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ケムステしごと

地域の光る化学企業たち-2

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前回の続きで、【東海~近畿】、【中国~四国】の小規模ながら強みを持つ化学系企業をご紹介いたします。

Tshozoです。春秋戦国時代の墨家が何故滅びたのか、今なら分かる気がします。

さて前回の続き。今回は【東海~近畿】と【中国~四国】を取り上げましょう。

 

 【東海~近畿】

『小西化学工業』

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ビスフェノールという化合物はご存知でしょうか? ポリカーボネートや樹脂調整剤等に非常に有用な材料です(『環境ホルモン』というレッテルを貼られた時期もありますが、現在まだ議論の最中です・確かに体内蓄積率は高いようですが、軽々な判断は慎んだ方がよさそうです)。そのため様々な種類のビスフェノールが生み出されていますが、小西化学工業はそのうち『ビスフェノールS』という化合物に集中することを生業としてきました。

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諸々のビスフェノール(実際はもっと多種類)・左右の端部はOHなど

青枠が同社が得意とする「ビスフェノールS」

 

過去、和歌山県のこの地域は繊維産業が盛んで同社は繊維への染色助剤に使用されるスルホン酸塩、そのスルホン(酸)化を主に取り組んでいました。そのスルホン(酸)化技術を磨き、ビスフェノールSの合成に成功、製品化にこぎつけます。当初は染色助剤の用途が多かったようですが、下記のような耐熱性プラスチックの原料としても使われるようになっていきました。

 

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「ビスフェノールS」から合成されるスーパーエンプラ「PES」の代表構造

SO2基の電子吸引性により強度・耐薬品性に優れ合成も比較的容易

 

しかし中国・インドの安価品の台頭により新規商品の開拓が必要と判断、上記のビスフェノールSをメイン構造としたエポキシ系樹脂硬化剤(架橋剤)の合成に目処をつけ、遂にボーイング787に搭載されることになりました。国内でこの材料を合成できているのが小西化学のみというのは非常に面白い構図と言えますが、量(スケール)がさほど出ずに合成・品質管理などの難易度が高いことを考えると大企業はなかなか手を出しにくかったのでしょう。

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なお同社の小西社長は(過去の新聞記事によれば)採算のことはもちろんですがそれ以上に人命を左右する材料であるということに非常に大きなプレッシャーを感じていたそうです。そこで大きく1歩を踏み出したその勇気に、敬意を感じずにいられません。

同社はこれ以外にもポリシルセスキオキサンなど特徴ある材料を開発し続けています。1点突破はなかなか難しい化学業界ですが、同社の強みが十分に生かしきれる領域が開拓されることを期待しましょう。

 

【中国~四国】

『増田化学工業』香川県による紹介記事はこちら)

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エアバッグにかつて使用されていたアジ化ナトリウムはご存知でしょうか?現在はその毒性の懸念から代替物のトリアゾールやその誘導体などに変更されていますが、それらの窒素化合物の製造で高いシェア(アジ化ナトリウムに至っては世界シェア40%近く)を誇るのが香川県高松市にある『増田化学工業』です。窒素がいっぱいで幸せです

同社は1935年に創業されました。元々は軍隊へ供給される鋼の金属変性剤として使用する金属セレンを合成していましたが、終戦後ヒドラジンの合成に移行します。当時は下記のように尿素法というもので合成していました。

その後ヒドラジン製造(有水)を三菱ガス化学(当時)との合弁会社に切り替えて、テトラゾールやアジ化ナトリウム、及び無水ヒドラジンなど、農薬や医薬品原料だけでなくエアバッグや推進剤に使用される高機能窒素化合物の製造に集中してきました。また、国内では実質同社しか大量に取り扱いできないこのヒドラジンを生かし、バイオ・医療分野で注目を集める糖タンパク質からのヒドラジン切り出しによる糖鎖大量合成にも成功(リンクはこちら)して製品化・受託合成まで請け負っています。また新規な光延反応試薬も取り扱っており(こちら)、正に窒素化合物のスペシャリストといえます。

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大量のヒドラジンを取り扱えるメリットを生かしたピリジルアミノ化糖鎖切り出しスキーム

バイオマーカとして応用の可能性がある(詳細はこちらの同社カタログをどうぞ)

 ただ有機化学美術館(こちら)でも描かれているように、同社の得意とするヒドラジンをはじめ、アジ化物、アゾ化合物はご存知の通り極めて爆発性が高く(変異原性が高いものも多く)一歩間違えれば甚大な被害をもたらします。

ですが同社の沿革や歴史を調べた限り、爆発を含めた大規模な事故の記録はありません(合弁会社では1回事故が起こっていますが、同社本体ではありません)。これは、同社が蓄積している危険材料の取扱い技術と合成技術を極めて高いレベルで継承・運用できていることを意味しています。たとえば同社は1日あたりざっと2.5トンのアジ化ナトリウムを生産している計算になります。ここまで大量に扱うには相当の覚悟と技術が要りますが、同社はそれをやってのけているのです。驚愕に値するとはこういうことを言うのでしょう。

窒素化合物で耳にするのが「どこぞの研究室でクリックケミストリーをやってて学生の手首が飛んだ」とか「薬サジを置いただけで爆発した」とかいう話が多く、ネガティブな印象が大きいのですが、これら窒素化合物は医薬品や農薬、機能材料の根幹を支える材料でもあるということを忘れてはなりません。危険性の高いこの材料を支える増田化学工業を応援する意味で、本記事を書かせていただきました。

・・・ということで今回はここまで。今後も1回あたり2~3件の企業をご紹介していきます。

なお本件以外にも、必死で企業価値を上げ生き残ろうとしている企業は山ほどあります。それは化学系に限らず、機械系、電気系、非製造業でもです。本件では「化学者のつぶやき」ということで化学系企業に注目しておりますが、他分野でも日本各地に光る企業があることを言及しておきたいと思います。

 

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