解されてしまいます。したがって、さらに安定な形に変換しなくてはなりません。主な変換反応は、チオリン酸エステル結合への変換であり、硫化試薬が用いられます(式6)。硫化剤にはDDTT、5-フェニル-3H-1,2,4-ジチアゾール-3-オン、PADSなどが使われます(図4)。

式6 硫化試薬によるチオリン酸エステル結合への変換

図4 硫化試薬

おわりに

国内では多くの核酸創薬プロジェクトが進行していますが、その課題として原料や試薬、合成装置が現時点で海外に依存していることが挙げられます。このような要望を受けて国内メーカーの試薬の供給も増えていくと思われます。詳細については関連サイトでご確認ください。

関連リンク

富士フイルム和光純薬 Siyaku Blog

・『【連載】核酸医薬合成基礎講座 「第1回 オリゴヌクレオチド合成」』

・『同「第2回 オリゴヌクレオチド合成における保護・脱保護」』

・『同「第3回 オリゴヌクレオチド合成におけるカップリング反応」』

・『同「第4回 オリゴヌクレオチド合成におけるキャッピング及び酸化・硫化反応」』

・『同「番外編 オリゴヌクレオチドの精製」』

 

Avatar photo

富士フイルム和光純薬

投稿者の記事一覧

「次の科学のチカラとなり、人々の幸せの源を創造する」
みなさまの研究開発を支えるチカラとなるべく、
これからも高い技術とクオリティで、次代のニーズにお応えします。
Twitterでの情報提供を始めました。

関連記事

  1. 高選択的な不斉触媒系を機械学習で予測する
  2. 天然物の全合成研究ーChemical Times特集より
  3. 天秤で量れるのは何mgまで?
  4. 温度値をどう判断するか【プロセス化学者のつぶやき】
  5. “腕に覚えあり”の若手諸君、「大津会議」…
  6. 極薄のプラチナナノシート
  7. 化学系必見!お土産・グッズ・アイテム特集
  8. 有機化学クロスワードパズル

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第86回―「化学実験データのオープン化を目指す」Jean-Claude Bradley教授
  2. 超高速X線分光が拓く原子レベルの分子動画観測
  3. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり : ① 「ほんとスタンド」 の巻
  4. ロルフ・ミュラー Rolf Muller
  5. マイルの寄付:東北地方太平洋沖地震
  6. フェイスト・ベナリー フラン合成 Feist-Benary Furan Synthesis
  7. ここまでできる!?「DNA折り紙」の最先端 ② ~巨大な平面構造体 編~
  8. 有機合成化学協会誌2025年11月号:英文特集号
  9. 化学系プレプリントサーバ「ChemRxiv」の設立が決定
  10. 文化勲章にノーベル賞の天野さん・中村さんら7人

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年2月
月 火 水 木 金 土 日
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728

注目情報

最新記事

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

ハロゲンの力で強力な結合を切断!天然物クマリンから医薬品・機能性材料原料のクマラノン類へ

第 722 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合…

観察を写真で残す!カメラ内蔵リアクタ EasyMax 102i を使ってみた

反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。とこ…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年9月版】

2026年9月にケムステでは21本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

2026ノーベル化学賞をOBが解説 –分子にも「右手」と「左手」がある? 10/31(土)14:00~15:30 県民センター(横浜駅3分) 【硤合教授ノーベル賞受賞記念】一般の方・中学生・高校生も対象に解説イベントを開催します(10/31)

bergです。2026年のノーベル化学賞が「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発見」…

【味の素ファインテクノ】新卒採用情報(2028卒)

当社は入社時研修を経て、先輩指導のもと、実践(※)の場でご活躍いただきます。…

MEDCHEM NEWS 35-3 号「2024年度 MCS 優秀賞」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、オープンアクセ…

【速報】2026年のノーベル化学賞は「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発見」へ

2026年のノーベル化学賞は、アンリ・カガン (Henri B. Kagan、フランス・パリ=サクレ…

柳沢 正史 Masashi Yanagisawa

柳沢 正史(やなぎさわ まさし、Masashi Yanagisawa、1960年5月…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年8月版】

2026年8月にケムステでは22本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP