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化学者のつぶやき

最近の有機化学注目論文3

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注目の有機化学論文を紹介する記事第三弾。できるだけシリーズ化していきたいと思います。

【有機反応・不斉反応】アミノ基転移反応

“Enzyme-Inspired Axially Chiral Pyridoxamines Armed with a Cooperative Lateral Amine Chain for Enantioselective Biomimetic Transamination”

Liu, Y. E.; Lu, Z.; Li, B.; Tian, J.; Liu, F.; Zhao, J.; Hou, C.; Li, Y.; Niu, L.; Zhao, B. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 10730–10733. DOI: 10.1021/jacs.6b03930

ヒトの体内に存在する非必須アミノ酸の多くは、トランスアミナーゼと補酵素ピリドキサールリン酸(PLP)を触媒としたアミノ基転移反応によって合成される。

アミノ基転移反応は、α-ケト酸とアミノ酸が互いのカルボニル基とアミノ基を交換する形で進行する。ケト化合物を1 段階でアミンへと変換できることから、「PLP模倣型触媒」を用いた不斉アミノ基転移反応の開発に力が注がれる。

以前上海交通大学のBaguo Zhao教授らは、ピリドキサール[1]、ピリドキサミン[2]を基本骨格とする触媒を用いて、不斉アミノ基転移反応の開発に成功している。

しかしながら、エナンチオ選択性は低く未だ改善点を残していた。そこで最近、Zhao教授らは、トランスアミナーゼ内のリシン残基がアミノ基転移反応の促進に関与していることに着目し、本論文においてアミノ基を導入した触媒(R)-11a を設計し高エナンチオ選択的なアミノ基転移反応を報告した。

関連論文

  1. Shi, L.; Tao, C.; Yang, Q.; Liu, Y. E.; Chen, J.; Chen, J.; Tian, J.; Liu, F. Li, B.; Du, Y.; Zhao, B. Org . Lett . 2015, 17, 5784. DOI: 10.1021/acs.orglett.5b02895
  2. Lan, X.; Tao, C.; Liu, X.; Zhang, A.; Zhao, B. Org . Lett. 2016, 18 , 3658. DOI: 10.1021/acs.orglett.6b01714

【有機反応・不斉反応】銅触媒を用いた3級アルコールの立体選択的反応

“Copper-catalyzed asymmetric addition of olefin-derived nucleophiles to ketones”
Yang, Y.; Perry, I. B.; Lu, G.; Liu, P.; Buchwald, S. L. Science 2016, 353, 144. DOI: 10.1126/science.aaf7720

立体が精密に制御されたアルコールは様々な医薬品や生物活性を有する天然化合物にみられる重要化合物群である。

代表的なアルコールの合成法の一つに、Grignard 試薬のような有機金属試薬によるアルデヒドやケトンへの立体選択的な求核付加反応が挙げられる。極めて信頼性の高い手法である一方で、当量以上の有機金属試薬をあらかじめ調製する必要がある点や、有機金属試薬の反応性の高さに起因する官能基許容性の狭さがしばしば問題となる。

今回MITのBuchwald教授 らはエンイン化合物とケトンを基質に、系中で発生させた銅ヒドリド錯体を触媒にもちいることで、室温という極めて温和な条件での三級アルコールの立体選択的な合成に成功した。本反応はアルコール合成にアルケンをもちいている点で非常に興味深く、反応性の低い銅ヒドリド種をもちいているためエステルやアルコール、カルボン酸など様々な官能基を有するアルケンに適用可能である。

本反応はこれまで著者らが報告してきたヒドロアミノ化反応[1]や環化反応[2]などに代表されるCopper-Hydride Chemistry の続報であり、このケミストリーのさらなる発展が期待される。

関連文献

  1. (a) Buchwald, S. L. et al. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 15746. DOI: 10.1021/ja4092819 (b) Buchwald, S. L. et al. Nat. Chem. 2015, 7, 38. DOI: 10.1038/nchem.2131 (c) Buchwald, S. L. et al. Nat. Chem. 2016, 8, 144. DOI: 10.1038/nchem.2418
  2. (a) Buchwald, S. L. et al. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 10524. DOI: 10.1021/jacs.5b07061 (b) Buchwald, S. L. et al. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 4666. DOI: 10.1021/jacs.5b02316

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  • 最近の有機化学注目論文1
  • 最近の有機化学論文2

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