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化学者のつぶやき

金属キラル中心をもつ可視光レドックス不斉触媒

2014年、マールブルク大学・Eric Meggersらは、可視光レドックス触媒および金属キラル中心型不斉触媒の役割を兼ねそなえる錯体を用い、2-アシルイミダゾールの不斉α-アルキル化を達成した。

“Asymmetric photoredox transition-metal catalysis activated by visble light”

Huo, H.; Shen, X.; Wang, C.; Zhang, L.; Röse, P.; Chen, L.-A.; Harms, K.;  Marsch, M.; Hilt, G.; Meggers, E.* Nature 2014, 515, 100. doi:10.1038/nature13892

問題設定と解決した点

可視光レドックス触媒と不斉触媒、それら2つの触媒機能の組み合わせによって可視光駆動型触媒的不斉反応を行う例は知られていた。一方、単一触媒系においてそのような反応を行うものとしては、水素結合もしくはルイス酸相互作用を利用した不斉源を用いる系が知られている。しかしながら可視光ではなく、紫外光(UV)駆動が必要であった。

今回、著者らは2つの触媒系の組み合わせではなく、単一触媒によって可視光レドックス不斉触媒反応を進行させる系を見いだした。

技術や手法のキモ

著者らは同年にキラルIrルイス酸触媒(Λ-Ir1)によるα,β-不飽和-2-アシルイミダゾールへの不斉1.4-求核付加を報告[1]していた。このIr中心の有するルイス酸触媒能と、可視光レドックス能によるラジカルイオン化学を組み合わせられるのではないかとの発想に基づいている。

主張の有効性検証

①反応条件の最適化

R1=Ph, R2=Meのアシルイミダゾール基質、2-シアノ-4-ニトロベンジルブロミドをアルキル化剤に用いて条件検討を行っている。

少しの加熱による配位子交換の加速、弱塩基によるエノラートの加速、高濃度による反応加速により、反応時間の短縮と収率の向上を達成した(up to 97%, 95%ee)。

また、触媒として既報のΛ-Ir1ではなく、配位子のベンゾオキサゾール部位をベンゾチアゾールへと変更したΛ-Ir2を合成し、反応に用いることでさらなるエナンチオ選択性の向上を達成した(up to 100%, 99%ee)。C-S結合長がC-O結合長よりも長いため、t-Bu基が配位場に近づき、不斉場構築がより効果的になるためと考えられる。

②基質一般性の検討

2-アシルイミダゾールのα位の置換基はフェニルだけでなく、一置換フェニル(電子求引・電子供与基)も問題なく、ナフチル、チオフェニルも問題ない。芳香族ではないメチルやエチル基も可能だが、エノラート形成促進のための弱塩基を除くと収率が低下したり、可視光の代わりに青色LEDを用いて収率向上を図る必要があったり、反応時間がほかの基質と比べて長時間必要という違いもある。

ブロミド側は電子不足である必要があり、ベンジルブロミドかフェナシルブロミドでのみ適応が確認されている。

③反応機構と触媒サイクルに関する考察

下記触媒サイクルが諸々の実験事実によって支持されている。最も重要な発見は、Λ-Ir2自体ではなく、エノラートがΛ-Ir2種と錯形成している「錯体Ⅱ」が可視光レドックス触媒として機能している点にある。

冒頭論文より引用

  1. 光、触媒のいずれが欠けても反応は進行しない。
  2. 反応をアルゴン雰囲気ではなく、オープンAirで行ったり、TEMPOなどのラジカルトラップ剤を加えたりすると目的物は得られない。このことからラジカル過程の関与が示唆される。
  3. 光を当てている状態と暗室状態を15分毎に行き来させて反応のコンバージョンを調べると、光が当たっている間はコンバージョンが増えるが、暗室状態下ではコンバージョンが増えない。このことからラジカル連鎖機構ではないことが示唆される。
  4. 別個合成した錯体Ⅱのみを、Λ-Ir2の代わりに加えても触媒反応が進行する。錯体IIが可視光レドックス、不斉発現の両方の機能を担っている可能性が高い。
  5. Stern-Volmerプロットから、錯体Ⅱとベンジルブロミドの間のクエンチの方が、Λ-Ir2とベンジルブロミドの間のクエンチよりも効率よく起きていると判断される。
  6. サイクリックボルタンメトリーを測定すると、Λ-Ir2と比べ、錯体Ⅱの酸化ポテンシャルが低下し、還元能が強くなっていることが分かった(E1/2(II+/II*) of -1.74V versus Ag/AgCl)。これは、電子不足なベンジルブロミドの還元的結合開裂が可能なfac-[Ir(ppy)3]の還元電位に相当する。
  7. 錯体Ⅰおよび錯体Ⅱは2-アシルイミダゾールとΛ-Ir2を混ぜると生成することが確認されている。単離され、結晶構造も取られている。

議論すべき点

  • 求電子性ラジカルと求核剤の組み合わせで反応が進行するため、電子不足にする必要性が高いアルキルブロミド側の基質一般性にはまだ難がある。基質一般性拡張のためにはさらに強い還元力を有する触媒が必要?
  • 強い1電子酸化力を有する可視光レドックス触媒系から生じる求核的ラジカルと求電子剤の組み合わせによっても、同様の反応系が組めるだろうか?

次に読むべき論文は?

  • UV照射下で、単一触媒で可視光レドックス駆動+不斉触媒の両方を達成している論文[2]

参考文献

  1. Huo, H.; Fu, C; Harms, K.; Meggers, E. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 2990. DOI: 10.1021/ja4132505
  2. Bauer, A.; Westkämper, F.; Grimme, S.; Bach, T. Nature 2005, 436, 1139. doi:10.1038/nature03955
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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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