[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

光エネルギーによって二酸化炭素を変換する光触媒の開発

[スポンサーリンク]

第68回のスポットライトリサーチは、東京工業大学理工学研究科化学専攻石谷・前田研究室中田明伸さんにお願いしました。

石谷・前田研究室では、光化学・金属錯体化学・材料科学の融合により光エネルギーを有効利用することを目標に、実に多岐にわたる研究が展開されています。そこで行われた研究により中田さんはこの度、2016年光化学討論会 最優秀学生発表賞(口頭)を受賞されました。受賞対象となった研究についてインタビューさせていただきましたので、紹介したいと思います!

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?

私は、「光エネルギーによってCO2を変換する光触媒の開発」を行っています。

当研究室では以前、可視光を吸収し電子移動を駆動する光増感剤として機能するRuII(bpy)3と、CO2を選択的に還元する触媒として機能するRuII(bpy)(CO)2Cl2を炭素鎖によって連結した複核錯体が、CO2のギ酸への還元反応を可視光駆動する優れた光触媒であることを報告しています。しかし、CO2を還元する金属錯体光触媒は光酸化力が弱いという欠点があり、反応に強い電子ドナーが必要であることが問題でした。この課題を解決するために、私は可視光に応答し様々な酸化反応を駆動できる酸窒化物半導体TaONに着目しました。今回の受賞研究では、RuII複核金属錯体をTaONと複合化した新しい光触媒材料を開発することで、前者ではCO2の還元、後者ではメタノールのホルムアルデヒドへの酸化を、可視光エネルギーのみで同時に駆動することを達成しました(図)。これは緑色植物の光合成における「Z-スキーム」と呼ばれる機構を模倣しており、二つの異なる光触媒材料が共にエネルギーの低い可視光を吸収することで、強い電子ドナーなしにCO2のギ酸への変換を可能にしました。

nakada-1

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

豊富でクリーンな資源である水を、金属錯体を用いたCO2還元の反応場にすることは1980年代から長年の課題でした。しかしこれまでは反応を駆動するために必須である電子源として適切なものがなかったために、水中で光触媒を正しく評価し、優れた光触媒を開発することが困難でした。私は「金属錯体光触媒の真のポテンシャルを発揮できる電子源の開発」に成功し、水溶液中で効率よく機能する金属錯体を見出せたことが今回の成果につながっていると考えています。初めて多量のCO2還元生成物(この時はCO)をガスクロマトグラフィで検出できた時に感動したのを覚えています。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

未だ乗り越えられていないのですが…、光触媒によるCO2還元の一つのゴールは水の酸化反応と組み合わせ、水を電子源として駆動することです。これが達成できれば、「光触媒、水、光エネルギーのみでCO2を変換する究極にクリーンな反応」を実現することができます。それぞれ安定な化合物であるCO2とH2Oを同時に酸化還元することは難しいですが、光触媒材料を改良して何としてもこれを達成すべく検討を重ねています。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

私の最大の幸運は、石谷治教授と前田和彦准教授の二人からご指導を受けられていることです。石谷先生は金属錯体、前田先生は半導体光触媒のスペシャリストですので、一つの研究室にいながら全く異なる材料を組み合わせた研究を進めることが容易でした。この領域横断研究の重要性を忘れずに、様々な材料を適切に扱う経験をいただいた私にしかできない、「光エネルギーによる新しい物質変換の研究」に将来取り組んでいきたいです。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

楽しい、というのは何をするにも一番の原動力だと思います。しかも研究は取り組み方次第でいくらでも楽しくできる最高のお仕事です。楽しむことを忘れずに、未来の新しい化学を一緒に作っていきましょう!

最後になりますが、日頃から手厚いご指導をしてくださっている石谷治教授、前田和彦准教授、研究室の皆様、生活を支えてくれている家族にこの場を借りて御礼を申し上げます。

 

関連文献

Nakada, A.; Nakashima, T.; Sekizawa, K.: Maeda, K.: Ishitani, O. Chem. Sci. 2016, 7, 4364. (DOI: 10.1039/C6SC00586A) Open Access!

