[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

rhodomolleins XX と XXIIの全合成

[スポンサーリンク]

Tiを用いた還元的エポキシ開環/Beckwith-Dowd転位を鍵反応としてgraynane骨格を効率的に構築し、複雑ジテルペノイドであるrhodomolleins XX XXIIの初の全合成に成功した。

Graynaneジテルペノイド

ツツジ科の植物は、様々な病気の治療薬や予防薬として伝統的に用いられてきた。今日までにこれらの植物から単離された天然物は150超あり、graynane骨格を有するジテルペノイドはその大部分を占めている(図1A)[1]
Graynane骨格を有する天然物の多くは、7〜10個の不斉点と高度に酸化された珍しい[5.7.6.5]四環式骨格をもつ。
このように生物学的にも合成化学的にも興味がもたれることから、全合成の標的化合物として長らく注目されてきた。しかし、高度に官能基化された四環式骨格の構築が困難であり、全合成の報告は二例のみである。
1つは1976年の松本らによるgrayanotoxinⅡ(1)の初の全合成であり、極めて多段階を要するリレー合成であった(図1B)[2,3]
2例目として、1994年に白濱らは、ヨウ化サマリウムを用いた立体選択的環化反応を鍵とするgrayanotoxinⅢ(2)の不斉全合成を達成した(図1C)[4]。松本らの合成と比較して収率の改善はあるものの、依然工程数が多く改善の余地を残しており、graynaneジテルペノイドのより効率的な合成法の確立が求められていた。特に不斉点を4つ有するビシクロ[3.2.1]オクタン部位をいかに構築するかが鍵となる。
今回、浙江大学のDing教授らは、酸化的脱芳香族型Diels–Alder反応(98)およびTiを用いた還元的エポキシド開環(87)/Beckwith-Dowd転位(76)を経ることで、ビシクロ[3.2.1]オクタン部位を短工程で構築することに成功した(図1D)。これにより、rhodomollein XX(3)およびrhodomollein XXⅡ(4)をそれぞれ23工程、22工程で合成した。

図1. (A) グレイナン骨格をもつジテルペノイド (B) 松本らによる合成 (C) 白濱らによる合成  (D) 今回の逆合成解析

 

“Total Syntheses of Rhodomolleins XX and XXII: A ReductiveEpoxide-Opening/Beckwith–Dowd Approach”
Yu, K.; Yang, Z.; Liu, C.; Wu, S.; Hong, X.; Zhao, X.; Ding, H. Angew. Chem.,Int. Ed. 2019,58, 8556.
DOI: 10.1002/anie.201903349

論文著者の紹介

研究者:Hanfeng Ding
研究者の経歴:
2003 BSc, Zhejiang University, China
2003-2008 Ph.D., Zhejiang University, China (Prof. Cheng Ma)
2008-2011 Posdoc, Agency for Science Technology and Research, Singapore (Prof. K. C. Nicolaou)
2011 ScientistⅠ,Agency for Science Technology and Research, Singapore
2011-2016 Assistant Professor, Zhejiang University, China
2017- Professor, Zhejiang University, China
研究内容:天然物合成、天然物および医薬品合成を指向した新奇反応開発

論文の概要

Ding教授らは、合成計画に従い鍵中間体8の合成を目指した。市販の3-ヒドロキシ-2-メトキシベンズアルデヒド(10)から4工程で合成した11のジアゾ化、続く銅触媒による分子内シクロプロパン化を行うことで12を得た[5]。その後、各種官能基変換を経て得られた13の脱保護、続く酸化的脱芳香族型Diels–Alder反応によって14a14bの2.8:1の混合物を得た。所望の14aの還元的脱メトキシ化、オレフィンのエポキシ化によってビシクロ[2.2.2]オクタン骨格をもつ8の合成を完了した。得られた8からエポキシド開環/Beckwith-Dowd転位を試みたところ、8に対してチタノセンジクロリドとマンガン、2,4,6-コリジン塩酸塩を作用させることで望みの5が収率よく得られることを見出した。なおこの際、転位が進行せずエポキシドの開環のみが進行した15も副生成物として得られた。5から数工程で16へと導き、ケトン部位に対してGrignard反応を施すことで17とした。単離することなく、希塩酸で処理することで4の合成を達成した。また、17にMeReO3を触媒としたルボトム酸化を行った後、酸処理により3も合成した。

図2. rhodomollein XXおよびrhodomollein XXⅡの合成

 

以上のようにTiを用いた還元的エポキシド開環/Beckwith-Dowd転位により、graynaneジテルペノイドのビシクロ[3.2.1]オクタン骨格を効率的に構築した。今後、関連するジテルペノイド類の全合成に応用され、構造活性相関など生物学的研究への展開が期待される。

参考文献

  1. Li, Y.; Liu, Y.; Yu, S., Phytochem. Rev.2013,12, 305. DOI: 10.1007/s11101-013-9299-z
  2. Hamanaka, N.; Matsumoto, T., Tetrahedron Lett. 1972,13, 3087. DOI: 1016/S0040-4039(01)85015-2
  3. Gasa, S.; Hamanaka, N.; Matsunaga, S.; Okuno, T.; Takeda, N.; Matsumoto, T., Tetrahedron Lett. 1976, 17, 553. DOI: 1016/S0040-4039(00)77908-1
  4. Kan, T.; Hosokawa, S.; Nara, S.; Oikawa, M.; Ito, S.; Matsuda, F.; Shirahama, H., J. Org. Chem. 1994, 59, 5532. DOI: 10.1021/jo00098a009
  5. Corey, E. J.; Myers, A. G., Tetrahedron Lett.1984,25, 3559. DOI: 1016/S0040-4039(01)91075-5
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. PACIFICHEM2010に参加してきました!①
  2. 樹脂コンパウンド材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活…
  3. 分子間相互作用の協同効果を利用した低対称分子集合体の創出
  4. シンプルなα,β-不飽和カルベン種を生成するレニウム触媒系
  5. マテリアルズ・インフォマティクスにおけるデータ0からの初期データ…
  6. マテリアルズインフォマティクスでリチウムイオン電池の有機電極材料…
  7. 抗ガン天然物インゲノールの超短工程全合成
  8. 天然有機化合物のNMRデータベース「CH-NMR-NP」

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【東日本大震災より10年】有機合成系研究室における地震対策
  2. 国際化学オリンピック開幕間近:今年は日本で開催!
  3. カルコゲン結合でロジウム二核錯体の構造を制御する!
  4. 分子構造を 3D で観察しよう (2)
  5. [2+2]光環化反応 [2+2] Photocyclization
  6. 「引っ張って」光学分割
  7. 有機合成化学協会誌2021年2月号:デオキシプロピオナート構造・遠隔不斉誘導反応・還元的化学変換・海洋シアノバクテリア・光学活性キニーネ
  8. ポンコツ博士の海外奮闘録XIX ~博士,日本を堪能する①~
  9. ユネスコ女性科学賞:小林教授を表彰
  10. アメリカ大学院留学:卒業後の進路とインダストリー就活(1)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年7月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

金属酸化物ナノ粒子触媒の「水の酸化反応に対する駆動力」の実験的観測

第639回のスポットライトリサーチは、東京科学大学理学院化学系(前田研究室)の岡崎 めぐみ 助教にお…

【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解説~(三洋貿易株式会社)

1.ウェビナー概要2025年2月26日から28日までの3日間にわたり開催される三…

第18回日本化学連合シンポジウム「社会実装を実現する化学人材創出における新たな視点」

日本化学連合ではシンポジウムを毎年2回開催しています。そのうち2025年3月4日開催のシンポジウムで…

理研の一般公開に参加してみた

bergです。去る2024年11月16日(土)、横浜市鶴見区にある、理化学研究所横浜キャンパスの一般…

ツルツルアミノ酸にオレフィンを!脂肪族アミノ酸の脱水素化反応

脂肪族アミノ酸側鎖の脱水素化反応が報告された。本反応で得られるデヒドロアミノ酸は多様な非標準アミノ酸…

野々山 貴行 Takayuki NONOYAMA

野々山 貴行 (NONOYAMA Takayuki)は、高分子材料科学、ゲル、ソフトマテリアル、ソフ…

城﨑 由紀 Yuki SHIROSAKI

城﨑 由紀(Yuki SHIROSAKI)は、生体無機材料を専門とする日本の化学者である。2025年…

中村 真紀 Maki NAKAMURA

中村真紀(Maki NAKAMURA 産業技術総合研究所)は、日本の化学者である。産業技術総合研究所…

フッ素が実現する高効率なレアメタルフリー水電解酸素生成触媒

第638回のスポットライトリサーチは、東京工業大学(現 東京科学大学) 理学院化学系 (前田研究室)…

【四国化成ホールディングス】新卒採用情報(2026卒)

◆求める人財像:『使命感にあふれ、自ら考え挑戦する人財』私たちが社員に求めるのは、「独創力」…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP