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一般的な話題

リチウムイオン電池のはなし~1~

Tshozoです。 電池も化学、ということで少し背伸びをして電池のことを。まず最初ということで、ノーベル賞候補に何度も挙がっているリチウムイオン電池の発明者のひとり、旭化成フェローであられる吉野彰 博士(以下吉野フェローとさせていただきます)が対外的に発表された資料をもとに、ポイントが何であったかを絞って書いていこうと思います。

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吉野彰(よしの あきら) 博士 ご尊顔 日本化学会のWebサイトより引用

 

【はじめに】

電池は基本的には高校で学ぶ「ヘスの法則」に基づいていて、各材料の状態差をもとにした自由エネルギーが発生される活力の根源になります。なおヘスの法則は熱力学におけるカルノーの定理を含んでいて、結局「温度差を生み得る材料の状態差は、どこでも仕事の発生が可能である」ということ、これが電池の基本概念となります。

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たった1本の論文で世界を変えたイケメンカルノーとその論文「火の動力」の表紙
エネルギーの創出を水面の位置の差にたとえるアナロジーは電池の世界でも健在 

要は酸化される/還元される 2つの材料の反応前後の状態エネルギーに差がありゃ電池になりうる(本当に発電可能かどうかは別として)という話で。たとえば燃料電池。2000年には燃料電池車が100万台走るだろうと言われながらまだ全世界で500台未満、もしかしたら100台すら走ってないことはさておき、水素と酸素を直接燃やして発生する熱をエネルギーとして利用可能ですが、燃料電池はいわば「ゆっくり燃やして、電気エネルギーとして取り出す」ことをやっているわけです。この状態差(イメージ)は下の図のようになっており、

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数値は常温付近の値
実際には圧力とか温度とか初期状態・最終状態で若干変わる

この差分をゴニョゴニョ計算して算出した値が電池として発生出来る電位差になります。水素と酸素の場合は1.23Vが理論電圧値で、電解液が水系である限り、水系の電池は原則この電位を超えることはできません。

一方、今回の本題のリチウム(イオン)電池。現在最も市販されているタイプは

『「炭素間挿入リチウム」とも言うべきものと、リチウム金属酸化物との状態差を利用する』

という電池になっています。電解液が水ではないので電解反応が起こらず(起きにくく)、上記電位を軽く超えることができるため最新の組み合わせでは発生電圧が4.0Vを超えるレベルのものもあるはずです。

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だいたいこういうイメージ(Nano Energy(2013) 2, 439–442 より引用 こちら)
電解液部には実際は仕切り(セパレータ)が存在する

もちろん電池(厳密には2次電池)として動作させるためには、可逆的に元に戻る組合せが重要になります。たとえばモバイル系機器への市販化のためには狭くとも-10℃~60℃程度の温度窓でも高効率でキッチリ反応し、かつキッチリ可逆的に戻れる奇跡の組み合わせを見つけないとアカン。合成を少しでもやったことのある方ならそれがどれだけ難しいことか、容易に想像出来るでしょう。それをリチウムイオンを介在させる系で適切な組み合わせを世界で初めて見出した、それが吉野フェローが見つけた最大の成果なわけです。その成果は当該電池市販化はもとより、世界各地の研究機関で今なお続く材料探索の突破口を開くことにもなりました。

吉野フェローの資料より

ようやく本論。開発の歴史として、下記のようなプロセスを辿っていることがわかります。

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上で挙げた参考資料②より引用

ご自身がキーポイントとして述べておられるのは基本的に3点あり、

1、アノード(負極)側に適したグラファイト材料の発見
2、カソード(正極)側に適した正極材料の開発、それを使った野外実験
3、規格に合った起電力

です。1、2、は参考資料をご覧いただいた方がよいのですが要点だけ。

【1、アノード材】
当初一次リチウム電池(使い切り電池)には金属リチウムが使われていました。しかし金属リチウムはご存知の通り安全性に懸念があり、また再度金属化するのも不可能ではないですがなかなか難しい。では一体どうすればいいかというので吉野フェローが思い至ったのが炭化化合物(LixC6)でした。金属リチウムに対し大きくエネルギーレベルを変えず、しかも安定に充放電を繰り返せる材料を見出したのがまず第1点のポイントになります。当初は導電性プラスチックとして有名なポリアセチレンを使っていたようですが、最終的には上記の図のようにグラファイトと、VGCF(長繊維グラファイトカーボン)を混ぜたものが最適と見出したとのこと。

【2、カソード材】
この点は少し情報が錯綜しているのですが、毎日新聞殿朝刊(2013年10月初旬だったと思いますが・・・)に掲載された吉野フェローのお話を思い出してみると、確かこんなストーリーだったはずです。

「…実はどうにも上手く動く正極(カソード)材が見つからず、行き詰っていた年末に関係書類を整理していた。そこで見つけたのが、オックスフォード大Goodenough教授(現テキサスA&M大)、東京大学水島公一さん(当時助手・現東芝フェロー)の共研によるコバルト酸リチウム正極材の論文だった。これだ、と思ってすぐに材料と電池を試作し充放電が可能なことを証明した」

で、この二次電池を野外試験場で鉄球を落として(!)安全性、つまり破壊した時の可燃性を検証。下図(b)のように無事クリアし実際の製造をスタートさせることになります。

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コバルト酸リチウムを用いた電池は燃えなかった(b)が、リチウム金属の電池は燃えた(c)瞬間
“Angewandte Essay” (Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 2–5) より引用

なお水島公一氏はこのお話に登場する2人目の日本人で、後に市販化に大いに貢献されたソニーの西美緒氏(こちら)と同じく、「リチウムイオン電池正極材への金属酸化物の応用」というフロンティアを拓いたという重要な役割を果たされました。なおコバルト酸リチウムは分解した際に酸素を放出しやすくやや安全性に懸念があったため、小容量分野では組成改善やセパレータの機能改良(シャットダウン機能の追加)によってより安全な状態にして継続使用されており、一方大容量分野ではそのままではあまり使われず上述の分解しにくい複合金属酸化物や混合物が広く使用されています。

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これまでに調査されたリチウムイオン電池 正極・負極の主な組み合わせ一覧
“Electrification of Mobility and the Electrical Network
November 20th 2009, Madrid” ZSWによる資料を引用 こちら

【3、規格】

実は筆者が今回の資料で最も興味深かったのはこの点で、単純に技術的な問題を解決するだけでは市販化できなかったと吉野博士ご自身が感じられている点。つまり「最終的なニーズに合致していたのかどうか」という点です。

簡単に言うと「つなげられないコンセントタップは使えない」ということ。たとえば超硬質絶縁材で出来た、電極の幅が少し違うコンセントタップがあるとしましょ う。叩いても殴っても壊れない。耐久性ばつgyuん。しかし・・・コストも含めて使いモンになりませんよね。違う規格のコンセントに合致すればまだ救いようがありますが。

これは技術屋(一応、筆者含む)でも本当に肝に銘じなければならないことで、「開発や研究をするのはいいんだけれども出口の規格、きっちり見てますか」と。それがたまたま一致していた、つまり1本の電池で電気回路駆動電圧(3.0V)を出せるという、設計規格を満たしていたこ とが幸いして一気に市場を席巻することになったと記述されています(おそらく謙遜だとは思いますが)。こう見ると、「軽量」「高出力」という、性能自体は後付けとも見えてしまいますが、それらをクリアしていたからこそのご見解であるということは肝に銘じておきましょう。

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参考資料②P32より引用
赤線部は筆者追加

なおこの規格というのは細かいところでも極めて大きな力を持つ既得権であり、そこを変えようとすると返り討ちに合うのでやめた方がいいですよもので、簡単なところで言うと「電気回路の電圧の正負と電流の流れる方向が違う」ってこと等のように今更変えられんものがあって、それに合ってないと折角の努力も水の泡ということが起きます。筆者が子供の頃起きたβ-VHS戦争のような大規模なものはよく議題に挙がるのですが、今回のような小さく見えて実は要石となる「設計事由」に基づく規格は数多ありますので各位十分ご注意ください。反省を込めて。

開発のその後の展開

吉野フェローは旭化成ご所属です。そして、旭化成は電池メーカではなく化学材料メーカです。ということは電池を製造するノウハウがなく自前では作れない。普通ならここでオシマイですが、あまりにもインパクトの大きい電池であったため、事業化を検討し東芝との合弁会社を立ち上げます(後発に敗れ同会社は解散してしまいますが)。それに並行して同社は基本特許をガチガチに固め、ライセンスアウトして商売することも決めました。

そのライセンス先として最も真剣だったのがソニー(現ソニーエナジーデバイス)でしたが、リチウムイオン電池が水系電池と異なるのは半導体レベルのかなりクリーンな環境で作らないとアカンという点。でないと色々コンタミして動作不具合等ゴニョゴニョが起きますので、この点も加味して製造工程を作らなければならない。このリスクを最少化できたことが、同社が世界初のリチウムイオン「二次」電池の製品化と商品搭載に成功したポイントなのでしょう。

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ゴニョゴニョの例(後述するAvicenne社の資料より引用 こちら
このときは溶接工程のスパッタが電池内にもぐりこんでしまっていた模様
今もなお各社でリコールが発生する、根の深い問題

こうした努力により、リチウムイオン電池はモバイル機器の移動電源として市場を席巻し、ほぼあらゆる携帯機器に搭載されるという、青色発光ダイオードと同様の史上稀な発展を遂げました。一時は日本で製造した電池がほとんどのモバイル機器に搭載されたという時代もありましたが、今やパナソニック(+SANYO)とソニーがLG・サムソンとシェア争奪戦を繰り広げている状況です。大容量電池での勝敗はまだ決していませんが、同様に厳しい状況が続くものかと。まさに電池世界大戦ですわ。

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2012年時点での個数ベースの携帯機器用リチウムイオン電池シェア
現在は社名含めて若干変わっているので注意
フランスのエネルギーコンサル企業”Avicenne”社の発表資料(こちら)より引用

同社はリチウムイオン電池の市場予測を極めて正しく的中させたことで有名

ただ主要部材では結構今でも踏ん張ってて、たとえば青色発光ダイオードで有名な日亜化学は今回挙げた正極材で結構な世界シェアを確保していることはあまり知られていません。その他、電解液で三菱化学に三井化学と宇部興産、「鼻薬」に森田化学工業やセントラル硝子、負極材料の日立化成や昭和電工、セパレータの旭化成・宇部興産・東レ、関連バインダの雄クレハ・ゼオンなどが活躍しており、実績と高品質とでアドバンテージを維持している分野もあります。とは言うもののこれまた欧米に加えて中韓のメーカから追撃に苦しんでおり、これらの材料分野と言えども安泰ではありません。今後も継続的に商売を成立させるためには思い切った投資や、それこそ「ルールを変える」「違うフォルダの」技術開発が必要になるのでしょう。

で、こうして世に出ているリチウムイオン電池ですがまだ解決されていない課題があり(もう書いてますが)、これをめぐっては近年にもあちこちでトラブルが起きているのです。この点についてはちょっと長くなるので、今回はこんなところで。

 

参考資料

基本的には吉野フェローご自身が発表された資料を参考にいたしました

  1. 「リチウムイオン電池総論」 ぶんせき 2013年10月号 こちら
  2. 「リチウムイオン電池 現在・過去・未来」 SPring-8サスティナブルケミストリー研究会 2014年7月4日資料 こちら
  3. 「リチウムイオン電池 現在・過去・未来」 東京六稜会での発表資料 こちら
  4. 東レ経営研究所によるインタビュー内容 こちら 企業研究者としての視点、姿勢が素晴らしく重要な内容

 

関連書籍

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メーカ開発経験者(電気)。54歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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