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スポットライトリサーチ

アンモニアを窒素へ変換する触媒

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第252回のスポットライトリサーチは、東京大学工学系研究科 システム創成学専攻(西林研究室) 博士1年・戸田広樹さんにお願いしました。

西林研究室は窒素固定によるアンモニア合成で世界をリードする研究成果が続々と報告しており、前回のスポットライトリサーチにも取り上げさせていただきました。

この度、戸田さんは形式的にその逆反応となる、アンモニアを窒素へと触媒的に変換する手法を開発されました。これは、アンモニアに蓄えられた化学エネルギーを直接的に電気エネルギーへ変換する反応であり、アンモニア社会の実現において重要な発見となります。本成果は、Nature Chemistry誌、及びプレスリリースに公開されています。

“Ruthenium-catalysed oxidative conversion of ammonia into dinitrogen”

K. Nakajima,* H. Toda,* K. Sakata, Y. Nishibayashi. Nat. Chem. 2019, 11, 702–709. (*equal contribution)

doi: https://doi.org/10.1038/s41557-019-0293-y

戸田さんについて、西林先生から次のようにコメントを頂戴しています。

戸田君は、私が現在所属している工学系研究科システム創成学専攻へ異動直後に卒論生として研究室に配属された第一期生になります。化学を専門としないシステム創成学科の学生で、従来の化学を学んできた学生とは異なる考え方を持ち、その長所を生かして、試行錯誤しながら化学の知識を上手く身につけてくれたと思っております。卒論開始時から困難が予想された本研究課題である「アンモニア分解反応の開発」に正面から取り組み、見事に突破口を拓いてくれたことに対して敬意を表しています。達成した研究成果はアンモニア燃料電池の開発に直結する技術であり、その卓越した研究センスを生かし、自ら開発した技術を基にしてアンモニア燃料電池開発の実用化を実現する夢に向かって活躍して欲しいと願っています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回私たちは、ルテニウム錯体を用いることで、酸化的にアンモニア分子を窒素分子へと変換する触媒反応を達成しました。アンモニアは肥料や医薬品の原料のほかに、炭素を含まないエネルギーキャリアとしての利用が近年注目されています。すなわち、温和な条件においてアンモニアからエネルギーを取り出す酸化反応は、効率的なエネルギー利用において有望な反応であると言えます。

これまでに、遷移金属錯体を用いたアンモニア分子の酸化反応は、様々な研究グループによって研究が行われてきましたが、いずれも化学量論的な反応に限られていました。本研究では、アンモニア分子と水分子の構造や性質などの類似性に着目し、水の酸化反応を類似反応として参考にしました。すなわち、水の酸化触媒として知られるルテニウム錯体を触媒として、プロトンの受容体として塩基を、電子の受容体として酸化剤を組み合わせた反応系を用いることで触媒的なアンモニア酸化反応を-40℃から室温という温和な条件下で達成しました。発生した窒素分子は錯体当たり12当量であり、酸化剤あたりの収率は80%と高効率な反応系であることが明らかとなりました。加えて、電気化学的酸化条件での反応の進行を確認し、触媒回転頻度が毎秒2.8回という速やかな反応が進行していることが判明しました。

以前に、Chem Stationにて研究成果が詳しく取り上げていただきましたので、詳細は以下のURLからご確認ください。

https://www.chem-station.com/blog/2019/08/ammonia.html

また、論文の内容や背景につきましては、Nature Research Chemistry Communityでの紹介記事もご確認ください。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究テーマにおいて、思い入れがあるのは、中間体として得られた窒素架橋錯体です。今回論文に掲載した反応中間体の中では、最初に単結晶X線構造解析によって構造が明らかになった錯体です。修士2年の夏に様々な反応で得られた結晶をひたすら単結晶X線構造回析で分析していた時期がありました。ある日、測定を行ったところ、窒素分子で架橋された窒素架橋二核錯体の構造が得られました。最初に自分が錯体の構造を解いていたところ、単核の錯体の構造が得られましたが、後々になり、対称性が高く二核錯体の片方の部分しか見えていなかったことがわかり、窒素分子で架橋されていることがわかりました。二核化を伴う反応機構であることを示唆する重要な中間体であり、二核構造を見たときの印象が今も強く残っています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

本研究テーマで難しかった点は、反応系をいちから作り上げた点です。西林研究室はアンモニアの合成反応が中心テーマであり、アンモニアの酸化反応については、自分のみが担当していました。そのため、反応試薬の組み合わせや量、反応温度をはじめとする反応条件から発生した窒素の定量方法までゼロの状態から立ち上げなくてはならず、骨の折れる研究テーマでした。また、実験においては酸化剤の選定が最も苦戦した点です。最初は、水の酸化反応で一般的に用いられるセリウム塩を酸化剤として用いて検討を行っていましたが、セリウム塩は強酸性条件において強い酸化力を有するため、アンモニア存在下で扱うことが難しいことが後々わかりました。そこで、塩基性条件下でも比較的安定であるトリアリールアミニウムラジカルを用いることで触媒反応を達成することができました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

実社会に役立つ学問として普段化学に関わらない方々にも、化学の良さを知ってもらいたいと思っています。研究のモチベーションとして、アンモニアを化石燃料に代わるエネルギー資源にすることで地球温暖化をはじめとする環境問題を解決したい想いがあります。今回の研究課題をきっかけに化学を通じて社会に還元することができれば嬉しい限りです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私は、研究において、小さな変化を見過ごさないことを大切にしています。一見すると関係のないような、溶液の小さな色の変化などに目をやることで、いままで気付かなかった要素などが見えてくると考えています。

最後に、研究指導して下さった西林先生、中島先生をはじめとする研究室の皆様、また共同研究にてお世話になりました東邦大学の坂田先生、そして今回、研究を紹介する貴重な機会を下さいましたケムステスタッフの皆様に深く御礼申し上げます。

 

研究者の略歴

名前:田 広樹(とだ ひろき)

所属:東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 西林研究室 博士課程1年

研究テーマ:「遷移金属錯体を用いたアンモニア分子の変換反応」

Orthogonene

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有機合成を専門にするシカゴ大学化学科PhD3年生です。
趣味はスポーツ(器械体操・筋トレ・ランニング)と読書です。
ゆくゆくはアメリカで教授になって活躍するため、日々精進中です。

http://donggroup-sites.uchicago.edu/

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