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なぜあの研究室の成果は一流誌ばかりに掲載されるのか【考察】

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Nature誌やScience誌は科学者ならば誰もが認める一流ジャーナルとして認識されています。そういった一流誌をチェックしていると、特定の研究室が定期的に論文を掲載しているように感じます。この記事では、そのような研究室ではいかにして一流の成果を出し続けているのかを考察してみます。

はじめに

自分で言うのはなんですが、私はいわゆる”一流研究室”に所属していると思います。むしろ、「ここは一流研究室だ」と思ったところに、志願して留学しに行っているわけで、外から見たときと一流研究室として見ていました。実際に今年の主要な出版論文を見てみると 2021 年9月12日現在でScienceに1報、JACSに5報、Nature Chemistry に1報を掲載しており、化学系の研究室としては世界中を見渡しても稀有な業績だと思います。とはいえ私自身はこれらの業績に貢献していないため、決して自慢をしているわけではありません。むしろ自分自身、このような超スーパー研究室に、どういうわけか、縁あって紛れ込んでしまったことにプレッシャーを感じるとともに、先輩たちに負けないような成果をいつか出したいと言う思いで日々研究に励んでいるわけです。

ところで、日々研究に邁進することは大事ですが、一流の成果を出すためには「なぜこの研究室では、こうも一流ジャーナルに論文を出し続けられるのか」というメタ的考察も必要かな、と感じてきました。というわけで、ここ3年弱、”一流研究室”を内側からみて感じてきたことをとりとめなく書き記してみようと思います。ただし、私は合成化学系および材料化学系の研究に携わっており、ここでの考察が化学全般全てに通じるとは思ってはおりません。また、私はまだ研究者として未熟なので、私がまだ気づいていないもっと重要な要因もあるとは思います。あくまでもある特定の分野の一人の学生の考察ということで、ご笑覧ください。

少々長くなってしまいましたので、タイトルの問いに対する答えとして、私が考察して導き出した3つを箇条書きにしておきます。

学生が自主的にのびのびと研究できる雰囲気がある
そもそも面白くない研究は表に出てこない
化学を愛する優秀なメンバーが多い

学生が自主的にのびのびと研究できる雰囲気

1つ目は、研究テーマの決まり方と指導教官の指導スタイルと関係しています。研究室の中では、「こういった概念が実現で達成されれば、分野のブレークスルーになる」という研究目標が共通認識として共有されています。一方で、新しいメンバーが指導教官から与えらるテーマは大雑把なものでしかありません。言い換えると、指導教官は具体的なアイデアまでは指定しません。大きな目標だけをポイっと学生に投げます。どういった化合物を作ればその概念が実現できるかは、学生自身が考えます。ときどきスポットライトリサーチを見ていると、「このテーマは実は闇実験から生まれたもので…」といった話を見ることがありますが、この研究室の成果は、かなり高い割合で闇実験から生まれている(学生が自主的に考えたアイデアから始まっている)といっても過言ではないでしょう。

言ってしまうと、私の指導教官は放任主義です。その分、研究テーマ設定の自由度は高く、学生はクリエイティブに、活き活きと研究に取り組んでいる印象です。「これやっといて」と他人に言われて試す実験よりも、「こうすればうまくいくんじゃないか」と自分で考えた実験のほうがやる気が出ますよね。

ちなみに、「指導教官が放任主義」といっても、何もしないわけではありません。月例の報告会の際に、例えば学生が迷走しかけた場合にはうまく軌道修正するような助言をくださいます。そして、学生が論理立てて実験している限りは、思うような結果が出なかったからと言って叱責することはしません。学生発の面白いアイデアはどんどん奨励します。こういった指導教官の忍耐強さにより、学生は焦らずに腰を据えて実験ができ、大きな成果に繋がりえる研究に取り組めるのだと思います。

そもそも面白くない研究は表に出てこない

上で学生が研究のアイデアを発案すると書きましたが、研究者として未熟な学生が考えたアイデアが、全てうまくいくわけありません。そうです。この研究室には論文にならなかったプロジェクトもたくさん存在するのです。たとえ理論的にはうまくいきそうだったしても、実際に始めて見ると「そもそもそんな化合物は作れない」ということは日常茶飯事です。報告会では、ネガティブな結果もたくさん目にします。もし思うように結果が出なかった場合には、プロジェクト開始から数ヶ月後、ときに1年後に思い切ってプロジェクトを打ち切り、別のアイデアを探索する人もいます。

要するに、そもそも面白くない結果は論文にしないだけで、実際の一流研究室の現場であっても、たくさんの失敗作が生まれているわけです。これは、外から見ているだけでは気づくことができない事実でしょう。

化学を愛する優秀なメンバーが多い

現在、私の研究室には、学生とポスドクを含めて40人近くが在籍しています。当たり前ですが、研究室の人数が多いと、それだけ報告される論文の数は多くなります。それぞれのPhD学生が卒業までに3本程度の論文を自分で書いて出すことが目標になっているからです。

人数の問題だけでなく、評判がいい研究室には優秀な人も集まりやすいです。周りの学生を見渡せば、Stanford, Caltech, Harvard などのトップスクールを卒業してきた人ばかりです。たとえ学部でトップスクールを出ていなくても、大学院1, 2年次の講義で基礎を叩き込まれることで学生の基礎学力は底上げされています。さらに Qualification Exam を通して、研究を見つめ直す機会があるので、特に Qual を通った上級生になるほど、研究の独立性があがっている印象です。学生が自由にアイデアを実行してそれが成果に繋がることは学生の基礎学力の高さによって支えられていると思います。

ポスドクに目を移せば、皆が自前で奨学金を持ってきており、しかも学生時代にScience/Nature/JACSに筆頭著者として複数回掲載したことがあるスーパー研究者ばかりです。そういったポスドクたちは、ハイインパクトジャーナルに結果を掲載させるための研究の遂行方法を知っているため、学生にとってよいお手本になっています。

もう一点特筆すべきは、研究室のフレンドリーで協同的な風土です。上で「月例の報告会の際に、例えば学生が迷走しかけた場合にはうまく軌道修正するような助言」とお話ししましたが、むしろ指導教官からフィードバックをもらう機会は月に一度しかないとさえ言えます。それほど巨大研究室の教授は多忙なのです。ではそれが強い欠点になっているかと言うと、意外とそうでもありません。なぜなら、たとえ研究に行き詰っても、近くの上級生やポスドクに相談すれば、良いアドバイスがもらえるからです。そして、皆化学が大好きなので、研究のディスカッションには喜んで乗ってくださいます。研究テーマが近い人同士では、毎日のようにで気軽に結果を報告しあい、次の一手のアイデアを出し合います。ときにはビールを飲みながら、化学についてフレンドリーにディスカッションできる相談役がすぐ近くに複数人いることは、指導教官の放任型指導を補って余りあるほどの利点があります。そして、学生やポスドクが指導教官の放任型指導を逆手にとって(?)、自由奔放に研究していることは、奇抜なアイデアを産んだり、目先の結果にとらわれずに時間をかけて研究できる雰囲気を生み出しているとも思います。

まとめ

一流研究室に潜り込んで見て気づくことは、外から見るとキラキラした成果ばかりが見えるかもしれませんが、中の人々は日々苦労しているということです。そして、このような研究室に入ったからといって、無条件にいい論文が出せるわけではありません。しかし、 successful な PhD のロールモデルが近くにたくさんいるため、どうすればそういった研究者に近づけるのかを学びやすいことは事実です。今回の分析を通して、多くの successful な先輩は、独自に新しいアイデアを実行して研究室内(ひいては世界中の研究者)の新しい流れを作り出している、ということにも気づきました。

まとめると、優れた研究成果を出すためには、よく学び、よく働き、よく飲むという姿勢が大事なのかもしれません。

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ポスドク。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

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