[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

逐次的ラジカル重合によるモノマー配列制御法

[スポンサーリンク]

第33回のスポットライトリサーチは、日比裕理さんにお願いしました。日比さんは京都大学大学院工学系研究科(澤本研究室)で博士号を取得後、現在は東京工業大学 化学生命科学研究所(彌田研究室)にて博士研究員として勤務されています。

今回紹介する内容は京都大学在籍時の成果であり、先日プレスリリース・論文が公開されていました。本来は連続的かつノンストップで進んでしまうラジカル重合にひと工夫して一つずつ繋げる条件へと整え、配列を精密制御できる手法を実現しています。分子設計が大変巧みであり、高分子合成と精密有機合成の中間に位置する研究と形容できるかもしれません。

“A strategy for sequence control in vinyl polymers via iterative controlled radical cyclization”
Hibi, Y.; Ouchi, M.; Sawamoto, M. Nat. Commun. 2016, 7, 11064. doi:10.1038/ncomms11064

現場で直接指導された大内誠 准教授は、日比さんをこう評しておられます。

当初,日比君は核酸塩基の相補的相互作用と切断性基を組み合わせて,同じようなコンセプトを実現しようと提案し,実際途中まで進めていました。こちらも十分面白い設計だったのですが,途中で反応の進行が難しくなって,同じ切断基でも再生できる非対称切断基を導入するというアイデアを出してくれました。コンセプトは斬新で魅力的だったのですが,実際の分子設計とコンセプトの実証に至るまで,涙抜きには語れない紆余曲折がたくさんありました。断念しようと話し合ったこともあったように思います。反応中に切断性基が切断してしまう問題を触媒の選択と条件の最適化によって克服し,切断反応で起こってしまった予想外の副反応のメカニズムを推察することで,それを回避する反応順序を提唱し・・・全て日比君の精巧な洞察力とアイデアがないと解決できなかったと思えます。
一見シャイで我関せずタイプと思いきや,留学先のGrubbs研ではたくさんの人と友達になって戻ってきましたし,彌田研でも後輩の面倒見が良いとも聞いています。人徳もあって,よく考えて大胆な研究を推進できる日比君の研究者としてのこれからの活躍が楽しみでなりません。

それではいつもどおり、研究のリアリティをご堪能ください!

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

ラジカル重合におけるモノマー配列制御の方法論を提示した研究です。ラジカル重合ではオリゴマー化を伴わないモノマー一分子成長が制御困難なため、開始剤に対してモノマーを一分子ずつ、逐次的に付加させることができません。そこで、テンプレートに切断性のリンカーを介して開始剤とモノマーを一分子ずつ導入し、近接効果により一分子付加を制御しました。その後、リンカーの切断と再生により、テンプレート上にモノマーを再導入し、構造を初期化します。この「一分子付加・切断・再生」の3ステップ1サイクルにより、本来連鎖的なラジカル重合を逐次的に成長させ、配列制御の可能性を示しました。

sr_Y_Hibi_1

「一分子付加・切断・再生」の連続サイクルによるモノマー配列制御

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

システム全体の構想です。特に一分子付加後、テンプレートの構造を初期化し、一分子付加を繰り返し行うことを可能とする戦略と、それを実現させる分子設計を工夫しました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

分子設計、特に二種一組のリンカー選定です。定量的な切断・再生が可能で、かつ切断条件が直交する(両者共存下で選択切断可能な)リンカーがこの構想には必要でした。超分子分野で著名なDavid Leigh「歩く小分子」のリンカーを参考にしましたが、テンプレートを一方方向(高分子鎖の成長方向)に進行させるためには、非対称的な切断が必要になります。そのような条件を全て満たす二種一組のリンカーを、モデル化合物を用いて広く探索しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

高分子を基軸に、いろんな分野の化学を経験したいと思います。あと、セレンディピティとやらを一度でいいから体験できるように、見落とさない化学者になりたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。新しいテーマで実験を始めるときのわくわく感は本当に楽しいと思います。もし、研究に行き詰っているならば、ひとまずそれは置いといて、何か新しいことを始めたら如何でしょうか。行き詰った研究もしばらく置いているうちに、解決策を閃くときがくるかもしれません。

関連リンク

研究者の略歴

sr_Y_Hibi_2比  裕理 (ひび ゆうすけ)

京都大学工学研究科 澤本研究室

現所属:東京工業大学 化学生命科学研究所 彌田研究室

研究テーマ:高分子の構造制御

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 【経験者に聞く】マテリアルズ・インフォマティクスの事業開発キャリ…
  2. 製薬産業の最前線バイオベンチャーを訪ねてみよう! ?シリコンバレ…
  3. アレノフィルを用いるアレーンオキシドとオキセピンの合成
  4. 細胞の中を旅する小分子|第一回
  5. Carl Boschの人生 その2
  6. Delta 6.0.0 for Win & Macがリリ…
  7. ノーベル週間にスウェーデンへ!若手セミナー「SIYSS」に行こう…
  8. ヒバリマイシノンの全合成

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. Pubmed, ACS検索
  2. 「ペプチドリーム」東証マザーズ上場
  3. 新しい抗生物質発見:MRSAを1分で99.99%殺菌
  4. 3Mとはどんな会社? 2021年版
  5. 微生物細胞に優しいバイオマス溶媒 –カルボン酸系双性イオン液体の開発–
  6. ADEKAの新CMに生田絵梨花さんが登場
  7. 化学物質だけでiPS細胞を作る!マウスでなんと遺伝子導入なしに成功
  8. 化学企業のグローバル・トップ50が発表【2021年版】
  9. ケムステバーチャルプレミアレクチャーの放送開始決定!
  10. 3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン1-オキシド:3-Methyl-1-phenyl-2-phospholene 1-Oxide

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年5月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

注目情報

最新記事

メカノケミカル有機合成反応に特化した触媒の開発

第 497回のスポットライトリサーチは、北海道大学総合化学院 有機元素化学研究室…

ポンコツ博士の海外奮闘録XVII~博士,おうちを去る~

ポンコツシリーズ国内編:1話・2話・3話国内外伝:1話・2話・留学TiPs海外編:1話・…

研究内容を「ダンス」で表現するコンテスト Dance Your Ph.D.

アメリカ科学振興協会(AAAS)と科学誌Scienceが開催する論文ダンスコンテスト「Dance…

ゲノムDNA中の各種修飾塩基を測定する発光タンパク質構築法を開発

第496回のスポットライトリサーチは、東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科 バイオニクス専攻…

SDGsと化学: 元素循環からのアプローチ

概要 元素循環化学は、SDGs の達成に寄与するものとして近年関心が増している。本書では、元…

【技術者・事業担当者向け】 マイクロ波がもたらすプロセス効率化と脱炭素化 〜ケミカルリサイクル、焼成、乾燥、金属製錬など〜

<内容>脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つとして、昨今注目を集めているマイクロ波。当…

分子糊 モレキュラーグルー (Molecular Glue)

分子糊 (ぶんしのり、Molecular Glue) とは、2個以上のタンパク質…

原子状炭素等価体を利用してα,β-不飽和アミドに一炭素挿入する新反応

第495回のスポットライトリサーチは、大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻 鳶巣研究室の仲保 文太…

【書評】現場で役に立つ!臨床医薬品化学

「現場で役に立つ!臨床医薬品化学」は、2021年3月に化学同人より発行された、医…

環状ペプチドの効率的な化学-酵素ハイブリッド合成法の開発

第494回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院生命科学院 天然物化学研究室(脇本研究室) 博…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP