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化学者のつぶやき

二刀流のホスフィン触媒によるアトロプ選択的合成法

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不斉[4+2]付加環化反応による新奇アリールナフトキノン合成法が報告された。2つの機能を有する不斉ホスフィン触媒がアトロプ選択的な合成を可能にした。

ホスフィン触媒を用いたアレノエートの付加環化反応(PCAA)

軸不斉を有するビアリール化合物は不斉触媒、創薬、材料科学の分野において重要な骨格であり、注目を集めている[1,2]。これまでに数多の触媒的不斉合成法が開発され、フェニル基およびナフチル基を基本骨格としたアトロプ異性体の研究は精力的に行われてきた。一方、アリールナフトキノンは生物活性天然物にも広く見られる有用な骨格であるにも関わらず、そのアトロプ選択的合成法は限られる[3]
ホスフィン触媒を用いたアレノエートの付加環化反応(PCAA)は、Luらの1995年の報告に端を発し[4]、この20年近くの間に数々の反応が開発された。本論文の著者であるTong教授らはアセテートを有するアレノエートに着目し、種々のPCAAを報告している(図1A)。アレノエートにホスフィン触媒が付加して生じるホスホニウムジエンはケトンと反応することでヘテロ環化合物を与える[5]。キラルな二官能性触媒存在下、環状ジケトンを作用させた場合にはエナンチオ選択的に二環式骨格が合成できる[6]。また、α位に脱離基を有するβケトエステルとの[4+2]環化反応では種々のベンゼン環を与える[7]。この論文では類似のビアリール骨格も合成できるが、立体選択的な反応ではなかった。
今回、著者らはδ-アセトキシアレノエート1と2-ヒドロキシキノン2から、アリールナフトキノン3のアトロプ選択的な合成に成功した(図1B)。本反応では、2つの機能を有するホスフィン触媒を用いることで、反応位置及び軸不斉の制御を一挙に達成している。PCAAにおいてアトロプ選択性を制御した初めての例である。

図1. (A) Tongらの先行研究、(B)今回の反応

 

Access to Aryl-Naphthaquinone Atropisomers by Phosphine-Catalyzed Atropselective (4+2) Annulations of δ-Acetoxy Allenoates with 2-Hydroxyquinone Derivatives
Chen, X.; Gao, D.; Wang, D.; Xu, T.; Liu, W.; Tian, P.; Tong, X. Angew. Chem., lnt. Ed. 2019, 58, 15334–15338.
DOI:10.1002/anie.201908923

論文著者の紹介

研究者:Ping Tian
研究者の経歴:

1995-1999 BS, Wuhan University, China (Prof. Zaoying Li)
1999-2005 Ph.D, Shanghai Institute of Organic Chemistry, China (Prof. Guoqiang Lin)
2005-2006 Researcher, Shengkang Biomedical Technology, China
2006-2010 Researcher, Speed Chemical Inc., China
2010-2017 Associate Professor, Shanghai Institute of Organic Chemistry, China
2017- Professor, Shanghai University of Traditional Chinese Medicine, China
研究内容:不斉触媒を用いた付加環化反応の開発

研究者:Xiaofeng Tong

研究者の経歴:
1995-1999 BS, Beijing Normal University, China
1999-2005 Ph.D, Shanghai Institute of Organic Chemistry, China
2005-2006 Postdoc., University of Rostock, Leibniz Institute for Catalysis, Germany
2006-2015 Associate Professor and Professor, East China University of Science and Technology, China
2016- Professor, Changzhou University, China
研究内容:ルイス塩基触媒を用いた付加環化反応の開発、複素環合成法の開発

論文の概要

ベンゼン溶媒中、2-ヒドロキシキノン2とアミノ基を有するキラルなホスフィン触媒4に対し、δ-アセトキシアレノエート1を作用させることで、[4+2]付加環化反応が進行し、アトロプ選択的にアリールナフトキノン3を与える(図2A)。

