[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

アニリン類のC–N結合に不斉炭素を挿入する

[スポンサーリンク]

アニリン類の炭素–窒素(C–N)結合に不斉炭素を挿入してキラルベンジルアミンとする手法が開発された。

芳香族C–N結合の活性化

芳香族C–N結合の活性化によるC–C結合形成反応は、豊富な化学フィードストックである芳香族アミン(アニリン類)を出発原料にできるため、昨今精力的に開発されている[1]。そのほとんどは遷移金属触媒を用いたカップリング反応であり、近年、様々なアニリン類が求電子剤として適用可能となった[1](図1A)。
一方で本論文著者のFanらは最近、カップリング反応とは異なる、アニリン類1の酸化的脱芳香族型官能基化法を開発した(図1B)。2015年にヨードシルベンゼン(PhIO)により脱芳香族化させたシクロヘキサジエンイミン中間体を、活性メチレン化合物と反応させ、カップリング反応では構築困難な四級炭素の構築に成功した[2a]。また、2018年にパラジウム触媒存在下、芳香族C–N結合にトリメチレンメタン基を挿入する手法も開発した[2b]。カップリング反応と異なり、脱離したアミン部位も有効的に活用することができる。
今回、Fanらは同様のシクロヘキサジエンイミン中間体に対し、キラルなスルホニウムイリドを求核剤に用い、アニリン類からキラルなa位置換ベンジルアミン2を得ることに成功した。形式的にアニリン類のC–N結合に”不斉炭素を挿入”できる新奇合成法である。

図1. 芳香族C–N結合の活性化 (A) 遷移金属触媒を用いたカップリング反応 (B) 酸化的脱芳香族型官能基化法 (C) 今回の反応

 

“Conversion of Anilines to Chiral Benzylic Amines via Formal One-Carbon Insertion into Aromatic C–N Bonds”
Li, L.; Yang, M.; He, Q.; Fan, R. Nat. Commun. 2020, 11, 4805.
DOI: 10.1038/s41467-020-18593-4

論文著者の紹介

研究者:Renhua Fan (范仁
研究者の経歴:
1994–1998 B.S., Jiangxi Normal University, China
1998–2003 Ph.D., Shanghai Institute of Organic Chemistry, China (Prof. Xuelong Hou)
2003–2006 Postdoc, Purdue University, U. S. A. (Prof. Alexander Wei)
2006–2011 Associate Professor, Fudan University, China
2011–           Professor, Fudan University, China
研究内容:有機金属触媒を用いた不斉反応の開発、グリーンケミストリー、コンビナトリアル化学

論文の概要

筆者らはトシル基で置換されたアニリン類1から、3工程で逐次的なキラルなa位置換ベンジルアミン2への変換に成功した(図2A)。まず、アルコール溶媒中1にPhIOを作用させた後、水素化ナトリウム存在下、アリールスルホニウムトリフラート塩CA1と反応させた。最後に銅触媒を作用させることで、2を得た。1の置換基R1はメチル基やフェニル基でも、反応は問題なく進行した(2a, 2b)。またスルホンアミド基のメタ位やオルト位に電子求引性のフルオロフェニル基やフルオロ基を導入した場合は、中程度から高収率で対応する2を与えた(2c, 2d)。なお、酸化的脱芳香族化の溶媒にトリフルオロエタノールを用いても、中程度の収率で2eを与えた。一方で、CA1のアリール基(R3)が電子求引性のトリフルオロメチル基やピナコールボリル基の場合、中程度の収率でそれぞれ2f及び2gを得た。R3をフラン環に変えるとエナンチオ選択性はやや低下するものの、2hが高収率で得られた。しかし、プロパギル基(2i)やビニル基(2j)では収率、エナンチオ選択性ともに低下した。
種々の機構解明実験の結果、筆者らは次の反応機構を提唱した(図2B)。1の酸化的脱芳香族化で生成したシクロヘキサジエンイミン中間体に、スルホニウムイリドが配座Aから立体選択的に反応が進行し、アジリジンが形成する[3]。続く銅触媒によるアジリジンの開環の際に、安定なオキソニウムカチオンを経由しR1がメタ位へ転位することで、2が得られる。

図2. (A) 基質適用範囲 (B) 推定反応機構

以上、アニリン類からキラルなベンジルアミンへの変換が達成された。芳香族C–N結合に”不斉炭素を挿入”できる本手法は多工程を要するが、C–N結合活性化の新たな可能性を切り拓くだろう。

 参考文献

  1. For reviews of transition-metal catalyzed C–N bond activation, see: (a) Boit, T. B.; Bulger, A. S.; Dander, J. E.; Garg, N. K. Activation of C–O and C–N Bonds Using Non-Precious-Metal Catalysis. ACS Catal. 2020, 10, 12109–12126. DOI: 1021/acscatal.0c03334 (b) Garcia-Carceles, J.; Bahou, K. A.; Bower, J. F. Recent Methodologies that Exploit Oxidative Addition of C–N Bonds to Transition Metals. ACS Catal. 2020, 10, 12738–12759. DOI: 10.1021/acscatal.0c03341
  2. For Fan’s previous works, see: (a) Wang, S.-E.; Wang, L.; He, Q.; Fan, R. Destruction and Construction: Application of Dearomatization Strategy in Aromatic Carbon–Nitrogen Bond Functionalization. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 13655–13658. DOI: 10.1002/anie.201508161 (b) Han, D.; He, Q.; Fan, R. Formal Group Insertion into Aryl C–N Bonds through an Aromaticity Destruction-Reconstruction Process. Nat. Commun. 2018, 9, 3423. DOI: 10.1038/s41467-018-05637-z
  3. Illa, O.; Arshad, M.; Ros, A.; McGarrigle, E. M.; Aggarwal, V. K. Practical and Highly Selective Sulfur Ylide Mediated Asymmetric Epoxidations and Aziridinations Using an Inexpensive, Readily Available Chiral Sulfide. Applications to the Synthesis of Quinine and Quinidine. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 1828–1830. DOI: 10.1021/ja9100276

 

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 研究者向けプロフィールサービス徹底比較!
  2. 新たな特殊ペプチド合成を切り拓く「コドンボックスの人工分割」
  3. 蛍光標識で定性的・定量的な解析を可能に:Dansyl-GSH
  4. 自己修復性高分子研究を異種架橋高分子の革新的接着に展開
  5. Wolfram|Alphaでお手軽物性チェック!「Reagent…
  6. イオンのビリヤードで新しい物質を開発する
  7. こんな装置見たことない!化学エンジニアリングの発明品
  8. 光レドックス触媒反応 フォトリアクター Penn PhD Pho…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. モリブデン触媒
  2. ウッドワード・ホフマン則を打ち破る『力学的活性化』
  3. 有機ELディスプレイ材料市場について調査結果を発表
  4. 2016年1月の注目化学書籍
  5. 有機合成化学協会誌2021年6月号:SGLT2阻害薬・シクロペンチルメチルエーテル・4-メチルテトラヒドロピラン・糖-1-リン酸・新規ホスホジエステラーゼ阻害薬
  6. 人と人との「結合」を「活性化」する
  7. 化学者にお勧めのノートPC
  8. 布施 新一郎 Shinichiro Fuse
  9. ジョージ・フェール George Feher
  10. 一般人と化学者で意味が通じなくなる言葉

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年12月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

注目情報

最新記事

国内最大級の研究者向けDeepTech Company Creation Program「BRAVE FRONTIER」 2022年度の受付開始 (7/15 〆切)

Beyond Next Ventures株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社⻑:伊藤毅、以下「…

イミンアニオン型Smiles転位によるオルトヒドロキシフェニルケチミン合成法の開発

第394回のスポットライトリサーチは、東京農工大学 大学院工学府 応用化学専攻 森研究室の神野 峻輝…

マテリアルズ・インフォマティクスで用いられる統計[超入門]-研究者が0から始めるデータの見方・考え方-

開催日:2022/07/06 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

表面酸化した銅ナノ粒子による低温焼結に成功~銀が主流のプリンテッドエレクトロニクスに、銅という選択肢を提示~

第393回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院工学院 材料科学専攻 マテリアル設計講座 先…

高分子材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?

 申込みはこちら■セミナー概要本動画は、20022年5月18日に開催されたセミナー「高分…

元素のふるさと図鑑

2022年も折り返しに差し掛かりました。2022年は皆さんにとってどんな年になり…

Q&A型ウェビナー カーボンニュートラル実現のためのマイクロ波プロセス 〜ケミカルリサイクル・乾燥・濃縮・焼成・剥離〜

<内容>本ウェビナーでは脱炭素化を実現するための手段として、マイクロ波プロセスをご紹介いたします…

カルボン酸、窒素をトスしてアミノ酸へ

カルボン酸誘導体の不斉アミノ化によりキラルα-アミノ酸の合成法が報告された。カルボン酸をヒドロキシル…

海洋シアノバクテリアから超強力な細胞増殖阻害物質を発見!

第 392回のスポットライトリサーチは、慶應義塾大学大学院 理工学研究科 博士後期課…

ポンコツ博士の海外奮闘録⑧〜博士,鍵反応を仕込む②〜

ポンコツシリーズ一覧国内編:1話・2話・3話国内外伝:1話・2話・留学TiPs海外編:1…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP