[スポンサーリンク]

一般的な話題

超多剤耐性結核の新しい治療法が 米国政府の承認を取得

[スポンサーリンク]

新薬と既存の2 薬剤を併用した薬物療法の臨床試験で、最も死亡率が高いタイプの結核患者の90%が治癒に至った。

タイトルおよび説明はシュプリンガー・ネイチャーの出版している日本語で読める科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」2019年10月号から(画像クレジット:PIETER BAUERMEISTER/AFP/Getty Images)。

最新サイエンスを手軽に日本語で読める本誌から個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は「Nature ダイジェストまとめ」を御覧ください。

超多剤耐性結核の新しい治療法

本誌のNews in focusから。2019年に超多剤耐性結核治療薬として承認された新薬に関する話です。新薬の名前はプレトマニド(pretomanid)

ベダキリン(bedaquiline, 2012年承認)、デラマニド(delamanid、2014年承認)抗結核薬としては 3番目の薬になります。ただ、なんと50年で3つしか承認されていません。対象が貧困層であるため、新薬開発が行われなかったことが原因です。近年は、研究者が政府からの援助や慈善家からの寄付金があるため、新薬開発が行われているらしいとのこと。

多剤耐性結核の治療薬

 

既存の薬と併用すれば、超多剤耐性結核(XDR TB)患者の90%近くが治癒に至る可能性があると述べられています。ただし、問題は薬価が高いこと。6カ月間の服薬に数百ないし数千ドル。

記事内でも、

「この療法が1日1ドル前後に収まればいいのですが」

という嘆きが記載されています。ニュースでもよくあるように抗結核薬に関わらず新薬の投与には同様の価格問題を抱えているのが現状ですね。投薬で100%完治できるような病気でも、お金がかかって試せない・治せないというのは大変残念なことだと思います。

光遺伝学でマウスに幻視を誘発

行動実験の証拠から、わずか20 個のニューロンを標的とするだけで、マウスがイメージを「見る」ことが示唆された。

同じく、News in focusから。スタンフォード大の天才神経科学者Karl Deisserothの研究結果です。

光遺伝学(optogenetics)を提唱し、様々な驚くべき研究結果を報告している彼ですが、今回はマウスに幻視をみさせて、そのときに”反応”したニューロンを約20個特定したとのこと。原著は以下の論文ですので、そちらも合わせてお読みください。

“Cortical layer–specific critical dynamics triggering perception”

Marshel J. H. et al. Science 2019, 365, eaaw5202, DOI: 10.1126/science.aaw5202

画像を生じるセンサーの隣にいるマウスと研究に使われた装置(出典:Natureダイジェスト)

 

6 人プレイのポーカーでAI がプロに勝利

人工知能(AI)がポーカーの中でも特に複雑な6 人プレイの「テキサスホールデム」で人間に勝利した。

ゲームの世界では次々と人間がAIに敗北していますね。

チェスAI「ディープブルー」や囲碁AI「アルファ碁ゼロ」など多様なゲームAIが開発されていますが、今回の記事はさらに困難な複数対戦でAIが勝利したという話です。

勝利したのはポーカーAI「Pluribus」。Pluribusは、12日間のセッションで1万ゲームをこなし、人間1人とPluribus 5体で行ったゲームと、人間5人とPluribus 1体で行ったゲームで、計15人のトップポーカープレーヤーに勝利したとのこと。動画もありましたので、紹介します。

研究活動においても様々な分野で話題となり、利用が報告されているAI。これが研究の分野で真に活躍するのもそう遠くない未来なのかもしれません。

これらの記事は特別無料公開!

Natureダイジェストには毎回一部の記事が無料公開となっています。今回の無料公開記事は3つ。

1つめは「やっぱり高い英語の壁」。7人の研究者にプライベートや仕事に関して経験した言葉の壁について語ってもらっています。

私も、海外で講演した際の質問に答えるときに、ネイティブのようにうまい言い回しができたらなあとつくづく思います。また敷居の高い論文誌に投稿するときはネイティブの友達に英文校閲をしてもらうのですが、こんな言い回しがあるのかと感心します。これは科学と関係ないですが、残念ながら科学で必要なスキルです。

英語圏の人から、母国語以外に言葉が話せてうらやましいといわれたことはありますが、個人的にはやっぱり大きなディスアドバンテージだと感じています。

2つめは「150 years of Nature anniversary articlesNatureの創刊150周年を記念し、Natureと研究コミュニティーの過去、現在、未来を俯瞰できる特別記事が掲載されました。記事はその日本語の要約です。化学分野では「化学合成:有機合成のデジタル化」(The digitization of organic synthesisというタイトルで、記事が公開されています。

最後は「研究のプロセスも高く評価する論文形式」です。Registered Reports(査読付き事前登録研究論文)という新しい形の論文について述べています。化学分野ではどういう論文になるか想像できないですが、新しい試みですね。

最新科学を知るということ

さて、今月号も興味のあった記事を紹介しました。もちろん他にも様々な科学分野の最新記事を読むことができます。読み物としてさらっと読める内容ですし、なにより科学の進展を知るのに役に立ちます。年をとってくると、特に海外の学会などでそういう話になることが多いんですよね。そもそも日本語でも知らなければ話にも入れません。

無料記事を確認してみてよかったら個人購読をおすすめします。

毎号のコンテンツを配信している(毎月)ニュースレターもありますので、まずはここから登録してみてはいかがでしょうか。登録はこちら

過去記事はまとめを御覧ください

外部リンク

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 不安定炭化水素化合物[5]ラジアレンの合成と性質
  2. 最小のシクロデキストリンを組み上げる!
  3. ハットする間にエピメリ化!Pleurotinの形式合成
  4. 未踏の構造に魅せられて―ゲルセモキソニンの全合成
  5. 科学部をもっと増やそうよ
  6. 魔法のカイロ アラジン
  7. 巻いている触媒を用いて環を巻く
  8. アルケンの実用的ペルフルオロアルキル化反応の開発

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ベン・デイヴィス Ben G. Davis
  2. ペプチド模倣体としてのオキセタニルアミノ酸
  3. 「引っ張って」光学分割
  4. エノールエーテルからα-三級ジアルキルエーテルをつくる
  5. 細胞の中を旅する小分子|第二回
  6. マテリアルズ・インフォマティクス解体新書:ビジネスリーダーのためのガイド
  7. 有機合成化学協会誌2023年5月号:特集号「日本の誇るハロゲン資源: ハロゲンの反応と機能」
  8. 三菱化学グループも石化製品を値上げ、原油高で価格転嫁
  9. 1,2-還元と1,4-還元
  10. 熱を効率的に光に変換するデバイスを研究者が開発、太陽光発電の効率上昇に役立つ可能性

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

塩基が肝!シクロヘキセンのcis-1,3-カルボホウ素化反応

ニッケル触媒を用いたシクロヘキセンの位置および立体選択的なカルボホウ素化反応が開発された。用いる塩基…

中国へ行ってきました 西安・上海・北京編①

2015年(もう8年前ですね)、中国に講演旅行に行った際に記事を書きました(実は途中で断念し最後まで…

アゾ重合開始剤の特徴と選び方

ラジカル重合はビニルモノマーなどの重合に用いられる方法で、開始反応、成長反応、停止反応を素反応とする…

先端事例から深掘りする、マテリアルズ・インフォマティクスと計算科学の融合

開催日:2023/12/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

最新の電子顕微鏡法によりポリエチレン分子鎖の向きを可視化することに成功

第583回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 陣内研究室の狩野見 …

\脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介

※本セミナーは、技術者および事業担当者向けです。脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つと…

【書籍】女性が科学の扉を開くとき:偏見と差別に対峙した六〇年 NSF(米国国立科学財団)長官を務めた科学者が語る

概要米国の女性科学者たちは科学界のジェンダーギャップにどのように向き合い,変えてきたのか ……

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2025卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

細胞代謝学術セミナー全3回 主催:同仁化学研究所

細胞代謝研究をテーマに第一線でご活躍されている先生方をお招きし、同仁化学研究所主催の学術セミナーを全…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける回帰手法の基礎

開催日:2023/12/06 申込みはこちら■開催概要マテリアルズ・インフォマティクスを…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP