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書店で気づいたこと ~電気化学の棚の衰退?~

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Tshozoです。少し短いですが以前から気になっていたので書いておきます。

また少々電気化学系のことをやらねばならんことになり、モノを色々と扱うと同時に今度こそは基礎をきちんとおさえながら進めようd()bと思って大きい書店回りをしてみたのですが、電気化学のスペースが見つからない! 理工学関係のところを何回か行ったり来たりしたあげく、ようやく下図のような程度のスペースに本棚を見つけたのですが・・・大きな本棚の1/4くらいにしか関係書籍が無いことに改めて衝撃を受けました。今の本屋さんの状況を考えるとこのスペースがあるだけマシなんじゃないかという声もあるでしょうが、筆者がよく見る独語のスペースは5段くらいありましたし有機化学に至っては棚ひとつ全部その関係の書籍でしたからかなり小さめだという印象は否めませんでした。

筆者が行った書店A・書店Bの見取り図と電気化学化系のスペース
赤いスペースは一応理系の学術書に該当した本棚が置いてあった

いちおう近場ではそれなりにでかい書店だったので正直驚きました。そういう書物が欲しけりゃ大学の生協とかAlibrisとかで探せって話なんですが、ことはそう単純ではないのではという実感があるわけです。今の方々には信じられないと思うのですが昭和前後に生まれたおっさんの感覚としては当時電池と言えばジャパンだったわけで、電気化学全盛の時期を知っている人間として個人的にダメージを食いました。今回はそれに関する短文になります。

ここ20年の電池業界の変遷

筆者が持論を振りかざすよりまず証拠。ここ20年で小型電池業界のシェアはこんなかんじになってしまっているのです。

[文献1][文献2]より編集して引用
簡単のため小型リチウムイオン電池に絞ったシェア
パナソニックが持ちこたえているのは流石としか言いようがないが・・・

基本的には一般的に家庭などで使用される用途の電池分野での市場の拡大についていけなかったというのもあるのですが(売上単位では結構伸びてるがシェアがおいついてない)中国や韓国の技術がとんでもないペースでキャッチアップしてきたのが大きな転換点だったのかと。

また大型電池(車両など)でも完全に国外に押しまくられており、一番大きいのは電気自動車用途における危険とも思われるレベルの市場拡大に対応しきれなかったことでしょう。ただSONYなどは「人命に関わる商売に手は出せない」というポリシー[文献3]によるものなので一概にシェアの大小で判断できない面はありますけど。

[文献4]より編集して引用 AESC(元NEC-日産連合)は昨年売却されて
今は80%を中国資本が握っているので8割以上を中韓が制圧していることになる

中国の電気自動車市場は官制市場なので実際に利益が出てるのかってのはかなり疑問が残るのと、補助金などがこの春に切れたりしてかなり経営がまずくなっている会社があると聞きますがまぁそれはおいといて。小型用も大型用ももうすげぇ大量にそれなりの品質のものが安く供給されてしまえる状態になっているのは事実のようで、あとはコストを下げまくる消耗戦に入っていくであろうことを予想すると極めて厳しい戦いになるのは否定できません。

こうした現象は電池に限った話じゃなくて家電全般もそうじゃないかという話もありますがまぁそういう話です。しかしながらそれにしたってひどい。理由は一つに絞りきれないと思うのですが関係者から色々聞いていると、

①.常軌を逸した(と当時は思われた)韓国・中国の投資と人材引き抜き
②.同じく1.に対する各国の労働的パワープレイ
③.それらに対する油断も含めた日本側の対応のまずさ(自国生産にこだわるなど)

が大枠としての原因と考えられます。もちろん、為替差や某国でのヒトの値段の安さ、ある意味での法規のユルさと何よりも人々の優秀さとハングリーさなどを考えたら最終的にこの状況はある程度予測できたはずなので警戒を怠っていたとは思えませんが、そうした変化に対応できなかったのはいかにもジャパンぽいのですね・・・(実際電池分野で長期に活動をされている著名な研究者も上記と同様の主張をされている[文献3]ので主張の方向性としてはそんなに間違ってない気がします)。また①に関わる人材引き抜きは本当に優秀な方々に対し高給で報いなかった企業側のしくみにもあるのでしょう。ある企業には何人か超絶優秀な方がいたらしいのですがそういう方に給料上げるとかの厚遇で迎えるどころかとんでもない冷遇に追い込んでしまったあげく辞めさせた、という身から出た錆の見本のような薄汚いアクションがあったことを鑑みると、こうした中韓に移籍した方々を「売国奴」などと称するのは明らかに間違っておりむしろ追い出した側の方が本当のクズだったということも考えられるわけで。

