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2004年ノーベル化学賞『ユビキチン―プロテアソーム系の発見』

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スウェーデン王立科学アカデミーは6日、2004年のノーベル化学賞をイスラエル工科大学のアーロン・チェハノバ教授(57)、同アブラム・ヘルシュコ教授(67)、カリフォルニア大学アーバイン校のアーウィン・ローズ博士(78)に授与すると発表した。 細胞内で特殊な酵素の働きにより、不要なたんぱく質が分解される仕組みを解明した。

授賞理由は「ユビキチンの仲介でたんぱく質が分解される仕組みの発見」。ユビキチンは鎖状につながって特定のたんぱく質にくっつき、それが不要であることを示す目印となる。この目印によってシュレッダーの働きをする「プロテアソーム」の扉が開き、たんぱく質が切り刻まれる。(引用: 日本経済新聞)(写真: nobelprize.org

2004年のノーベル化学賞は、「ユビキチン-プロテアソーム系」を発見し、研究を進めた3氏に贈られました。タンパク質の生成や働きだけに注目していた科学界に、タンパク質の『死』という視点を示した研究です。

今回はこのノーベル化学賞の研究内容と、その概念を利用した新薬の開発について簡単に説明したいと思います。

 

ユビキチンとは何か

(PDB:1UBQ)

(PDB:1UBQ)

ユビキチン(ubiquitin, Ub)は、酵母からヒトまであらゆる真核細胞に存在する、76アミノ酸残基から成る小さなタンパク質です。名前の由来は、ラテン語の“ubique=あらゆるところで”という形容詞を基にした英語 「ユビキタス(ubiquitous)」からきています。「至る所に存在する」という意味があります。今回の受賞者である、チェハノバ教授とヘルシュコ教授らが名付けました。

ユビキチンは不要なタンパク質、たとえば合成ミスを起こしたり、寿命を迎えたものなどに複数個付加(ポリユビキチン化)されることで、「このタンパク質を壊してくれ!!」という分解シグナルとして働きます

ユビキチン自体はあくまで目印なので、分解を行うのは他の物質です。ユビキチンが結合した不要たんぱく質をシュレッダーのように分解する酵素をプロテアソームといいます。現在東京都医学総合研究所の田中啓二所長が1988年に精製に成功し、名付けました

嫌気性古細菌由来のプロテアソーム(PDB:1PMA)

嫌気性古細菌由来のプロテアソーム(PDB:1PMA)

 

ユビキチン-プロテアソーム系(UPS)

ユビキチンの活性化から結合、プロテアソームによるタンパク質分解までをになう一連の生化学経路をユビキチン-プロテアソームシステム(UPS)といいます。以下簡単に解説してみます。

ユビキチン-プロテアソームシステム(その1)

ユビキチン-プロテアソームシステム(その1)

第一段階 ユビキチンの活性化

ユビキチンは、ATPのエネルギーを利用してユビキチン活性化酵素E1のCys残基にチオエステルとして結合します。ATPは消費され、AMPとピロリン酸(PPi)に加水分解されます。

次に、E1と結合したユビキチン(E1-Ub)はユビキチン結合酵素E2 のシステイン残基に再びチオエステルとして渡され結合し、複合体E2-Ubが生成します。この段階でユビキチンの活性化が達成されます。

第二段階 標的タンパク質との結合

活性化されたユビキチンは、続いて数種のタンパク質からなるヘテロ複合体ユビキチンリガーゼE3と複合体を形成します。その際、E3は不要タンパク質とも結合し、介したユビキチンの受け渡しが行われます。ユビキチンは不要タンパク質のLys残基のアシル化を介して結合します。これをユビキチン反応といいます。

第三段階 ポリユビキチン化された標的タンパク質の形成

第二段階までのユビキチン反応が繰り返し起こることによって、ユビキチン分子が鎖状に結合したポリユビキチン鎖が形成されます。ここまでで分解のための目印形成が完成しました。

第四段階  プロテアソームによるタンパク質の分解
ユビキチン-プロテアソームシステム(その2)

ユビキチン-プロテアソームシステム(その2)

20sプロテアソーム(28個のサブユニットからなる複合体)は両端でユビキチン認識サブユニットと結合し、26Sプロテアソームを形成しています。ここに第三段階で形成したポリユビキチン化不要タンパク質が運搬されます。その後、ATP依存的にタンパク質の分解が起こります。この際、ポリユビキチン鎖は不要タンパク質から取り外されます。ポリユビキチン鎖は再び第一段階にもどって再利用されます。

以上がUPSの概要です。このシステムが異常をきたしたら、一体どうなるのでしょうか?

人間の体内では毎日タンパク質が作られていますが、新生蛋白質の30%が不良品だそうです。それらの不良品が体内にとどまっていると、体内機構に影響を及ぼし、何らかの疾患を引き起こす可能性があります。異常タンパク質の蓄積が原因で引き起こされると考えられている疾患としては、様々な神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病など)が知られています。

そのため異常タンパク・不要タンパクを適切に分解除去するUPSは、生物にとって大変重要な仕組みなのです。

 

ユビキチン-プロテアソーム系の阻害物質

UPSの仕組みを逆手にとり、がん細胞内のプロテアソームを阻害することで異常タンパク質を蓄積させ、がん細胞を死滅させるタイプの抗がん剤が開発されています。米国では2003年にプロテアソーム阻害剤 ボルテゾミブ (Bortezomib、商品名Velcade)が認可されました。

nobelprize2004_7

UPS系の阻害物質として研究されている物質は他にもたくさんあります。阻害に関与する段階によって、以下のように分類されています。詳しくは参考文献をご覧になってください。

  1. プロテアソーム阻害物質:Lactacystin、Epoxomicin、MG 132、PS-341 (Bortezomib)、TMC-95A、Tyropeptin A、Salinosporamide A、Belactosin A、Agosterol Cなど
  2. ユビキチン活性化酵素E1阻害物質: panepophenanthrinなど
  3. ユビキチンリガーゼ E3阻害物質:Chlorofusin、 Calcone C、 syc-7など
  4. 脱ユビキチン化酵素阻害物質:Prostaglangdin J2、Punaglandin 4 など

以上、簡単に2004年ノーベル化学賞の研究内容を紹介してみました。研究者ならば、ノーベル賞の候補にあがる研究をしてみたいと思いますね。化学って面白いよね!!

(※本稿は以前公開されていたものを「つぶやき」に加筆修正のうえ移行したものです)

参考文献

  • 塚本佐智子ら、有機合成化学協会誌, 62, 968 (2004).

関連書籍

外部リンク

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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