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スポットライトリサーチ

金属錯体化学を使って神経伝達物質受容体を選択的に活性化する

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第57回目のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科浜地研究室窪田亮助教にお願いしました。タンパク質の選択的活性化法の開発は、生命現象の解明や制御に大きく貢献するとされ、ケミカルバイオロジーの中でも最も盛んに研究が行われている領域の一つです。窪田助教が所属する浜地研究室は、当領域のトップランナーとして、これまで数々の活性化手法を報告しています。(過去記事:①細胞表面受容体の機能解析の新手法②浜地格教授のインタビュー)
今回紹介させていただくのは、今年6月にNature Chemistry誌に報告された、狙ったグルタミン酸受容体の選択的活性化に関する論文です。プレスリリースはこちら

“Allosteric activation of membrane-bound glutamate receptors using coordination chemistry within living cells”

S. Kiyonaka, R. Kubota, Y. Michibata, M. Sakakura, H. Takahashi, T. Numata, R. Inoue, M. Yuzaki, I. Hamachi, Nature Chem. 2016Advance Online Publication.

DOI: 10.1038/nchem.2554

 

浜地研究室のHPを見ると、今年だけでNature姉妹誌になんと5報もの論文を発表しています。驚異的な数字ですね。また、窪田助教はケムステ2度目の登場となります。(過去記事:ナノ孔に吸い込まれていく分子の様子をスナップショット撮影!東京大学大学院塩谷研究室で培われた金属錯体化学の知識・技術を武器に、ポスドクとしてケミカルバイオロジーの分野に飛び込み、見事素晴らしい結果を残していらっしゃる姿に、現在ポスドクである著者は憧れとともに深く尊敬の念を抱きます。
浜地格教授、清中茂樹准教授からも、窪田助教に対して次のようなコメントをいただいております。

浜地教授

” 窪田助教は、東大理学部化学科塩谷研で錯体化学を極めて博士号を修得し、何を思ったか「ちょっと変わったChemical biologyや超分子材料」を研究する浜地研にポスドクとしてやってきた若手研究者です。このテーマは清中准教授と浜地のDiscussionに端を発しますが、窪田君の参加によって錯体化学的アプローチが加わり、当初の想定より数年早く第一段階を突破しました(それでも3年以上かかっていて、その間に彼はポスドクから助教になりましたが…)。これはひとえに窪田君がこれまでの自分の専門にこだわりすぎず、うちにやってきて初めて経験する生化学や分子生物学、細胞生物学などの多岐にわたる知識や技術を貪欲に吸収し身につけ、その上で錯体化学的戦略を統合していってくれた賜物です。このような分野を飛び越える若い世代の活躍がとても大事になると思います。”

清中准教授:

” 窪田さんが、浜地研究室のポスドクとして参加してから、一緒に研究を行ってきました。研究内容に関しては、浜地先生の書かれた通りです。僕から加筆する点として、この研究は、浜地研究室としても新たな研究展開であったため、論文には記載されていない所で色々な壁がありました。多くの人はここで諦めてしまいますが、窪田さんは決して諦めず、粘り強く実験を続けて問題点の本質を見抜き、見事にこれらの壁を打破して今回の論文成果となりました。今後も、塩谷研で培った錯体化学に加えて、本研究を通じて身につけたケミカルバイオロジー関する技術や知見を生かしたフロンティア研究を進めてくれると確信しています。”

今後、益々飛躍するであろう窪田助教、ならびに浜地研究室の化学に目が離せませんね。

それでは窪田助教に執筆いただいた研究紹介をお楽しみください!

 

Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどんな研究ですか?

神経伝達物質受容体の一種であるグルタミン酸受容体を、特異的に活性化できる新たな金属錯体化学的手法(On-cell Coordination Chemistry: OcCC)を開発しました。本研究のターゲットであるグルタミン酸受容体は、我々の神経細胞の細胞膜上に存在し、記憶や学習に関与するとされる神経学的に重要な膜受容体です。本研究では、グルタミン酸受容体に活性化時に示す構造変換を、遺伝子工学的に導入したヒスチジンとパラジウム錯体間の配位結合により安定化・誘起することで、選択的な活性化に成功しました(図1)。グルタミン酸受容体は、リガンド作動性イオンチャネル型とGタンパク質共役受容体型に分類され、その中にもサブタイプと呼ばれる多様な種類が存在しますが、個々のサブタイプが担う機能は未だ不明なままです。本手法は、解析したいサブタイプを選択的に活性化できるため、グルタミン酸受容体の生理機能、さらには脳機能の詳細解明に役立つと期待されます。

図1:これまでの活性化機構と本研究で提案した活性化手法の模式図

図1:これまでの活性化機構と本研究で提案した活性化手法の模式図

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

この研究テーマは日の目を見るまで3年かかり、個々の実験において様々なストーリーがあります。その中でもやはり一番印象的かつ興味深い出来事は、パラジウム錯体を用いてグルタミン酸受容体を活性化できた瞬間です。今回検討したイオンチャネル型グルタミン酸受容体は、高さ18 nm、幅15 nmの巨大な四量体型膜タンパク質です。そのような膜タンパク質をパラジウム中心とHisからなるたった2本の配位結合(四量体のため正確には8本ですが)で制御できることに信じられない気持ちがしたと同時に、金属錯体化学がもつ圧倒的な力に大きな感銘を受けました。この金属錯体化学がもつ力でケミカルバイオロジーの新しい手法・領域を切り開きたいというのが、現在のモチベーションの一つとなっています。

図2:イオンチャネル型グルタミン酸受容体の結晶化構造

図2:イオンチャネル型グルタミン酸受容体の結晶化構造

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

レフリーに指摘された「変異導入したHisとPd錯体間の配位結合の証明」が一番の難関でした。最終的には、共同研究として横浜市立大学の高橋栄夫先生、坂倉正義先生に二次元NMR測定を行っていただき、配位結合の直接的な証明に成功しました。高橋先生・坂倉先生のご協力なしでは、リバイスという差し迫った状況下で、あれだけの美しいデータを取得できなかったと思います。また裏話として、この共同研究は浜地先生と高橋先生が新学術領域会議で偶然(?)お会いした縁で始まりました(ちょうど論文を投稿した時期だったと記憶しています)。この運命の出会いがなければ、配位結合の証明ができていなかったかと思うと、人との出会いは大切にしなければならないと強く感じています。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

「生命とはなにか?」という根源的な問いにどうにか挑戦していきたいと考えています。遺伝子工学では昨今の技術的発展(OptogeneticsやCRISPR-Cas)によりツールが揃いつつある印象を受けますが、化学(特に超分子化学)は全く生命現象に太刀打ちできていません。目先の応用を目指すのではなく、分野にとらわれない何か新しい化学としてのコンセプトを打ち出す必要性を強く感じています。最近、一つの方向性として超分子ナノファイバーのself-sort現象について報告しています(Nat. Chem. 8, 743 (2016))。さらなる発展に関しても、今挑戦を続けているところです。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

ぜひリスクを恐れずに新しい研究分野に飛び込んでください!浜地先生のコメントにあるように、私は深く考えずにケミカルバイオロジーに参入した人間ですが、新しい分野に飛び込むことで研究の視野が大きく広がったと感じています(浜地研が非常に多様な研究テーマを走らせていることも多大な影響があります)。みんなで新しいことに挑戦し、日本を盛り上げていきましょう!

また最後にこの研究テーマを遂行するにあたり、お世話になった浜地先生、清中先生、共著者の先生方、さらに浜地研の全メンバーにこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

 

関連リンク

京都大学大学院工学研究科浜地研究室

 

研究者の略歴

窪田 亮(くぼた りょう)OLYMPUS DIGITAL CAMERA

所属:京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻 浜地研究室 助教

略歴:2013年3月 博士(理学)取得、東京大学大学院理学系研究科(塩谷光彦 教授)。2013年4月 京都大学大学院工学研究科 博士研究員(浜地格 教授)。2015年1月より現職。

研究テーマ:生命を制御し創造するための化学技術の開拓

 

 

めぐ

めぐ

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博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

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