その他、安くて古い設備をコツコツ使う貧乏性を生産現場に要求し続けたとかもあるらしいのですが、正直万一もし仮に自分がその立場に居たら絶対ムチャな投資は行わ(え)なかったと思います。実際各社それなりに投資はしていましたし技術も磨いていて特にハイエンド系の乾電池類の品質は今でもかなり高いですから、ある程度やるべきことはやっていたと思います。しかし銃器で打ち合いしていたらいつのまにか(品質はアレだけど)大量になんとか飛べる航空機を生産されて空爆を喰らったようなイメージと同じで、戦術に固執していたら戦争で負けてしまったとも考えるべきなのかもしれません。

Twitterで話題になった中国の電池製造(ほぼ)無人工場
東京ドーム ン個分とかいう敷地で最新設備でガンガン作られちゃ
常識的に考えて勝てるわけがない(ハイエンドを除けば品質もそこまで悪くないもよう)

先日欧州発明賞を受賞された吉野彰・旭化成フェロー殿の取組により水島博士、Goodenough博士らの成果を活かしつつ「雛鳥が卵からかえった」とも考えられるリチウムイオン電池や、オランダのフィリップスがその基本構成を考案したとはいえ材料面で圧倒的な優位性を示して市場を席巻したニッケル水素電池、また乾電池と言えば”National”、と言わしめるほどの高品質かつ廉価な製品供給スタイルを確立した松下電池など圧倒的な研究開発力と製造能力を持っていた時代のことを考えるとかえすがえすも残念無念としか言い様がありません。もちろん上述したようにハイエンド品ではまだテキトーな作り方では追いつけない領域をおさえているようなのでそこを起点に巻き返す余地はあると思いますがここまで急拡大をする領域でもなく、苦戦を強いられるのは間違いないと思われます。結局資本と人の安さというパワーで殴り合いできるところで戦ってちゃ勝負にならんということなんでしょう。国力と体力にあった戦略の練り直しが今から間に合うのか、正直苦しい所でしょう。

・・・ということで冒頭の電気化学の棚がやたら小さかったのはこうした競争に産業としてついていけなくて企業活動が縮小していき専攻や職業として選ぶ人の数が減っていって本の売上げも減ったから、というのは筆者が考える「風が吹けば桶屋が儲かる」なのですがあんまりにもこじつけすぎてますでしょうか・・・? 電気化学は化学と化学熱力学と表面科学と材料化学の組み合わせという非常に理解が困難な分野の組み合わせであるだけにとっつきにくいとは思いますがなんとかもうひとふんばりして頂きたいとことです。

おわりに

こうした苦戦が強いられる中、鉛蓄電池はまだ結構日本企業がジリジリと持ちこたえています、実は。鉛電池が持ちこたえているのは安いのと他の電池に類を見ないほどの頑健さに加え、自動車産業の急激な増産についていけた面が大きいでしょう。また製造ラインを見てみるとリチウムイオン電池のラインを経験した人間からは「え、これでいいの?」と冷や汗が出るようなすげぇ雑さ(失礼)。

このレベルでいいらしい(有人)
リチウムイオンの厳密さを知っていたらたぶん卒倒するレベル

流石に最新鋭の製造ラインはもっと省人化が進んで洗練されてはいますが細かいことをあんまり気にしなくても電池として成り立つのは非常に大きな利点です。また古い電池ではありますがまだまだ細かいところで洗練されつつあり、未だに技術発展は継続しています。もちろんやっすいので利幅はあまり高くないでしょうけどもここらへん、古い技術だと言わずにもう少しリキを入れて取り組むべき領域な気がしているのですがどうでしょう。

また今回歴史を見直してみて気づいたのはアメリカの先見性ですね。さっさとこうした労働集約産業から情報通信産業に移行していき(もちろん結果的にラストベルトやデトロイトのような衰退都市を生み出してしまったわけですが)おそらく国家としての衰退を防ぐための真剣な必死さがあったのでしょう。それがなくても石油産業と軍需産業でしこたま儲けとるやんけ、ではありますが。いっぽう日本は農耕民族であるがゆえに歴史的に社会構造が安定すると本質的にフロンティアを目指さ(せ)なくなりますのでここまでドラスティックな変化は起こらず、結局各自分隊(組織、企業、研究機関)が個別撃破を繰り返して生き延びるよりほかにないのでしょう。問題はそうした動きを推奨するどころか手足をふんじばって動けなくする方向に行っている点なのですが・・・

ということで今回は短いですがこんなところで。

【参考文献】

  1. “情報経済革新戦略”, 経済産業省報告資料,平成22年5月  リンク
  2. “The Rechargeable Battery Market and Main Trends 2011-2020”, C. Pilot, Avicenne, 2016, リンク
  3. ” 企業戦略に振り回される技術者”, 佐藤登氏の日経新聞オンラインへの寄稿より リンク
  4. “POWER PLAY: HOW GOVERNMENTS ARE SPURRING THE ELECTRIC VEHICLE INDUSTRY”, International Council on Clean Transportation, 2018, リンク
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Tshozo

Tshozo

メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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