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一般的な話題

東大、京大入試の化学を調べてみた(有機編)

今春めでたく大学にご入学された方。おめでとうございます!これから益々勉強して(特に化学)、将来の化学の発展に是非とも貢献して頂きたいと思います。

また、残念な結果だった方、これから大学受験を控えているという方、是非とも頑張って化学の道を志して下さい!たまには息抜きにケムステの記事を読むこともお忘れなく。

さて、以前中学入試における化学の問題を紹介しましたが、今回のポストは我が国最高峰、最難関の大学入試における化学の問題を少し紹介してみたいと思います。

いわゆるセンター試験では、採点の都合上全ての問題がマークシート形式になっており、どうしても画一的でパターン化した問題になりがちです。一方、二次試験では形式は自由にできるので、大学により、出題者により、如何様な問題でも出題可能です。そこに大学から受験生へのメッセージが含まれていると筆者は思います。

それでは実際の問題を見てみましょう。どれも良い問題だと思いますが、筆者の専門が有機化学な関係で有機化学に関連する問題を抜粋して紹介します。まずは西の横綱、京都大学の前期日程からです。

化学問題 III

次の文章(a), (b)を読んで, 問1~問6に答えよ。解答はそれぞれ所定の解答欄に記入せよ。構造式を記入するときは, 記入例にならって記せ。なお, 構造式の記入に際し, 幾何異性体および光学異性体は区別しないものとする。原子量は, H = 1.00, C = 12.0, O = 16.0とする。

構造式の記入例: 筆者略

(a) 炭素一炭素二重結合は, 硫酸酸性過マンガン酸カリウム水溶液の作用あるいはオソン分解により, 次の例に示すように酸化的に切断される。

thodai.png

1.0 molの化合物Aを完全燃焼させるのに, 酸素が8.50 mol必要であった。この化合物Aの元素分析を行ったところ, 質量パーセント組成は炭素87.8%, 水素12.2%であった

化合物Aには同じ分子式で表される構造異性体B, C, Dが存在する。化合物Aに硫酸酸性過マンガン酸カリウム水溶液を作用させて得られる化合物を, ヘキサメチレンジアミンと縮合重合させると, 6,6-ナイロンが得られた。不斉炭素原子を1個有する化合物Bに, 水銀(II)塩を触媒として, 希硫酸中で水を付加させて得られる生成物は, カルボニル基を有する構造異性体に直ちに変化し,ヨードホルム反応に陽性を示した。メチル基を2個もつ化合物Cに白金触媒の存在下で水素2分子を付加させると, メチル基を4個もつアルカンが得られた。また, 化合物Cは, 付加重合反応により二重結合を主鎖に含む高分子化合物Eになった。化合物Dのオゾン分解により得られる化合物Fにアンモニア性硝酸銀水溶液を加えると, 銀鏡反応が進行した。また, 化合物Fを還元したところ, 二価アルコールGが得られた。化合物Gに濃硫酸を加えて分子内の縮合反応を行って得られた化合物は, α-グルコースのすべてのヒドロキシ基が水素原子に置き換わった化合物と同一であった。

問1 下線部の事実をもとに化合物Aの分子式を決定せよ。導出過程も含めて解答欄の枠内で記せ。

問2 化合物A, B, D, EおよびGの構造式を記せ。

 

(b) 不斉炭素原子を1個もつ化合物H (分子式C27H28O8, 分子量480)に白金触媒の存在下で水素を付加させると, 不斉炭素原子をもたない化合物I(分子式C27H30O8) が得られた。一方, 化合物Hに含まれる4個のエステル結合を完全に加水分解すると4種類の化合物J, K, L, Mが得られた。化合物Jは一価カルボン酸であり,  触媒を用いてトルエンを空気酸化しても得られる。分子式C3H8Oの化合物Kは酸化によりカルボニル基を有する化合物Nになった。化合物Nの水溶液は中性であった。化合物Nをフェーリング液に加えて沸騰水中で温めても赤色沈殿は生成しなかった。化合物Lは粘性の高いアルコールであり, 高級脂肪酸とのエステルは油脂と呼ばれる。分子式C7H8O4の化合物Mは同一炭素に2個のカルボキシル基が結合した二価カルポン酸である。化合物Mのカルポキシル基を2個とも水素原子に置き換えると, 五員環構造を有するアルケン(シクロペンテン)になる。

問3 化合物JLの化合物名を記せ。

問4 化合物KおよびNに関する記述として正しいものを(ア)~(オ)の中からすべて選び, 記号で答えよ。

(ア) 化合物KNをそれぞれ完全燃焼させると, 生成する二酸化炭素と水の物質量の比はともに3:4となる。

(イ) 化合物Kに金属ナトリウムを加えると水素が発生し, 炭酸水素ナトリウム水溶液を加えると二酸化炭素が発生する。

(ウ) 化合物Kとエチルメチルエーテルは互いに構造異性体の関係にあり, 前者の沸点は後者の沸点よりも高い。

(エ) 1リットルの水に0.1 molの化合物Kと0.1 molのアニリン塩酸塩を一緒に溶かすと, その溶液は中性となる。

(オ) 化合物KNはともにヨードホルム反応に陽性を示す。

問5 48.0 gの化合物Hを完全に加水分解すると, 化合物Jは何g生成するか。 有効数字2けたで答えよ。

問6 化合物Hの構造式を記せ。

平成24年度京都大学入学試験 前期日程 化学より抜粋

(スキームは筆者。便宜上化合物の記号を太字にしてあります)

なるほどこれは解いていて楽しい問題ですね。ヒントを元にして化合物を推定していく問題で、断片的な知識では太刀打ち出来ない形式です。とは言え、ヒントとして書かれている事項はいずれも平易な反応や性質なので、しっかり基礎を押さえればなんてことなく解けてしまうと思います。良問ですね。この手の問題では、あたかも宝箱を探し出し、中に入っていたアイテムによって自身を成長させていくようなもので、ある種のロールプレイングゲームと同じ感覚で解いていけます。筆者はこれを勝手にドラクエ方式とでも命名しようかと思います(筆者はFF派であることは内緒です)

(筆者注:(a)の化合物Aには同じ分子式で表される構造異性体B, C, Dが存在するとありますが、他にもあるのでツボにはまらないように気をつけましょう)

 

続いては東の横綱、東京大学の前期日程からです。

II 炭素数3の有機化合物は, ポリマーの原料として極めて重要である。次の文章を読み, 問カ~サに答えよ。

(実験1)

化合物Hは炭素数3で分子量42の常温・常圧で気体の化合物であり, 炭素原子と水素原子のみからなっている。この化合物Hを重合反応させると熱可塑性を持つポリマーXを得ることができた。一方で, 化合物Hを触媒存在下で酸素によって酸化すると, 分子量72の化合物 I  (沸点141°C)が得られた。化合物Iは炭酸水素ナトリウムと反応して水溶性の塩Jを生じた。また, 化合物Iをメタノールと反応させると化合物K (沸点80°C)と水が生じた。なお,化合物H, I, J, Kは臭素と反応しうる部分構造を有する。

(実験2)

化合物Jに架橋剤を加えて重合を行うと, 網目構造をもつポリマーYが得られた。①このポリマーYに水を加えると, 吸水して膨らんだ。さらに, ②これを塩化カルシウム水溶液に浸漬すると, 体積が小さくなった

(実験3)

分子式C3H6O3を有する化合物Lは酵素によるグルコースの分解反応によって得られる。この化合物は不斉炭素原子を有しており, 炭酸水素ナトリウムと反応して水溶性の塩を生じた。化合物Lを脱水縮合すると分子式C6H8O4の化合物Mが得られた。さらに化合物Mを重合するとポリマーZが得られた。

〔問〕

力 化合物lの構造式を示せ。

キ 化合物Kの構造式を示せ。また, 化合物Iと化合物Kの沸点が大きく異なる理由を25字以内で述べよ。

ク 下線部①の理由を下記の選択肢から選べ。

1. ポリマーの官能基間の静電引力

2. ポリマーの官能基の水和

3. ポリマーの官能基の凝集

4. ポリマーの重合度の上昇

5. ポリマー外へのナトリウムイオンの移動

ケ 下線部②の理由を25字以内で述べよ。

コ 化合物Mの構造式を示せ。ただし, 立体異性体は考慮しなくてよい。

サ 実験3で得られるポリマーZは, 実験1で得られるポリマーXよりも土壌中で容易に低分子量の化合物に変換される。この理由を下記の選択肢から選べ。

1. 揮発しやすいため

2. 還元されやすいため

3. 加水分解されやすいため

4. 再重合しやすいため

5. 脱水反応を起こしやすいため

平成24年度東京大学入学試験 前期日程 化学より抜粋

(問題文訂正済み.便宜上化合物の記号を太字にしてあります)

あれあれ?こちらもドラクエ方式が出題されています。楽しいです。

やはり有機化学の試験では、このような問題が一般的に出易い、いや出題し易いのではと推察されます。求める知識レベルや難易度を比較的自由に調整することができますもんね。実はこの問題の前は、昨年少し話題になったヨウ素原子を分子内に含有する特異な構造を有する甲状腺ホルモンL-チロキシンの合成に関する問題が出題されており、ここにも原発事故の影響が垣間見えます。

thyroxine.png

L-チロキシンの構造

 

大学の入学試験では高校の化学の教科書から逸脱した問題を作ることが出来ません。よって似たり寄ったりの問題になりがちで、どうしても化学は暗記科目と揶揄されがちです。そういった束縛の中で、京大の問題のように教科書には載っていないかもしれないけれど少し説明を入れてその場で理解させるというのは有りなんじゃないかなと思います(アルケンのオゾン分解は高校の教科書には無いと思われます)。化学オリンピックの問題でもこのようなやり方は散見されますし、なにより化学の問題は暗記一辺倒ではなく、背後にあるパターンの認識や応用力だというのをアピールできると思います。

我が国の教科書は検定制度によって雁字搦めの内容となっており、どこの出版社の教科書でも内容はほとんど同じです。それはある意味公平な制度ではありますが、これでは化学の楽しさを伝えることは難しいのではないでしょうか。せめて大学入試では解いていてワクワクするような問題が多く登場することを期待しております。でもシドーみたいなレベルは勘弁ね。

最後に私から読者の皆様へのクエストの提案です。京大の問題で出てきた化合物Hはどうやったら合成できるでしょうか?

この化合物Hは架空の分子だと思われますので、現在のところ答えはありません。できれば光学活性体を合成する方法をみなさんの知恵を総動員して考えてみるのも一興かと思います。大学院生なんかには丁度いい頭の体操になるのでは。化合物Hの構造を残念ながら導けなかった方の為に答えを下の方に用意してありますので参考にして下さい(間違ってたらごめんなさい)。

関連書籍

 

化合物Hの構造式はこちら(別ウインドウで開きます)グリセリンに不斉点があるのかと思いきや・・・

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有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。
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