[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第五回 化学の力で生物システムを制御ー浜地格教授

[スポンサーリンク]

第5回目となりましたこの研究者へのインタビュー。今回は第2回目の伊丹健一郎先生からのご紹介で京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻生物有機化学講座を主催している浜地格先生にインタビューにご回答いただきました。浜地先生は主に細胞有機化学と称した、タンパク質を中心としたケミカルバイオロジー研究を行っています。最近は、数々のすばらしい結果を報告している非常に活発な研究者です。研究はもちろん人柄も素晴らしい先生であり、個人的にも今回インタビューできたことは大変うれしいことでした。それではインタビューを御覧ください。

Q. あなたが化学者になった理由は?

中学時代に、全ての物質(生き物も石ころも)が原子/分子から出来ていることを教わって、不思議にわくわくした事が間接的な動機でしょう。もっと直接的には、高校3年の担任が化学の春田先生で、当時哲学者になりたかった自分に、<それじゃ飯は食えんが、化学で哲学しているヒトが京都の工学部に居る、化学で哲学なら飯食える>、と熱く語られて、化学同人から出版されていた「クラウンエーテルの化学」を貰ったことによります。それが京大工・合成化学におられた田伏先生で、私がD3の時に白血病で亡くなられたのですが、掛け替えのない恩師の一人になりました。

[amazonjs asin=”B000J8FSZK” locale=”JP” title=”クラウンエーテルとクリプタンドの化学 (1979年)”]

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

何になりたいか、に関しては、今では海賊王ですが、何になっていたか、に関しては、幾つか可能性がありました。大学に入ってから、「化学で哲学」なんてことはすっかり忘れてしまい、トルストイとドストエフスキーのロシア文学にはまり国内外を一人でぶらぶらしてました。当時なりたかったのは、“ひも”、か“バックパッカーでの放浪者”でした。研究室配属の時に、同期の誰もがその厳しさのために行きたくないというので、田伏研にいくことにして運命が変わりました。大学院の途中で先生からアメリカ留学(実情は追放だったんですが)させてもらったりして、化学者として世界をぶらぶら歩くのも悪くない、と思い始め、卒業後九大で拾ってもらって、今に至っています。

img48468c35zik8zj

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

化学で複雑な生物システムを制御したり、逆に、生物に似た複雑な集合系を創造したり、ということを目指した化学的なアプローチの開発に挑戦しています。自分では、それを勝手に細胞有機化学と呼んでいますが。もっと一般的に言えば、ごちゃごちゃした夾雑系に適用できる化学を創ってみたいということです。具体的な成果は、HPをみて頂ければ分かりますが、細胞内や生物個体で狙ったタンパク質を選択的に合成化学する新しい方法論や、細胞環境類似のセミウエットバイオ材料の創成とかが最近の出来事です。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

私は結構、同時代的な人間なので、歴史上の人物と飯食いたいとはあまり思った事はありません。ギリシャ・ローマ時代の市民の方々や中国魏志倭人伝時代の中国や日本の人、大航海時代のヨーロッパの人達なんかと晩ご飯ご一緒して、話してみたいとは思いますね。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

んー、、。32歳で助教授の頃、当時4年生二人とM1一人のグループだったのですが、4年生の卒業研究の合成を手伝ったのが最後かな?ポルフィリン(へム誘導体)とルテニウム錯体を繋いで光駆動の人工蛋白質を創ろう!というテーマで、へムとビピリジンリガンドとの縮合反応だったと思います。ドラフトでカラムかけ始めたんですが、途中で会議や学生実験や書類作成が入って放置してしまい、最後は(生成物を単離する事なく)、学生さんに片付けられたと記憶しています。 簡単な測定はその後もアレコレやりましたが、合成はあれが最後でしょう。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

本なら沢木耕太郎全集あるいはONE PIECE全巻ですかね。あるいは、ほとんど読んだ事ないのですが、最近読みたいのは司馬遼太郎ですので、彼の全集でもいいかな。

[amazonjs asin=”4101235058″ locale=”JP” title=”深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)”]
[amazonjs asin=”B00KGNFDVW” locale=”JP” title=”ONE PIECE コミック 1-74巻セット (ジャンプコミックス)”]

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

いままでのリストを見ていると、世代的に中堅クラスを挙げると良さそうなので、自分より少し先輩で、いつも自分の生意気を許してくださる方を何人か。。。。杉本直己、秋吉一成、相田卓三八島栄次、三原久和の各先生。

関連リンク

関連書籍

[amazonjs asin=”4759807527″ locale=”JP” title=”生命現象を理解する分子ツール―イメージングから生体機能解析まで (化学フロンティア)”]

略歴

hamachi_itaru浜地 格

1960年福岡生まれ。1983年に京都大学卒業、1988年同大学院博士課程修了。同年九州大学で助手となり、1992年に助教授、2001年に教授となる。2005年より現在の所属である京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻生物有機化学講座を主宰。

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 第171回―「超分子・機能性ナノ粒子で実現するセラノスティクス」…
  2. 第30回 弱い相互作用を活用した高分子材料創製―Marcus W…
  3. 第28回 錯体合成から人工イオンチャンネルへ – P…
  4. 第133回―「遺伝暗号リプログラミングと翻訳後修飾の研究」Jas…
  5. 第82回―「金属を活用する超分子化学」Michaele Hard…
  6. 第46回「趣味が高じて化学者に」谷野圭持教授
  7. 第36回 生体を模倣する化学― Simon Webb教授
  8. 第63回―「生物のコミュニケーションを司る天然物化学」矢島 新 …

注目情報

ピックアップ記事

  1. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり : ① 「ほんとスタンド」 の巻
  2. 化学者のためのエレクトロニクス入門② ~電子回路の製造工程編~
  3. 第176回―「物質表面における有機金属化学」Christophe Copéret教授
  4. 大学院から始めるストレスマネジメント【アメリカで Ph.D. を取る –オリエンテーションの巻 その 1–】
  5. 2つ輪っかで何作ろう?
  6. 薗頭・萩原クロスカップリング Sonogashira-Hagihara Cross Coupling
  7. サントリー白州蒸溜所
  8. 有機合成化学協会誌2019年7月号:ジアステレオ選択的Joullié-Ugi三成分反応・(-)-L-755,807 の全合成・結晶中構造転移・酸素付加型反応・多孔性構造体
  9. 飲む痔の薬のはなし1 ブロメラインとビタミンE
  10. 高透明性耐熱樹脂の開発技術と将来予測【終了】

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年9月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP