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天然物の生合成に関わる様々な酵素

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初めて投稿させていただくゼロと申します。専門は天然物化学です。よろしくお願いします。

 

みなさん、天然物化学というと単離、構造決定のイメージが強いのではないでしょうか?実際、wikipediaの天然物化学の項目を見ても単離、構造決定、合成にしか触れられておりませんし、友人などに天然物化学を研究していると言うとモノトリをしていると思われてしまいます。しかし、近年の天然物化学は遺伝子や酵素も取り扱っており、生物学的なアプローチを駆使しています。これから何回かに分けて、単離、構造決定以外の天然物化学のトピックを紹介したいと思います。今回は、天然物の生合成に関わる様々な酵素を紹介します。

 

天然物の生合成

NPR 24(5), front cover (2007).gif

 

天然物は一連の反応により生合成され、いくつかの例外がないわけではないが、それらの反応は酵素により触媒されている。 
医薬品天然物化学(南江堂)より引用

 

学部生の頃、天然物化学の授業で数々の生合成経路のスキームを見せられましたが、各段階に関わっている酵素の反応機構に関しての解説は全く無かったと思います。天然物化学の授業は、生合成よりも、化合物の構造式や生物活性の暗記が主だったような印象があります。

 

 

酵素

NPR 24(3), front cover (2007).gif
酵素は、対応する化学反応より効率よく、また迅速に、しかもずっと緩和な条件下で変換する能力を持っている。 
医薬品天然物化学(南江堂)より引用

 

筆者は、天然物化学の研究室に入ってから様々な面白い反応を触媒する酵素に出会いました。それは、人類の有機化学の知識では未だ難しいとされる反応を触媒する酵素たちです。酵素を研究していると自然界の反応制御の精巧さにいつも感嘆させられます。

 

人名反応を触媒する酵素

 

二次代謝酵素の中には、人名反応を触媒する酵素も存在します。人類がフラスコ内で発見した人名反応と同じ反応を触媒する酵素が、それよりもずっと後に発見されたという事実は、とても面白いことだと思います。有機化学の発展が酵素反応機構の解明に貢献した例だと筆者は考えています。

今回は例として、Diels-Alder反応を触媒するDiels-AlderaseとPictet-Spengler反応を触媒するPictet-Spengleraseを紹介します。

 

人名反応を触媒する酵素の例

Diels-Alderase

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Pictet-Spenglerase

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酵素の秘めるポテンシャル

 

いくつかの酵素は、現在の有機化学では難しいとされる反応を簡単に触媒してしまいます。このような酵素に出会う度に、酵素の有する高いポテンシャルに驚かされます。これからもおもしろい反応を触媒する酵素が次々に見つかっていくと思います。

今回は例として、近年研究が盛んな分野であるC-H activationを触媒する酵素を紹介します。この酵素反応のすごいところは、directing groupの無いアルキル鎖のC-H結合を選択的に反応させるところではないかと思います。

 

np1205102.png

酵素の機能改変

 

天然物化学では、酵素の機能解析だけではなく、これら二次代謝酵素の機能改変も行なっています。二次代謝酵素では、酵素の立体構造のほんの少しの違いが基質特異性や反応の選択性に影響を与えており、これこそが天然物の多様性を生み出す一因と言われています。

例えば、P450 BM3 (CYP102)という酵素は、本来lauric aidを基質として受け入れるのですが、F87Aという変異をかけることによりtestosteroneを基質として受け入れるようになります。たった一つのアミノ酸残基の違いで基質特異性が大幅に変わる良い例だと思います。

また、P450 BM3(F87A)の酵素キャビティ内のその他のアミノ酸残基に変異をかけることにより、水酸化反応の選択性を変化させるということも達成されています。

 

np1205.png

 

二次代謝酵素は基質特異性が比較的寛容なため、従来の「鍵と鍵穴」という酵素の概念を覆し、エンジニアリングの可能性を秘めています。本来の基質とは異なる基質アナログの投与を行なうことによって新規化合物を作り出す試みも多数行なわれています。これについては、今後紹介していきたいと思います。

現在までに、様々な酵素の機能解析、機能改変、基質特異性の検討が行なわれてきており、酵素ライブラリーが充実してきています。近年では、いくつかの酵素を組み合わせることにより、デザインした化合物を合成するという試みもなされています(Combinatorial Biosynthesis)。酵素反応だけを用いた有機合成と言ったところでしょうか。

今回は、いくつかの酵素をざっくりと紹介しただけですが、これからいろいろな興味深い反応を触媒する酵素の反応機構をもっと詳しく紹介していきたいと思います。

 

まとめ

筆者の在籍している大学では、天然物化学の研究室を志望する学生が少ないです。そのひとつの理由として、天然物化学がどのようなものなのかがあまり知られていないということがあると思います。実際、いろいろな方とお話をして遺伝子や酵素を扱っていると言うと驚かれることがあります。今回の記事を読んで天然物化学に興味を持つ方が増えてくれたら幸いです。

 

  • 参考文献

1. 医薬品天然物化学(南江堂), Dewick、海老塚豊監訳

2. ’’Life imitates art’’ Wendy L. Kelly Nature 473, 35–36 (2011) DOI:10.1038/473035a

3. ’’The Pictet–Spengler Reaction in Nature and in Organic Chemistry’’ Joachim Stöckigt, Andrey P. Antonchick, Fangrui Wu, Herbert Waldmann, Angew. Chem. Int. Ed., 50, 2 –29 (2011) DOI: 10.1002/anie.201008071

4.’’Regio- and stereodivergent antibiotic oxidative carbocyclizations catalysed by Rieske oxygenase-like enzymes’’ Paulina K. Sydor, Sarah M. Barry, Olanipekun M. Odulate, Francisco Barona-Gomez, Stuart W. Haynes, Christophe Corre, Lijiang Song & Gregory L. Challis Nature Chemistry 3, 388–392 (2011) DOI:10.1038/nchem.1024

5.’’Regio- and stereoselectivity of P450-catalysed hydroxylation of steroids controlled by laboratory evolution’’Sabrina Kille, Felipe E. Zilly, Juan P. Acevedo & Manfred T. Reetz, Nature Chemistry 3, 738–743 (2011) DOI:10.1038/nchem.1113

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女の子。研究所勤務。趣味は読書とハイキング ♪
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