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化学者のつぶやき

製薬業界における複雑な医薬品候補の合成の設計について: Nature Rev. Chem. 2017-2/3月号

本年1月に満を持して登場したNature系化学総説誌「Nature Rev. Chem 以前、創刊号の紹介を行いました(記事:Nature Reviews Chemistry創刊!)。

かなり教育的な総説で読んでいてかなり勉強になります。折角なので最近自身で購読することとしました。

というわけで、折角なので2ヶ月程度に1度、Nature Rev. Chemに掲載された総説の一部をレビューしていきたいと思います。

今回は2017年2月号3月号です。創刊号(1月号)は年末まで無料公開らしいですが、2月号以降は有料になっています。

製薬業界における複雑な医薬品候補の合成の設計について

人に役立つ合成化学というのでわかりやすいのは薬をつくる、つまり「製薬」です。多種多様な低分子化合物が薬として上市されており、薬を世に出すには様々な困難を乗り越えなければなりません。その中で工業的につくる手法を開発するのがプロセス化学者。卓越した合成ルートの開発能力が求められます。

国内ではあまり多くの医薬品候補化合物があがってこないからか知りませんが、若干縮小傾向にあります。一方で、いまだ海外では学生・ポスドクなどで有機合成系で名を馳せた研究者が製薬会社で多数活躍しています。

本総説は米国の大手製薬会社ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS)の研究者らによって書かれたタイトル通り、医薬品候補化合物の合成設計に関する総説です。実際、BMSの医薬品化合物を中心に合成上の課題に対する答えを出すように、それらの合成を取り上げています。一例を以下に示します。中心骨格を6π付加環化反応でつくるのが素敵ですね。

a. BMS-911532の初期合成 b. プロセス化学における結合切断戦略 c. 環化付加反応をつかった実際の工業的製法 (出典:Nat. Rev. Chem. 20171, 0016.)

 

実は製薬会社の研究者が書いているので、unpublished results盛り沢山なのでは?(そんなわけない苦笑)と、ちょっと期待したのですが、そこはちゃんとpublishされた内容でした。同じコンセプトの書籍等はありますが、初期ルートからいかに改良・完全に置き換えて合成するかがしっかり書かれているので、大学院の講義等にも使えます。

“On the design of complex drug candidate syntheses in the pharmaceutical industry”

Eastgate, M. D.; Schmidt, M. A.; Fandrick, K. R. Nat. Rev. Chem. 2017, 1, 0016. DOI: 10.1038/s41570-017-0016

クロスカップリング反応におけるニッケルおよびパラジウム触媒前駆体(precatalysts)

遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応はいわずともしれた、信頼性の高い合成手法として、合成の得意な方からあんまり知らない人まで大人気の反応です。使用者の立場からいえば、使われる触媒は安定で、高活性、そして汎用性の高いものが欲しいところです。また、多くのクロスカップリング反応の遷移金属触媒は安定な2価錯体を使い、系内でなにかしらで0価に還元することで触媒として作用します。その際の「なにかしら」がいろいろあるわけですが、還元の効率によって遷移金属触媒をたくさん使わないといけないことや、反応時間が長くなることが往々にしてあります。

そんな際に活躍するのが、効率的に真の活性種を生成する触媒前駆体(precatalysts)です。本総説ではクロスカップリング反応に用いられるパラジウムおよびニッケルのprecatalystを紹介しています。

著者は、Yale大学のHazari教授。分野近いですが、知りませんでした。効率的な触媒前駆体を開発して、カップリング反応や二酸化炭素の固定化反応などを研究しています。

例として、パラダサイクルとPEPPSI触媒前駆体について示します。どちらにしてもここ、10年ぐらいで開発されてきたもので、普通の遷移金属+配位子に比べて、活性が全く異なることがあります。

最近のパラダサイクルとPEPPSI触媒前駆体 a. Buchwald type触媒前駆体 b. Pd(0)が生成する機構 c. ダイマーは溶媒中でモノマーへと変わる d. Buchwald ligand e. PEPPSI 触媒 d. NHC f. 配位分子によるカップリング反応の効果(出典:Nat. Rev. Chem. 20171, 0025.)

 

この他にも、パラジウムーη3-アリル型触媒前駆体やニッケル触媒についても詳しくのべられていますので、カップリング反応を使っている方には一読をオススメいたします。個人的には触媒前駆体もよいですが、パラフィンフィルムに包まれた不安定触媒により興味が有るところです(グローブボックスがないので)。

“Well-defined nickel and palladium precatalysts for cross-coupling”

Hazari, N.; Melvin, P. R.; Beromi, M. M. Nat. Rev. Chem. 2017, 1, 0025. DOI: 10.1038/s41570-017-0025

オピニオン: 生命の起源に関する研究—始まりの終わり

2月号のPerspectiveから。生命はどこからきたのか?どのように出現したのか?答えがあるのかわからない、究極の謎の1つです。化学的にいえば、どんな原料(分子)からどんな反応を経て、生命を構成する分子(集合体)に変わったのか?ということでしょうか。全生物最終共通祖先=LUCA(Last Universal Common Ancester)はなんなのか?古くから推測や検証実験により様々なものが提唱されてきました。

著者は英国MRC分子生物学研究所John Sutherland教授。生命の起源研究の第一人者で、リボヌクレオチドをリボースからではなく他の化合物からの合成を提唱・検証した科学者として著名です。

本総説では生命の起源に関するシステマティックな化学研究により、生命を構成する分子がどのような原料からどのように生成された可能性があるのかについて述べています。最終的な結論はどうやってだすのかわかりませんが、なかなか読み応えのある総説です。余談ですが、学生時に生命の起源研究として「光学活性体どのように得られるのか?」ということを1年ほど研究していたので、大学でもほとんどない「Origin of Life」(たしかそんな名前だった)という書籍を取り寄せて読みふけった記憶が蘇りました。

“Opinion: Studies on the origin of life — the end of the beginning”

Sutherland, J. D. Nat. Rev. Chem. 2017, 1, 0012. DOI: 10.1038/s41570-016-0012

おわりに

話は異なりますが、Nature系のオンライン雑誌は既に頁という概念がなくなっているようで、本総説誌も文献の最後のナンバーは出版した順番になっています。確かにオンラインなので、もう頁とかあんまり関係ないのかもしれません。

というわけで、まずは2月号3月号から3つのみ紹介してみました。専門の関係で有機化学系が多くなってしまいますが、出来る限り多分野を紹介していたけたらと思います(人気があればシリーズ化を検討しています)。それまでに大概の人が読めなくなってしまうのが気になるところですが。それではまた次回(4月号&5月号)に!

Nature Rev. Chem. に関するケムステ記事

  • Nature Reviews Chemistry創刊!(2017年1月号)
  • 製薬業界における複雑な医薬品候補の合成の設計について: Nature Rev. Chem. 2017-2/3月号 (本記事)
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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院准教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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