Nakada, A.; Koike, K.; Maeda, K.: Ishitani, O. Green. Chem. 2016, 18, 139. (DOI: 10.1039/C5GC01720C) Open Access!

Farnum, H. B.; Nakada, A.; Ishitani, O.; Meyer, T. J. J. Phys. Chem. C 2015, 119, 25180. (DOI: 10.1021/acs.jpcc.5b05801)

Nakada, A.; Koike, K.; Nakashima, T.; Morimoto, T.; Ishitani, O. Inorg. Chem. 2015, 54, 1800. (DOI: 10.1021/ic502707t)

 

研究者の略歴

nakada-3中田 明伸 (なかだ・あきのぶ)

1989年 東京都杉並区生まれ

2008年3月 成蹊高校卒業

2008年4月-2012年3月 東京工業大学理学部化学科 (学士課程)

2012年4月-現在 東京工業大学理工学研究科化学専攻 (博士前後期課程)

2012年10月-現在 東京工業大学環境エネルギー協創教育院所属

2014年5月-8月 The University of North Carolina at Chapel Hill (USA), Prof. Meyerグループにて研究留学

受賞歴:

2016年9月 2016年光化学討論会 Journal of Photochemistry and Photobiology C: Photochemistry Reviews Presentation Prize (最優秀学生発表賞(口頭))

2015年12月 The Fourth International Education Forum on Environment and Energy Science, Best Presentation Award

2015年3月 第95日本化学会春季年会 学生講演賞                   など 全11件

めぐ

投稿者の記事一覧

博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

関連記事

  1. 無保護糖を原料とするシアル酸誘導体の触媒的合成
  2. 第1回ACCELシンポジウムを聴講してきました
  3. アメリカで Ph.D. を取る -Visiting Weeken…
  4. ケムステのライターになって良かったこと
  5. 創薬人育成サマースクール2019(関東地区) ~くすりを創る研究…
  6. サーモサイエンティフィック「Exactive Plus」: 誰で…
  7. アルコールをアルキル化剤に!ヘテロ芳香環のC-Hアルキル化
  8. 公募開始!2020 CAS Future Leaders プログ…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 世界が終わる日までビスマス
  2. パーフルオロ系界面活性剤のはなし ~規制にかかった懸念物質
  3. アルキンジッパー反応 Alkyne Zipper Reaciton
  4. ペンタフルオロスルファニル化合物
  5. 燃えないカーテン
  6. ヘリウム新供給プロジェクト、米エアプロダクツ&ケミカルズ社
  7. 「コミュニケーションスキル推し」のパラドックス?
  8. ボイランド・シムズ酸化 Boyland-Sims Oxidation
  9. 日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 1
  10. 有機反応を俯瞰する ー縮合反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

最新の電子顕微鏡法によりポリエチレン分子鎖の向きを可視化することに成功

第583回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 陣内研究室の狩野見 …

\脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介

※本セミナーは、技術者および事業担当者向けです。脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つと…

【書籍】女性が科学の扉を開くとき:偏見と差別に対峙した六〇年 NSF(米国国立科学財団)長官を務めた科学者が語る

概要米国の女性科学者たちは科学界のジェンダーギャップにどのように向き合い,変えてきたのか ……

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2025卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

細胞代謝学術セミナー全3回 主催:同仁化学研究所

細胞代謝研究をテーマに第一線でご活躍されている先生方をお招きし、同仁化学研究所主催の学術セミナーを全…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける回帰手法の基礎

開催日:2023/12/06 申込みはこちら■開催概要マテリアルズ・インフォマティクスを…

プロトン共役電子移動を用いた半導体キャリア密度の精密制御

第582回のスポットライトリサーチは、物質・材料研究機構(NIMS) ナノアーキテクトニクス材料研究…

有機合成化学協会誌2023年11月号:英文特別号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年11月号がオンライン公開されています。…

高懸濁試料のろ過に最適なGFXシリンジフィルターを試してみた

久々の、試してみたシリーズ。今回試したのはアドビオン・インターチム・サイエンティフィ…

細胞内で酵素のようにヒストンを修飾する化学触媒の開発

第581回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 薬学系研究科 有機合成化学教室(金井研究室)の…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP