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化学書籍レビュー

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

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概要

高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各種重合法の特徴、反応制御までを体系的に解説。精密重合を実際に使える技術として学べる、研究者・技術者の必携ガイド!(引用:講談社サイエンティフィック

対象者

  • ラジカル重合反応をこれから始めたい研究者
  • ラジカル重合反応を研究テーマとしている学生
  • ポリマー研究に携わる企業研究者

目次

第 I 編ラジカル重合の基礎
第1章 ラジカル反応の基礎
1.1 ラジカル反応の利点
1.2 ラジカル反応の歴史
1.3 ラジカルの安定性
1.4 ラジカル反応の分類と特徴
1.5 ラジカル連鎖反応の制御
1.6 ラジカル反応の立体制御

第2章 ラジカル重合の特徴と反応制御
2.1 重合の分類と特徴
2.2 ラジカル重合の速度式と生成ポリマーの分子量
2.3 ラジカル重合の形態
2.4 ラジカル重合の開始
2.5 ラジカル重合の反応選択性

第3章 リビング重合の発見とその後の展開
3.1 リビングアニオン重合の発見
3.2 リビング重合の定義と特徴
3.3 さまざまなリビング重合の開発
3.4 リビングラジカル重合の開発
3.5 リビングラジカル重合の名称(呼称)

第 II 編 各種リビングラジカル重合の特徴
第4章 ニトロキシド媒介ラジカル重合
4.1 NMPの発見
4.2 NMPの反応制御
4.3 NMPの反応機構解析
4.4 アルコキシアミンの合成
4.5 アルコキシアミンのラジカル解離速度
4.6 ポリマーの末端基構造の変換
4.7 NMPによるブロック共重合体の合成
4.8 NMPの工業化・応用技術

第5章 原子移動ラジカル重合
5.1 ATRPの発見
5.2 ATRPの反応機構
5.3 さまざまな金属触媒を用いる重合反応制御
5.4 Cu触媒系の配位子設計
5.5 改良型ATRPの開発(触媒失活の抑制)
5.6 反応機構に関する論争
5.7 ATRPの工業化・応用技術

第6章 可逆的付加開裂型連鎖移動ラジカル重合
6.1 可逆的付加開裂型の連鎖移動
6.2 RAFT重合の反応機構
6.3 RAFT剤の種類と特徴
6.4 RAFT重合の実用面での特徴
6.5 RAFT重合によるポリマー構造制御
6.6 RAFT重合の工業化・応用技術
6.7 RAFT重合に関する書籍

第7章 有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合
7.1 TERPの反応機構と重合の特徴
7.2 重合制御剤の種類と構造
7.3 TERPによるポリマーの構造制御
7.4 ラジカル重合の反応機構解析への応用
7.5 多分黄ポリマーの構造制御と機能開拓への応用
7.6 TERPの工業化・応用技術

第8章 ヨウ素や有機触媒を用いるリビングラジカル重合
8.1 ヨウ素移動重合(ITP)の発見
8.2 ITPの反応機構
8.3 可逆連鎖移動触媒重合(RTCP)
8.4 可逆錯体形成媒介重合(RCMP)
8.5 ITPとRTCP(RCMP)の工業利用

第9章 炭素ー金属結合の解離を利用するリビングラジカル重合
9.1 OMRPの発見
9.2 金属ポルフィリン錯体を用いる重合制御
9.3 コバルトポルフィリン錯体を用いるOMRP
9.4 その他のOMRPの開発

第 III 編
第10章 重合活性種の変換と外部因子による反応制御
10.1 逐次法による重合活性種の変換
10.2 単一反応系の重合活性種の逐次変換
10.3 リビングラジカル重合中の活性種変換
10.4 タンデム同時重合
10.5 光触媒によるリビングラジカル重合の制御

第11章 ポリマーの精密配列制御
11.1 ポリマー材料設計の戦略
11.2 ポリマー材料の分類
11.3 共重合体の分類
11.4 1分子成長による精密配列制御
11.5 リビングラジカル重合の立体規則性制御
11.6 ルイス酸による反応制御

第12章 高分子反応を利用したポリマー材料設計
12.1 高分子反応の特徴
12.2 ネットワークポリマーの材料設計
12.3 ラジカル解離平衡型の動的共有結合を用いる材料設計
12.4 クリック反応を用いるポリマー材料設計

第13章 ポリマー構造制御による高機能材料の設計
13.1 ポリマーブラシの合成と材料の機能化
13.2 金属・無機ナノ微粒子の表面修飾
13.3 両親媒性ものまーを利用した表面特性制御
13.4 水媒体不均一系リビングラジカル重合とポリマー微粒子
13.5 ポリマーコンジュゲート

第14章 分解機能をプログラムしたポリマーの合成
14.1 ポリマーの分解
14.2 ビニルポリマーの分解反応機構
14.3 解重合の精密制御
14.4 ポリマー主鎖への分解性ユニットの導入

第15章 リビングラジカル重合を用いたポリマー合成の実験
15.1 ポリマーの精製
15.2 モノマーと開始剤の取り扱い
15.3 ラジカル重合の基本操作
15.4 ポリマー合成の実験例
(具体的な実験例20件を掲載)

索引

・全309ページ

内容

リビングラジカル重合とは「連鎖重合のうち、開始反応と成長反応だけで構成され、連鎖移動や停止反応が起こらない重合」と定義されています。
活性種が失活せず生き続けることから「リビング」重合と呼ばれるようになりました。
この重合法は、望まない停止反応などを起こさないため、分子量分布が極めて均一になりやすい重合で、さまざまなポリマーの工業生産に利用されています。

リビングラジカル重合の中でも、最も代表的な手法の一つがRAFT重合です(ケムステ過去記事でも紹介されています)。
RAFT重合とは、Reversible Addition-Fragmentation chain Transferの略であり、反応系中に存在するラジカル種を可逆的にトラップできる試薬=RAFT剤を添加することで活性種の失活を防ぎ、リビングラジカル重合を進行させる手法のことです。ラフト剤をどのように選ぶべきか、各試薬の特徴とともに紹介されておりとても実践的です。そのほかにもさまざまなリビングラジカル重合反応が、その開発の経緯、メカニズム、実際に使う試薬と特徴、ポリマー構造制御、工業化・応用技術についてしっかり記述されており、重合反応を体系的に勉強することができます。

構成

第 I 編:ラジカル重合の基礎
第 II 編:各種リビングラジカル重合の特徴
第 III 編:精密構造制御と材料設計
基礎→反応機構→材料設計と順序立てて解説されているので、読者の専門性によって読み始めるの箇所が明確です。
例えば、大学ですでにラジカル重合の基礎を勉強した読者にとっては、より実践的な第 II または第 III 編から読み始めるので良いのかと思います(第 I 編は軽く読める)。
近年発展している光触媒反応を利用したラジカル重合制御や、ナノ粒子の表面修飾、両親媒性モノマーを利用した表面特性制御など、学術的にも研究に用いられるさまざまな手法が解説されています。

読んでみた感想

本書の対象層は、有機化学の知識がある程度あり、重合反応の中でも特にラジカル重合反応を専門とする大学生・大学院生、大学および企業研究者となると思います。
本記事の筆者は大学で高分子の講義を受けたものの、小~中分子の合成化学を専門としてきたため、ポリマーの専門知識は深くありません。そのような立場から見た本書の内容はかなり実践的であり、最終章には実際の実験手順が20例も日本語でまとまっている点が、現場の化学者に役にたつと感じました。特に、メカニズムがかなり詳細に書かれているため、学生や改めて理論を勉強したい企業研究者などにも役に立つと思います。反応屋は反応機構を常に考えるが、高分子屋さんには一部反応機構を考えるのが苦手という人も一定数いるかもしれませんが、そのような方にもとても勉強になる本だと思います。
たまにに出てくるコラム欄では、マイルストーンを作った先人やその技術にフォーカスした歴史的背景、(重合)反応屋と 高分子化学者が考えていることの違いなど、独特なコラムが多数あり勉強になりました。

また、分子の構造や反応機構を解説しているため、高分子化学者ではない有機合成化学者が高分子化学を少し勉強するためにかなり読みやすい書籍でした。気になった方はぜひ手に取っていただければと思います。

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Macy

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有機合成を専門とする教員。将来取り組む研究分野を探し求める「なんでも屋」。若いうちに色々なケミストリーに触れようと邁進中。

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