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化学者のつぶやき

即戦力のコンパクトFTIR:IRSpirit

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化合物の合成や構造決定に勤しんでいる読者の皆様。最近、島津製作所から新しいFTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)が発売され、先日デモをしましたので紹介させていただきたいと思います。

その名も、「IRSpirit」。

大変コンパクトなのに高性能が売りのFTIRです。島津製作所ってIRつくってるの?いやいやそもそもIRなんて使わないし!など様々な声が聞こえてきそうなのでそれに答えながら製品をレビューしてみましょう。

島津製作所FTIRの歴史

FTIRといえばどこのメーカーがでてくるでしょうか。私は日本分光(JASCO)です。以下のようなIRをお持ちの大学(もしくは研究室)が多いのではないでしょうか。昔は研究室に1台ありましたし、最近でも共通機器室や学生実験室にはこのFIIRに似たようなものを見たとこがあるのではないかと思います。

FT/IR-4000, 6000 series(出典:日本分光)

 

では島津のFTIRはどうでしょうか。実は調べてみると日本分光のFTIRより1年早い1956年に製造・販売しているとのこと。はじめのIRはAR-275という名前の機器でした。2016年にIR発売60周年を迎えていて、島津製作所でも古くからある主力の分析機器のひとつのようです。

島津・日本分光両社のIRの開発の歴史を知りたい方は以下のURLを御覧ください。

めちゃくちゃ小さいFTIR

さて、今回レビューしたFTIRに話を戻しましょう。トップの画像にもあるものですが、とってもコンパクト。どのくらいコンパクトかというとA3サイズよりも小さい

実際デモした際にみたときのまわりの感想も「え!小さっ!」でした。

そもそも付属のパソコンのほうが大きいぐらい小さい。なんと簡単に持ち運びもできるそう。持ち運ぶと設定がずれてしまいそうな気がしますが、そこは電源を切るとしっかり固定できる仕組みになっているそうです。みためもかっこよく、なんとなくプリンターみたいです。ちなみに世界的に権威あるデザイン賞であるレッドドット・デザイン賞を受賞しているとのこと。

IRSPiritはこんなに小さい(出典;島津製作所)

 

実際使ってみました

簡単な仕様説明を受けた後に早速使ってみました。今のFTIRはKBr板なんていらないんです(当たり前?)。

プレートに揮発性の高い溶媒に溶かしたサンプルをのせるだけ。方法はバックグラウンドを測定してから、サンプル測定という昔から変わらない単純なものです。固体のサンプルも、オプションのQATR-S(1回反射型ATR測定装置)を使えばKBr錠剤にする必要はなく、押し付けるだけで測定できます。この辺の機能、実は最近のIRでは全部当たり前な機能ですが、昔のFIIRしか使ったことない筆者にとってはかなり新鮮でした。測定も問題なく終了。

様々なオプションも追加できるようですが、問題は価格ですね。ざっくりと聞いてみたところかなり安価でした。FTIRってもっと高価かと思っていましたが、学生実験用などにも購入できそうな価格です。実際の価格はお問い合わせいただければと思います。

IRをいまさら必要なワケ

読者の皆様でIR(赤外吸収スペクトル)を学んでいない方はいないと思います。学部で必須の分析化学・機器分析などの講義で必ず登場する「分子の振動をみる」スペクトルです。

一方で測定した人はどのくらいいるでしょうか?学生実験で測定した、測定はほとんどしていないというひとが大部分を占めるのではないでしょうか。そういう我が研究室も有機合成を専門とする研究室ですが、学生は研究室で誰も測定したことはありません。残念ながら、分子レベルで合成・反応開発を行う研究室においても、現状IRは研究に使われていないといっても過言ではありません。

では、なぜ講義もあり、機器も必要なのでしょうか。それは大きくワケて2つ理由が。

  1. 分子構造がみえにくい分野で活躍している
  2. IRの知識を使ったアドバンスな測定法がある

1,に関しては例えば気体サンプルの分析などではかなり効果を示します。また、多くの溶液にならない固体化学分野や、動的な分子構造を確認したい超分子化学分野などで現在でも重宝されています。

2に関しては、リアルタイムで反応を理解するin situ FTIRやキラルな化合物を決定する赤外円二色性スペクトルなどにも応用されています。細かいことをいえば、合成した配位子をカルボニル錯体として評価するときにも使いますね。まだまだ「分子の振動」という概念はまだまだ研究で活躍しているわけです。実際にこういった理由で、IRはまだ必要ですよといって講義をしています。

というわけで、その基本となるFTIR、共通機器室や学生実験室で幅をきかせている古いFTIRの代替品として検討してみてはいかがでしょうか。上述したように測定法も昔の測定法を教えなくても良いですし、私の学科でも将来的に検討してみたいと思います。

UVもなかなかかっこいいのが売られている

以上、FTIRのレビューでしたが、今回はデモを行いませんでしたが、もう一つ基本的な分析機器である、紫外可視分光光度計についても、最近新製品(UV-1900)を出したようです。こちらもスタイリッシュかつ高性能にもかかわらず、なかなかの安価で提供しているようなのでぜひご検討を。

紫外可視分光光度計(UV-1900)

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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