[スポンサーリンク]

ケムステしごと

リボフラビンを活用した光触媒製品の開発

[スポンサーリンク]

 

ビタミン系光触媒ジェンタミン®は、リボフラビン(ビタミンB2)を活用した光触媒です。今回はジェンタミン®の開発秘話をご紹介します。

金属を加工する際に欠かせない金属加工油剤は、環境負荷や人体への配慮から水系の油剤が近年主流となっています。この金属加工油剤について、ユーザーの加工現場では繰り返し長期間にわたり循環使用されるため、微生物の繁殖に伴う腐敗臭が問題になっていました。腐敗臭自体は防腐剤を使用すれば改善できますが、通常の防腐剤を使うと作業者の手荒れ等の健康問題が発生してしまいます。
そこで解決策として、私たちは有機分子光触媒として機能することが知られているリボフラビンに着目しました。生体内に多く存在するリボフラビンは、もちろん生体には無毒で、様々な生体反応に介在しています。このリボフラビンに光を照射すると、本来三重項である環境中の酸素を、酸化力のある一重項酸素へ活性化することが知られています。この技術は既に医療分野でも用いられていることから、人体への安全性と殺菌性能(微生物の繁殖や腐敗臭の防止)を両立した新しい金属加工油剤が開発できると考えました。

当初の狙い

 

当初は、光励起したリボフラビンによって生じた一重項酸素が殺菌挙動を直接示すことを想定していました。ところが、実際に金属加工油剤中へリボフラビンを添加して光を照射すると、当初考えていた以上の大きな殺菌性能を示すことに気づきました。比較対象として、精製水にリボフラビンを添加し、同様の実験を試みましたが、金属加工油剤中ほどの殺菌性能は認められませんでした。このことから、金属加工油剤とリボフラビンの組み合わせが、一重項酸素よりも強力な殺菌化学種を生じさせていると考えました。
鋭意分析と検討の結果、リボフラビンを添加した金属加工油剤中においては、その成分であるアミン化合物類と鉄イオン(加工対象の鉄の切りくずに由来)が鍵となる化学種であることが判明しました。この結果から私たちは、殺菌効果の発現する機構として次のメカニズムを見出しました。
リボフラビンに可視光が照射されると励起され、系内(金属加工油剤)のアミン化合物等の化学種から2つ電子を受け取り、還元型リボフラビンへと変化します。還元型のリボフラビンは、溶存している分子状酸素を還元し、元の酸化型リボフラビンへと戻ります。このとき生じる過酸化水素が、鉄イオンとレドックス反応を起こし、高い殺菌力を有するヒドロキシラジカルを発生させていることが分かりました(ESRスピントラップ法で確認)。リボフラビンが、有機分子光触媒として働き金属加工油剤の成分と酸化還元反応を起こし、ヒドロキシラジカルが殺菌や消臭の効果を示していることが分かりました。

実際に起こった反応

 

私たちはこの光触媒反応のメカニズムを利用して、屋内光などの微弱な光で光触媒機能を発現する製品の開発に取りかかりました。
金属加工油剤とリボフラビンを合わせることでなかば偶然に発見した光酸化還元反応でしたが、ここから必要な成分のみをピックアップし、さらに金属加工油剤の成分よりも安全性の高い化学種に置き換えることにより、「ビタミン系光触媒ジェンタミン®」は誕生しました。
酸化還元性を有する光触媒というと「酸化チタンなどの金属酸化物」が主流ですが、リボフラビンを活用したジェンタミン®は、金属加工油剤を取り扱う当社だからこそ生まれた光触媒と言えます。

※新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)など各種ウイルスに対する効果や、各種消臭効果を第三者機関で確認しています。

現在、ジェンタミン®を活用した防腐剤不使用の除菌・消臭剤として「ぴきゃみん®」、「森のぴきゃみん®」などの業務用製品へ展開しています。ぴきゃみんは、抗ウイルス性が認められ有機分子光触媒を使用した製品としては初めて光触媒工業会のPIAJ認証を取得しました。PIAJ認証とは光触媒工業会(PIAJ:Photocatalysis Industry Assoc of Japan)が性能、利用方法等が適切であることを認めた光触媒製品に与える製品認証制度です。

除菌・消臭剤 「ぴきゃみん®

 

除菌・消臭以外の用途への光触媒ジェンタミン®の適用事例のひとつとしては、2023年11月に新しくリリースした「おそとのぴきゃみん」があります。以下にその効果と独自のメカニズムを紹介します。

 

<光触媒コーティング&クリーナー「おそとのぴきゃみん」>

「おそとのぴきゃみん」は、スプレーで塗布するだけで光触媒反応にともなってコケやカビを除去します。これにより、高圧洗浄機などの物理的な手段を必要とせず、吹きかけるだけでコケやカビが除去できます。また、このコケ・カビ除去の有効成分は、光反応に伴って比較的長期間にわたって除放されるため、吹きかけた個所の美観が長期間維持できます

おそとのぴきゃみんの効果

 

コンクリート打ち放し面に生じたコケに「おそとのぴきゃみん」を吹きかけた様子(効果がわかりやすいよう、長方形のエリア、および、社名「ユシロ」と創立記念日「7/24」の形にそれぞれ塗布)

 

《メカニズム》

「おそとのぴきゃみん」では、有効成分(コケやカビの除去効果のある成分)をアミン化合物によって中和した状態で配合しています。これを塗布すると、光触媒反応により塗布面でアミン化合物が徐々に消費されていきます。こうして有効成分を中和・固定していたアミン化合物が消失していくことで、有効成分が分子状に遊離し、コケ・カビの除去剤として機能するようになります。光で機能を発現する組成物をデザインすることによって、有効成分の徐放、すなわち長期的な効果の持続を実現しました。

おそとのぴきゃみんのメカニズム

私たちは、「イノベーションを起こす」・「化学を楽しむことを忘れない」をモットーに、ユニークな製品と新規事業の創造に取り組んでいます。

本光触媒技術または製品のOEMや共同開発など、お役立てできる用途があればお気軽にお問い合わせください。

関連リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. イオン性置換基を有するホスホール化合物の発光特性
  2. 2002年ノーベル化学賞『生体高分子の画期的分析手法の開発』
  3. 細孔内単分子ポリシラン鎖の特性解明
  4. 「大津会議」参加体験レポート
  5. 地球外生命体を化学する
  6. 高分子と高分子の反応も冷やして加速する
  7. 多様なペプチド化合物群を簡便につくるー創薬研究の新技術ー
  8. 【書籍】化学探偵Mr.キュリー2

注目情報

ピックアップ記事

  1. 嘉部 量太 Ryota Kabe
  2. アレクサンダー・リッチ Alexander Rich
  3. シビれる(T T)アジリジン合成
  4. 三井化学、触媒科学賞の受賞者を決定
  5. Carl Boschの人生 その8
  6. ゲルマニウムビニリデン
  7. サリチル酸 (salicylic acid)
  8. ゲルハルト・エルトゥル Gerhard Ertl
  9. ハーバード大Whitesides教授がWelch Awardを受賞
  10. 北大触媒化研、水素製造コスト2―3割安く

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2024年3月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP