[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

カルボン酸だけを触媒的にエノラート化する

[スポンサーリンク]

 

カルボン酸は天然物や医薬品に多く見られる骨格です。カルボン酸の触媒的直接官能基化は生物活性分子の迅速合成や構造多様性の導入などに大きな力を発揮すると期待できます。この度、東京大学の金井求教授、清水洋平助教らは、触媒的かつカルボン酸選択的なエノラート化手法の開発に成功しました。

 

“Chemoselective Boron-Catalyzed Nucleophilic Activation of Carboxylic Acids for Mannich-Type Reactions”

Morita, Y.; Yamamoto, T.; Nagai, H.; Shimizu, Y.; Kanai, M. J Am Chem Soc2015, 137, 7075. DOI: 10.1021/jacs.5b04175

 

この手法は、ケトンやアルキンなどの官能基を有する分子に対してもそれらの保護することなくカルボン酸のみを反応させることが可能です。では、少しだけ中身を覗いてみましょう。

 

カルボン酸のエノラート化 その1: 有機リチウム試薬を用いた手法

カルボン酸の直接的エノラート化は、現状では有効な手法がほとんどありません。そのような中でも精力的に研究されてきたのは、エン1,1-ジオラート(enediolate)を発生する方法です。近年の例でいえば、Zakarianらがキラルなジアミンからなるリチウムアミドを用いることで、エンジオラート(以下エノラートとかきます)を発生させ、高収率・高エナンチオ選択性でα位不斉アルキル化反応[1]や不斉1,4-付加反応[2]を達成しています(図 1)。しかしこの手法では、エノラート化に過剰量の有機リチウム試薬を要することや、そのために基質適用範囲が狭くなるという問題があります。また同時に不斉反応に展開するためには当量以上のキラルアミンが必要です。触媒的かつ官能基許容性高いカルボン酸のエノラート化は未だチャレンジングであることが伺えます。

 

2015-07-09_17-25-35

図1. 有機リチウム試薬を用いたカルボン酸の不斉アルキル化とマイケル反応

 

その2: Evansらの手法

また、カルボン酸のエノラート化手法として、Evansらによって開発されたジアルキルボロントリフラートをルイス酸に用いる手法が挙げられる(図2)[3]。この手法は有機リチウム試薬を用いる手法に比べ穏和な条件で反応が進行するため、高い官能基許容性が期待できます。一方で、アルドール型反応では反応しやくであるジアルキルボロントリフラートが生成物に捕捉されてしまい触媒として回転しません。そのため、このようなホウ素化合物を「触媒」として用いることは困難でした。

 

2015-07-09_17-29-21

ホウ素化合物を用いたカルボン酸のアルドール反応

 

 

Evansらの手法に着眼して:金井らの手法

さて、金井らは、Evansらの手法において詳細にホウ素化合物および求電子剤を検討することで、触媒的なカルボン酸のエノラート化ができると考えました。

検討の結果、ジアザビシクロウンデセン(DBU)という塩基存在下、ホウ素化合物としてBH3·SMe2を触媒量用いるだけで、カルボン酸のエノラート化が進行しイミンと反応した生成物が得られたのです。(Mannich反応)の開発に成功した(図3)。また、アミドやケトン、アルケンなどBH3·SMe2と反応するもしくは、エノラートが発生する官能基を有するカルボン酸に対しても、保護を必要とせずカルボキシ基のα位選択的に反応を進行させることが可能でした。また、3,3’-diiodoBINOLをキラル配位子として用いればエナンチオ選択的にMannich付加体が得られることもわかりました。アルキルイミンの不斉収率はまだ高くはないが、この点が解決されれば、今後不斉触媒反応としての発展も期待できます。

 

2015-07-09_17-27-28

図3. ホウ素化合物を触媒として用いたマンニッヒ反応

 

反応機構について

想定する触媒機構は図4の通りである。まず、BH3·SMe2はカルボン酸と反応し活性エステルのアシロキシボランへと変換される。次に、生じたアシロキシボランはケトンやエステルと同程度のα酸性度を有するため(図4参照)、比較的マイルドなDBUによってエノラート化が進行する(Figure 5B)。エノラートがイミンに付加した後、アシロキシボラン上の置換基を交換して(生成物と原料)触媒が再生すると考えられる。

カルボン酸の還元反応やアルケンへのヒドロホウ素化などが進行するよりも、BH3·SMe2がカルボン酸のエノラートとしての活性をあげて、求電子剤と反応させる。これが、この反応のミソなわけです。

2015-07-09_17-37-19

図4 想定反応機構とカルボニル化合物のpKa

 

以上、ホウ素触媒を用いたカルボン酸選択的エノラート化手法の開発を紹介した。触媒量のBH3·SMe2および弱塩基を用いるという温和な条件で反応が進行するため、複雑天然物の保護基フリー合成や医薬候補化合物のカルボキシ基選択的修飾などへの応用が期待でkます。しかし、本反応は有用性だけで評価すべきではないですね。一見単純な反応ですが、ルイス酸研究の分野において、ボランの触媒的機能に新たな知見を与えると共に、過去の知見を見直す重要性を教えてくれている重要な結果であると考えます。

 

関連文献

  1. Stivala, C. E.; Zakarian, A. J.  Am. Chem. Soc. 2011, 133, 11936. DOI: 10.1021/ja205107x
  2. Lu, P.; Jackson, J. J.; Erickhoff, J. A.; Zakarian, A. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 656. DOI:10.1021/ja512213c
  3. Evans, D. A.; Nelson, J. V.; Vogel, E.; Taber, T. R. J. Am. Chem. Soc. 1981, 103, 3099. DOI: 10.1021/ja00401a031

 

The following two tabs change content below.
bona
愛知で化学を教えています。よろしくお願いします。
bona

最新記事 by bona (全て見る)

関連記事

  1. メカノケミストリーを用いた固体クロスカップリング反応
  2. 高電気伝導性を有する有機金属ポリイン単分子ワイヤーの開発
  3. 日本プロセス化学会2018ウインターシンポジウム
  4. 有機合成化学協会誌2018年3月号:π造形科学・マグネシウムカル…
  5. 「重曹でお掃除」の化学(その1)
  6. 分子模型を比べてみた
  7. 励起状態複合体でキラルシクロプロパンを合成する
  8. タミフルの新規合成法・その4

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ブルック転位 Brook Rearrangement
  2. 炭素ボールに穴、水素入れ閉じ込め 「分子手術」成功
  3. Carl Boschの人生 その3
  4. トラウベ プリン合成 Traube Purin Synthesis
  5. スクラウプ キノリン合成 Skraup Quinoline Synthesis
  6. サーバーを移転しました
  7. 第2回慶應有機合成化学若手シンポジウム
  8. DABSOを用いるSO2導入反応 SO2 incorporation using DABSO
  9. ゲルマニウム触媒でアルキンからベンゼンをつくる
  10. 高純度フッ化水素酸のあれこれまとめ その2

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

第48回―「周期表の歴史と哲学」Eric Scerri博士

第48回の海外化学者インタビューは、エリック・セリー博士です。英国で教育を受け、カリフォルニア大学ロ…

ペプチド縮合を加速する生体模倣型有機触媒

2019年、ニューヨーク大学のParamjit S. Aroraらは、活性アシル中間体への求核付加遷…

第47回―「ロタキサン・カテナン・クラウンエーテルの超分子化学」Harry Gibson教授

第47回の海外化学者インタビューは、ハリー・ギブソン教授です。バージニア工科大学の化学科に所属し、プ…

女優・吉岡里帆さんが、化学大好きキャラ「DIC岡里帆(ディーアイシーおか・りほ)」に変身!

印刷インキや有機顔料世界トップシェアのDIC株式会社は、2020年1月より、数々のヒット作に出演し、…

tRNAの新たな役割:大豆と微生物のコミュニケーション

畑に生えている大豆の根っこを抜いてみると、丸い粒みたいなものがたくさんできています。根粒(こんりゅう…

第46回―「分子レベルの情報操作を目指す」Howard Colquhoun教授

第46回の海外化学者インタビューは、ハワード・コルクホーン教授です。英国レディング大学の化学科に所属…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP