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始めよう!3Dプリンターを使った実験器具DIY:3D CADを使った設計編その1

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前回は、3Dプリンターの導入から完成されたモデルを印刷するところまでを紹介しました。今回は、Fusion 360を使ってオリジナルのモデルをデザインしていきます。

復習・今回の目標

前回の記事では、3Dプリンターを購入し、組み立て・セットアップを行い、公開されている3Dモデルをダウンロードして印刷までを行いました。インターネット上にはたくさんの造形が公開されており、それをダウンロードしてサイズを少し変えるだけで自分の理想に近い物を製作できることが実感できたかと思います。

しかし自分が欲しいものを完全に実現するには、自分でモデルをデザインする必要があり、それには3D CADを使う必要があります。そこで今回は、3D CADを使ってモデルのデザインを行いました。最終目標はフラスコホルダーですが、まずは難易度が低いと思われるNMRチューブホルダーを作りました。

3D CADソフト

有償・無償様々な3D CADソフトが使われていますが、今回はFusion 360を使用しました。Fusion 360は図面作成ソフトを開発しているオートデスク社が提供している有名な3D CADソフトです。最大の特徴は、非商用の個人用途であれば機能限定版ライセンスが無料で使用できることです。無料で使用する場合機能が制限されますが、3Dプリンターで印刷する造形をデザインする用途であれば無料版でも機能に不足はないようです。また同時に編集できるモデルが10個に制限され、10個以上のモデルを保存したい場合には一部読み取り専用に変更しデータをキープする必要があります。プラモデルのようなたくさんのパーツを組み合わせるような物を作らない限り、10個の同時編集で事足りるかと思います。

13歳以上の生徒・学生や教員の皆さんは、無料の教育機関限定ライセンスを取得しFusion 360の全機能を使用することができます。ただし在学 / 在職証明書を提出することが必要で、また個人用途同様に商用、業務用、またはその他の営利目的に使用することはできません。

有償版はサブスクリプションで、1か月から契約できます。通常価格で1か月8800円となかなかのお値段しますが、1年契約で71500円と割引が大きいので本格的にこのFusion 360を使用する場合には1年契約がおすすめだと思います。

自分は学生ではないのでとりあえず個人版でモデルのデザインを行いました。使い方をまとめたWebサイトはたくさんありますが、本を読みながら技術を習得したく、下記の本を参考にしました。

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Fusion 360のインストール・画面

インストールはオートデスクのサイトからダウンロードできます。アカウントの作成が必要ですが、日本語のサイトなので迷うことなくダウンロード・インストールまで可能です。

インストールが完了するといよいよソフトを立ち上げてモデルのデザインに入るわけですが、まず大まかなアイコンについて見ていきます。

画面の説明

  1. 最上部のタブ:ファイルごとにタブになり、クリックで編集するファイルを切り替えることができます。
  2. 画面上部のアイコン:操作に関するアイコンが並んでいます。これらをクリックして機能を形を作る呼び出します。
  3. サイコロ:これをドラッグすると視点の角度を変えることができます。また、ホームボタンでデフォルトの視点に、漢字をクリックするとその面を表示する視点に、さらには線をクリックするとその線に接する2面を表示する視点にそれぞれ移動します。
  4. レイヤー:各オブジェクトや支店の表示/非表示などを変更します。Adobe IllustratorやPhotoshopのレイヤーに近い機能だと思います。
  5. 画面下部のアイコン:視点の回転や移動など画面表示に関するアイコンが並んでいます。
  6. 履歴:モデルの編集履歴が表示されます。三角形のアイコンやバーをクリックすると任意の編集段階に戻ることができます。

NMRチューブホルダーの作成

このFusion 360を使って3Dモデルを作る方法はいくつかありますが、ここではスケッチを使った方法を採用しました。基本的な流れは、まず平面の図を描いて、それを押し出したり回転させ、三次元の物体にします。このNMRチューブホルダーの作成では、まず長方形を作ってそれをZ軸方向に引き伸ばしました。

スケッチを作成をクリックするとどの面にスケッチを作るか選択を求められます。この場合は、XY面にスケッチしてZに引き伸ばしたいのでXY面を選択します。

スケッチ(「デザイン」の右隣のアイコン)の説明

スケッチを描く面を選択。この場合、白紙なのでXY,XZ,YZいずれかの黄色い四角をクリックする。

画面上部のアイコンのアイコンが変わりスケッチモードになりました。こちらはマイクロソフトのオフィスを使った図形描画に近く、アイコンの形でどんなことができるか分かりやすいと思います。これで長方形を作り、頂点を丸くしました。

スケッチモードの画面。上部のアイコンが変化する。

長方形を書き、面取りを行った様子

スケッチ終了して押し出しをクリックし、直方体を作ります。この後直方体に穴を空けてNMRチューブが入るようにしますが、NMR室までダッシュしてもチューブが落ちないようにある程度深さが欲しかったので、120 mm押し出しました。

押し出しのアイコン(「デザイン」の二つ右)と説明

押し出しの様子。ウィンドウで値を入力するか物体中の矢印でも押し出し量を設定できる。

次にNMRチューブを収める穴を作ります。上部の面をクリックし、スケッチを行います。直径5 mmのNMRチューブを収めるために直径6 mmの円を描きました。

作成した直方体の上部を選択しスケッチを行う。

直方体を作るときと同様に押し出します。この場合は、下方向に円柱分だけ切り取るので操作を切り取りにし、切り取る分だけマイナスの値を入力します。100 mm分の穴を作りました。

押し出し操作で直方体から円柱の穴を作る様子

このままだと一本しか刺せないので複数の穴を空けました。この場合、物体をコピーして配列することができ、12本分の穴を等間隔で作りました。

作成の中にある短形状のパターンで12本分の穴を作る。

便利な機能の追加

一応、NMRチューブホルダーは完成しましたが、せっかくオリジナルの器具を作っているのでNMR測定の際に便利な機能を付加しました。まず収める穴一か所を犠牲にして重溶媒の液量を合わせる場所を作ります。戦略は穴と同じで、スケッチで切り出す場所と大きさを決めます。

再度、直方体の上部を選択し、スケッチで切り出すエリアを決める。

さらに切り出す深さを決めます。

切り出し

直方体を切り出したことで、穴もなくなってしまったので再度穴を空けます。液面を見ながら重溶媒を加えることを想定し、最小の深さの穴を作りました。

切り出してできた面をクリックし、穴の位置の再設定

穴の再設定

次に標線ですが、文字のハイフンを繋げて作りました。基本操作は同じで描く面を選択しスケッチでハイフンを書きます。

テキストボックスを開いてハイフンを連ねる。

一つのフィラメントを使う3Dプリンターでは、平面の図では印にならないので壁に沿って盛り上げて印にしました。文字でも押し出す操作は同じです。

ハイフンを押し出した様子

反対の面にもハイフンの印を作り両方向から使えるようにしました。

反対側の切り出した面にもハイフンを押し出した。

次に上面の端をフィレットで滑らかにしました。

面取りの様子

最後にそれぞれの穴に番号を振りサンプルの取り違いを防ぎます。面を選択して文字を書き、押し出しで直方体を掘り出すようにしました。

スロット番号の挿入

文字の掘り出し

実際の印刷

完成したので3Dプリンターで印刷します。その前に長さを確認したい場合には検査の計測機能で線の長さを測定できます。

検査メニューから計測が可能

任意の線や面を選択すると情報が表示される。

3Dプリントをクリックすると設定画面が表示されます。プリンターのユーティリティを選択しOKをクリックすると、自動的にソフトが立ち上がります。

物体を選択して印刷を行う。

後は前回の記事同様に出力ファイルを作成し、実際に印刷を行いました。

印刷時間を短縮しフィラメント消費量を減らすため、印刷速度を上げ、充填率を下げた。それでも20時間オーバーでフィラメントも300g以上使う。高さを抑えても良かったかもしれない。

プリント結果

ほぼ一日かかりましたが無事完成しました。かなり粗い設定で印刷しましたが、穴がつぶれたり数字が見えなくなったりすること無くきれいに印刷されました。

全体の形

上部の様子

穴の深さは実用上問題ないレベルですが、少し頑張って垂直に引き出す感覚があり、もう少し浅かった方が使いやすいかもしれません。

NMRチューブを刺した時の様子

重溶媒を加える場所も問題なく使えますが、穴が浅くチューブが斜めになってしまうため、こちら少し深くした方が良かったです。

重溶媒を加えるスポットの様子

ハイフンの位置も図面通りNMRチューブの底から4 cmのところに配置されていました。ハイフンは浮き出ているのでサポート材が印刷されましたが、サポート材を取り除かない方が見やすいようです。

NMRチューブの黒い線が底から4 cmの高さ

感想

本で操作法の予習を1時間行った後にこのNMRチューブホルダーを本を見返しながら作りましたが、2時間で完成できました。スケッチから押し出しの基本操作ができれば、簡単な小物はすぐに作れます。高機能なソフトウェアほど、操作も難解になりますが、Fusion 360は、ポップアップによる機能説明も充実しており、解説を見なくても機能を理解し使いこなすことができるかと思います。いよいよ次回は、フラスコホルダーを作っていきます。

関連書籍

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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