本反応はアレノエートδ位のアリール基の立体効果が重要であり、2位に置換基を有するナフチル基を用いた際、高収率、高アトロプ選択性でアリールナフトキノンを与えた(5)。しかし、2-ヨードナフチルをもつ場合には、低い収率、アトロプ選択性を示した(6)。また、3の芳香環上に2つの電子供与基を有する場合はアトロプ選択性は低いが(7–8)、電子供与基を1つとすると無置換の場合とほぼ同等の反応性を示した(9–10)。また、ジヒドロナフチル基を有するアレノエートを用いた場合においても、高収率、高アトロプ選択性でアリールナフトキノンを与えた(1113)。さらに、ヒドロキシベンゾキノンは非常に高いアトロプ選択性でアリールナフトキノンを与えた(1416)。
続いて、著者らは本反応における4の三級アミンの影響を調べた。本文中の1H NMR実験より24の間に相互作用が存在することが示唆された。また、対照実験では三級アミンが反応位置選択性とエナンチオ選択性に大きな影響を及ぼすことが示された。これらの結果から、著者らは本反応が17のような遷移状態を経由すると推定した(図2B)。ここでは、三級アミン部位が2-ヒドロキシキノンと水素結合することで反応点を制御している。[4+2]付加環化反応によってInt-1が生成し、プロトン移動とホスホニウムの脱離を経て18, 19を与える。DFT計算により1819の回転障壁エネルギーが見積もられており、軸不斉はこの時点で発現すると考えられる。

図2. (A) 基質適用範囲、(B) 推定反応機構

 

以上、キラルなホスフィン触媒を用いた、アトロプ選択的アリールナフトキノンの合成法が開発された。アリールナフトキノン誘導体はヒト乳癌細胞に対する抗癌活性を示しており、医薬品への応用が期待される。

参考文献

  1. LaPlante, S. R.; Fader, L. D.; Fandrick, K. R.; Fandrick, D. R.; Hucke, O.; Kemper, R.; Miller, S. P. F.; Edwards, P. J. Assessing Atropisomer Axial Chirality in Drug Discovery and Development. Med. J. Chem. 2011, 54, 7005–7022. DOI: 10.1021/jm200584g
  2. Smyth, J. E.; Butler, N. M.; Keller, P. A. A Twist of Nature–the Significance of Atropisomers in Biological Systems. Nat. Prod. Rep. 2015, 32, 1562–1583. DOI: 10.1039/c4np00121d
  3. Tanaka, K.; Suda, T.; Noguchi, K.; Hirano, M. Catalytic [2+2+2] and Thermal [4+2] Cycloaddition of 1,2-Bis(arylpropiolyl)benzenes.  J Org. Chem. 2007, 72, 2243–2246. DOI: 10.1021/jo0624546.
  4. Xu, Z.; Lu, X.Phosphine-Catalyzed [3+2] Cycloaddition Reaction of Methyl 2,3-Butadienoate and N-Tosylimines. A Novel Approach to Nitrogen Heterocycles.Tetrahedron Tetrahedron Lett. 1997,38, 3461–3464. DOI: 1016/S0040-4039(97)00656-4
  5. Hu, J.; Dong, W.; Wu, X.-Y.; Tong, X. PPh3‐Catalyzed (3+3) Annulations of 5‐Acetoxypenta-2,3-dienoate with 1C,3O-Bisnucleophiles: Facile Entry to Stable Monocyclic 2H‐Pyrans. Org. Lett., 2012, 14, 5530–5533. DOI:10.1021/ol302634p
  6. Zhang, Y.; Tong, X. Construction of Complex 1,3-Cyclohexadienes via Phosphine-Catalyzed (4+2) Annulations of δ‐Acetoxy Allenoates and Ketones. Org. Lett. 2017, 19, 5462–5465. DOI:10.1021/acs.orglett.7b02787
  7. Xu, T.; Wang, D.; Liu, W.; Tong, X. Phosphine-Promoted Divergent Annulations of δ‐Acetoxy Allenoates with α‐Hydroxy-β-carbonyl Ester Derivatives: Synthesis of Tetrasubstituted Cyclopentadienes and Benzenes. Org. Lett. 2019, 21, 1944–1947. DOI: 10.1021/acs.orglett.8b03808
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