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地域の光る化学企業たち-1

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今回は地方で粘り強く事業を発展させている化学系企業各位をご紹介します。

どうも、Tshozoです。一つ打ち合わせを終えるたびに息も絶え絶え。 3M社JSR社とご紹介をしてきて次は”BASF社”又は”JSR社-Continued”、又は”UBEスピリット”などをご紹介しようと考えていたのですが、これら規模の大きい会社の他にも目を向けていきたいという筆者の勝手な思いから、今回は小規模な化学会社にはどんな会社があるのかをご紹介していきます。特に、資本力が大きくないけれども地方に拠点を置き、強みを磨いて生き残っている会社にスポットを当てます。 まず概論から。 一般的に化学材料を供給する会社は製品ピラミッドの中に組み込まれています。液晶テレビの一部である偏光板を例にとると、下図のように多くの原材料メーカが関わっています。家電や自動車も大体同じような仕組みです。仮に、偏光板というピラミッドのみが会社の唯一の存在場所(売上げ元)である場合、万一ニーズが無くなればお金が入ってこなくなり即倒産、ということになりかねません。そのため各社は出来るだけ様々なアプリケーションに使ってもらえるよう新素材を開発し続け、提案活動・販路開拓を行い、売り先が無くなるリスクを減らしています。

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液晶パネルの重要部材である偏光板に関わる企業(こちらより引用)

 この販路開拓の事例を挙げましょう。以前ご紹介したJSRの吉田淑則会長は国内単独のピラミッドの中に居る危うさに気づき、1990年時点でアジア・米国・欧州の3体制で 各社仕様に応じたレジストの合成・生産を開始するという英断を行っています。これは1個のピラミッドの中のみに存在することの危険性を把握していたからで しょう。いずれにせよ20年前に既に手を 打っていたことは驚きに値します。 しかし一定の売り先を確保しつつ新規開拓を行うのは(JSRのように資本力がかなり高い企業ならともかく)資金力の乏しい中小企業にとっては老舗・新興会社含め極めて難しいことです。ですが逆に言えばそれが出来ている会社が生き残っていると言えます。これを地域別にご紹介していきましょう。まずは手始めに3社。

 

【北海道~東北】

株式会社アミノアップ化学

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菌糸類の培養が同社の中心技術

 農作物の育成調整剤開発に端を発する、創業昭和59年の会社です。同社の名称でもある「アミノアップ」などの生理活性物質に焦点を当て、研究開発主体の事業を行っています。生理活性物質や育成調整剤と聞くと効果があるのか怪しいものが多い中、信頼を勝ち取るために農林省や農業試験場とのリンクを生かしながら科学的な証拠を積み上げて特長ある材料を製品化しています。加えて狭い範囲ではありますが学会を立ち上げたり医学部との共同研究を通して自社製品の効果を検証していくなど、広告をやたら打つだけの胡散臭い他の会社との差別化と正確性を高め続けている北海道のバイオ系企業です。 強みは菌糸類の培養技術と各大学の医学部・薬学部、農業試験場などとのネットワークを生かした製品開発体制にあると言えるでしょう。また最初に挙げた「製品のピラミッド」に組み込まれにくい製品が主であるため、ニーズの消滅や急激な縮小といったリスクが比較的低い立場にいることも特徴と言えます。 ただ純粋な「医薬品」製造会社ではなく、特に植物からの抽出物が製品に多いため「健康食品企業」というレッテルを貼られてしまいかねないと感じる部分があるのは少々残念です。今後、医薬品などにつながるような製品や材料の開発が成功することを期待しましょう。

 

【関東・甲信越】

共同技研化学株式会社(KGK)

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こちらは純粋な化学品会社とは違いますが、加工プロセスと材料の工夫で液晶パネルや有機ELに用いられる両面テープ、両面ゲルテープ、及び防水シール用両面テープの開発に成功している会社です。この不景気にも関わらず売上げを伸ばし続けており、某週刊誌によれば韓国財閥系企業から会社買収の誘いがあったほどだとか・・・

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KGK社の基本技術である「分子(量)配向膜」

 同社の特徴は何と言っても「分子量配向技術」です。もともと液晶部材の張り合わせには強度保持層であるPETフィルムに接着剤を両面に塗工したものを使っていました。ところが厚みが安定しない、引剥しや加水分解に弱い、打抜き成形が難儀と色々問題を抱えていました。 これに対し、同社は上図のような「アクリル系高分子層(支持部)が断面中心にあり、同じくアクリル低分子層(接着部)がその両面に存在しその分子量が傾斜的に変化」している特異な構造を持つフィルムの製造に成功。開発から量産まで3年以上かけ、従来品に対し大きく優位に立ったのです。さらにこれを応用しアクリルゲル系材料でも同様の構造を成立させ、衝撃吸収剤 兼 空隙充填剤としてスマートフォン等に使用されているようです。加工性のよさと強度の高さ、衝撃吸収性など今までに無かった機能を持つ両面テープであることから、様々な分野で用途が広がっています。液晶パネル以外のニーズを広げつつ、どの分野でもキーとなる自前技術で勝負するという、技術系企業のお手本とも言えるでしょう。 なお同社の濱野社長はもともと○子製紙の子会社におられたようなのですが、両面テープが最も付加価値を付けられる分野のはず、という意気込みで独立。相当な紆余曲折の中、支持体の無い両面テープの製造が生き残りの道、ということでこの分野へ突撃されたそうです。製造現場で死線をくぐり抜けた迫力がある方です・・・

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共同技研化学 濱野社長・・・

【関西】

神戸天然物化学株式会社

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 こちらはいわゆる「受託合成」に特化している、合成化学界の『傭兵部隊』とも言える会社です。 大学・大学院では目的合成物を作る場合、出発材料からスタートして、学生~ポスドク各位が肉体労働的に総攻撃で合成するのが教育的見解からも一般的です。ところが企業では必ずしもそうではなく、ある程度のステップが分かっているなら自分たちでは作らず、場合によっては外部にお金を払って任せてしまいます。器具をそろえるのに時間がかかったり繰り返しの合成だったり不得手な合成だったりする場合は、早く、しかも確実に合成してくれるからです。 この「お金を払って任せる先」で活躍するのが、神戸天然物化学です。この会社は数mgから最大数トンまで、また材料も医薬中間体・バイオ系材料から有機EL用材料・高分子材料まで、非常に幅広い受託合成を受けてくれる守備範囲の広さが最も大きい特徴でしょう。単純に受託する以外にも提案を盛り込んだ合成ルートを示したり、合成のコスト低減を目指し中国に子会社を作るなど、様々な工夫を凝らして顧客の満足度を高めようとしています。

 

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同社の受託合成対応範囲・一般の受託合成会社に比べ極めて広い(同社HPより引用)

 

弱点といえば「特長とする合成方法を持たない」というところのようです(強みでもあるのですが)。しかし一部案件を受託研究化・共同研究化して知財権を獲得するなどで補完しており、さらに有機合成以外の生化学にも広げより多くの顧客を受け入れようとしています。プロジェクト上、多くの合成物を作らなければならないのに時間が全く足らない等の問題を抱えている方の強い味方となる会社だと思います。 ・・・と、いずれも特徴のある化学系会社3社でした。各社比較的財務も健全で、技術力をテコにより高みを目指しているところばかりです。 ただし、このように地方の雄と言われる会社であっても、独立性が高い半面ワンマン経営になりがちで、労働環境が苛酷である場合も多々あります。近々で個人的にショックだったのは粉飾決算を継続していた林原のケースです(注:同社は化学品中堅商社の長瀬産業殿が再建にあたり復活を模索しています)。上記に述べた3社がこれらの面でどのような会社なのかは一義的には申し上げられませんが、経験的にはいずれの会社のスタッフも真摯であったことは強く印象に残っています。 ともかく、個人的には日本が競争力を維持出来るのはこれら化学分野のみではないかと思います。つまり、モノを見たり計ったりするだけでは簡単に真似が出来ず、かつ高い繊細さが要求される化学領域にこそ、日本人が生き残り、かつ価値を創造・提供していく余地があると思うのです。「分子を操る」究極の匠とも言える各社の発展を願って止みません。 ということで今回はこれまで。本件は継続して、地域の雄たちを引き続きご紹介したいと考えております。次回は【中国~四国】と、【東海~近畿】の予定です。

Tshozo

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メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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