[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

トシルヒドラゾンとボロン酸の還元的カップリング反応とその応用展開

[スポンサーリンク]

2009年に報告されたトシルヒゾラゾンとボロン酸の還元的カップリング反応。その応用展開として、今回、分子内に反応部位をもつトシルヒドラゾンからジアステレオ選択的に環状化合物を合成した。

トシルヒドラゾンとボロン酸の反応

トシルヒドラゾンはカルボニル化合物とトシルヒドラジンとの脱水縮合で得られる化合物であり、様々な人名反応(Wolff-Kishner還元Eschenmoser–Tanabe開裂Shapiro反応)に活用されている。

オビエド大学のValdés教授らは2009年、塩基存在下、トシルヒドラゾン1aとアリールボロン酸2aを作用させると、還元的カップリング反応が進行することを報告した(図1A) 1。これは1997年にKellyらによって報告されたトシルヒドラゾンとアルキルボランとのカップリング反応2を拡張したものであるが、遷移金属触媒や強塩基を用いない炭素—炭素(C–C)結合形成反応として有用である。この反応では、1aと塩基が反応し、生じたジアゾ化合物3aがボロン酸に求核攻撃する。続く置換基の転位とプロト脱ホウ素化(protodeboronation)を経て、カップリング体を与える。

また、Valdésらは、環状トシルヒドラゾン1bと、アルケニルボロン酸2bとのジアステレオ選択的なカップリング反応も報告している(図1B) 3a, 3b。反応は、はじめに2bが置換基の立体反発を避けて1bに付加し遷移状態4bを経由する。その後、生じる中間体5bが立体化学を保持したままプロト脱ホウ素化4し目的物が得られる。

今回、Valdés教授らはこのアルケニル化反応の応用として環状トシルヒドラゾン1cの側鎖に反応し得る適切な置換基を導入した化合物1cを用いることで、プロト脱ホウ素化を避け、新たなC–C結合を形成させることに成功したため紹介する(図1C)。

Stereoselective Domino Carbocyclizations of γ- and δ‐Cyano‐N‐tosylhydrazones with Alkenylboronic Acids with Formation of Two Different C(sp3)−C(sp2) Bonds on a Quaternary Stereocenter

Plaza, M.; Valdés, C.  J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 12061. DOI: 10.1021/jacs.6b08116

2016-11-23_10-22-46

図1. トシルヒドラゾンとボロン酸の反応

論文著者の紹介

2016-11-23_10-23-48研究者:Carlos Valdés
研究者の経歴:
1992 Ph.D., University of Oviedo, Spain (Prof. Fernando Aznar and José Barluenga)
1992-1995 Posdoc, Massachusetts Institute of Technology, USA (Prof. Julius Rebek, Jr.)
2000 Associate Professor, University of Oviedo
Currently Professor, University of Oviedo
研究内容:トシルヒドラゾンを用いたC–C結合形成反応の開発

論文の概要

側鎖に反応し得る適切な置換基を導入した化合物1cとして、g位にシアノ基を導入した化合物1c’を用いた。

マイクロ波で高温加熱する必要があるが、1c’2bを1,4-ジオキサン溶媒中で塩基に炭酸カリウムを用いるのみというシンプルな条件で、還元的カップリング反応と続く環化反応が進行し、生成物6が得られる。反応は1c’と塩基によって生じたジアゾ化合物3がエクアトリアル位から2bに求核攻撃する。続いて、遷移状態4を経由して得られるアリルボロン酸5が、連鎖的にシアノ基に求核攻撃することで分子内環化しイミン7が生じる。最後に7が加水分解され、五員環を含む二環性ケトン化合物6を与える (図2A)。

ジアステレオ選択的に目的物が得られること、4級炭素を含む2つの不斉点を一挙に構築できることが本反応の特筆すべき点である。d位にシアノ基があると六員環となり、環状のみならず、鎖状トシルヒドラゾンでも目的の反応は進行する (図2B)。

ボロン酸にアリール基が含まれる場合は一部の基質で中間体の異性化が起こり、副生成物を生じる(図2C)。得られた環状ケトンは反応系内でそのまま還元することで立体選択的にアリルアルコールへも誘導できる (図2D)。

2016-11-23_10-26-54

図2.シアノ-N-トシルヒドラゾンとアルケニルボロン酸による炭素環構築

以上、今回の論文は、導入した官能基を無駄にせず、全く異なる化合物へ誘導することが可能であり、本還元的カップリング反応の有用性を示した好例である。

参考文献

  1. Barluenga, J.; Tomás-Gamasa, M.; Aznar, F.; Valdés, C. Nat. Chem. 2009, 1, 494. DOI: 10.1038/nchem.328
  2. Kabalka, G. W.; Maddox, J. T.; Bogas, E.; Kelley, S., W. J. Org. Chem. 1997, 62, 3688. DOI: 10.1021/jo962089q
  3. (a) Pérez-Aguílar, M. C.; Valdés, C. Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 5953. DOI: 10.1002/anie.201200683. (b) Plaza, M.; Pérez-Aguílar, M. C.; Valdés, C. Chem. Eur. J. 2016, 22, 6253. DOI: 10.1002/chem.201600837
  4. Nave, S.; Sonawane, R. P.; Elford, T. G.; Aggarwal, V. K. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 17096. DOI: 10.1021/ja1084207
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 3Mとはどんな会社? 2021年版
  2. 第7回HOPEミーティング 参加者募集!!
  3. 第54回ケムステVシンポ「構造から機能へ:ケイ素系元素ブロック材…
  4. 研究リーダーがPJを成功に導く秘訣
  5. 2017年12月14日開催: 化学企業4社によるプレミアムセミナ…
  6. 【技術系スタートアップ合同フォーラムのお知らせ】 ディープテック…
  7. 自動車の電動化による素材・化学業界へのインパクト
  8. 【悲報】HGS 分子構造模型 入手不能に

注目情報

ピックアップ記事

  1. 固体高分子電解質の基礎、材料技術と実用化【終了】
  2. 第37回ケムステVシンポ「抗体修飾法の最前線 〜ADC製造の基盤技術〜」を開催します!
  3. 第77回「無機材料の何刀流!?」町田 慎悟
  4. 多種多様な酸化リン脂質を網羅的に捉える解析・可視化技術を開発
  5. 【PR】Chem-Stationで記事を書いてみませんか?【スタッフ・寄稿募集】
  6. 平尾一郎 Ichiro Hirao
  7. リード反応 Reed Reaction
  8. 新型卓上NMR Spinsolve 90 が販売開始
  9. 第24回ACSグリーンケミストリー&エンジニアリング会議 (GC&EC2020)に参加しました
  10. この輪っか状の分子パないの!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

粉末 X 線回折の基礎知識【実践·データ解釈編】

粉末 X 線回折 (powder x-ray diffraction; PXRD) は、固体粉末の試…

異方的成長による量子ニードルの合成を実現

第693回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科(佃研究室)の髙野慎二郎 助教にお願…

miHub®で叶える、研究開発現場でのデータ活用と人材育成のヒント

参加申し込みする開催概要多くの化学・素材メーカー様でMI導入が進む一…

医薬品容器・包装材市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、医…

X 線回折の基礎知識【原理 · 基礎知識編】

X 線回折 (X-ray diffraction) は、原子の配列に関する情報を得るために使われる分…

有機合成化学協会誌2026年1月号:エナミンの極性転換・2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)・細胞内有機化学反応・データ駆動型マルチパラメータスクリーニング・位置選択的重水素化法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年1月号がオンラインで公開されています。…

偶然と観察と探求の成果:中毒解毒剤から窒素酸化物を窒素分子へ変換する分子へ!

第692回のスポットライトリサーチは、同志社大学大学院理工学研究科(小寺・北岸研究室)博士後期課程3…

嬉野温泉で論文執筆缶詰め旅行をしてみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

論文を書かなきゃ!でもせっかくの休暇なのでお出かけしたい! そうだ!人里離れた温泉地で缶詰めして一気…

光の強さで分子集合を巧みに制御!様々な形を持つ非平衡超分子集合体の作り分けを実現

第691回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院 融合理工学府 分子集合体化学研究室(矢貝研究室…

化学系研究職の転職は難しいのか?求人動向と転職を成功させる考え方

化学系研究職の転職の難点は「専門性のニッチさ」と考えられることが多いですが、企業が求めるのは研究プロ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP