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分光分析

【書籍】機器分析ハンドブック1 有機・分光分析編

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概要

はじめて機器を使う学生にもわかるよう,代表的な分析機器の使い方を平易に解説したハンドブック.(引用;化学同人書籍紹介より)

題目の通り、有機化合物の分子構造解析や定量法を念頭に、赤外分光法(IR)、核磁気共鳴法(NMR)、質量分析法(MS)をはじめとする代表的な機器分析手法をまとめた、初学者向けの教科書です。「基礎から学ぶ」ことを第一に考え、各々の機器分析法の原理・装置の概要・特徴を丁寧に解説しています。

同じく化学同人から1996年に刊行されている「第2版 機器分析のてびき」(https://www.kagakudojin.co.jp/book/b62819.html)の後継にあたる書籍で、時代の変遷による分析機器や分析手法の発展に対応した形となっています。基礎知識の解説に重点をおきながらも、他のテキストにはない実験のテクニックを満載している点が特色です。

対象者

有機化合物の分子構造解析や定量法を学ぶ理工系学生向けのテキスト、あるいは分析機器を使用する企業の初中級者のための機器取り扱いの案内書となることを念頭に置いて、機器分析に関する基礎的な事項をまとめたものです。
大学で研究を始める学生や、企業での機器分析の業務に関わる実務者にとって、本書が実験の現場で基本に立ち返りながら参考にしえいただけるハンドブックとしてお役に立てれば、編者一堂にとって望外の喜びである。(本書まえがきより)

・・・

学生向けの機器分析の教科書(特に多数の分析手法を取り扱っている書籍)というと、原理か解析のいずれかに偏重したものが多く、実際の測定を行う上ではやや情報不足のあるものも多いかと思います。それに引き換え本書は初学者が必要とする情報を極めてバランスよく、かつ過不足なく配置しており、研究室配属後にはじめて測定に臨む際などにはうってつけだと感じました。また、分析化学系を志望する学生にとっても、あらかじめ既存の分析法を学んでおくという意味において優れた教科書になるかと思います。

目次

1 赤外分光法(執筆者:田村耕平(日本分光光分析ソリューション部))
1.1 はじめに
1.2 赤外分光法の原理
1.3 赤外分光法で分析できること・できないこと
1.4 装置の概要
1.5 各種測定法と注意事項
1.6 スペクトルの解析
1.7 応用事例

2 NMR分光法(執筆者:平野朋広(徳島大学大学院創成科学研究科)、浅野敦士(防衛大学校応用化学群応用化学科))
2.1 はじめに
2.2 原理
2.3 装置
2.4 溶液NMR
2.5 固体NMR

3 質量分析法(執筆者:川崎英也(関西大学化学生命工学部)、山本敦史(公立鳥取環境大学環境学部))
3.1 はじめに
3.2 原理
3.3 タンデム質量分析
3.4 検出器
3.5 質量分解能
3.6 クロマトグラフィーとの組み合わせ
3.7 操作方法
3.8 マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法
3.9 質量分析から得られるデータ
3.10 妥当性評価
3.11 おわりに

4 紫外・可視・近赤外分光法及び蛍光分光法(執筆者:森澤勇介(近畿大学理工学部))
4.1 紫外・可視・近赤外分光法
4.2 紫外・可視・近赤外分光光度計による測定方法
4.3 紫外・可視・近赤外スペクトルの見方
4.4 蛍光光度法

5 近赤外分光法(執筆者:高柳正夫(東京農工大学大学院連合農学研究科)
5.1 はじめに
5.2 近赤外分光法の原理と特徴
5.3 近赤外分光法で何がわかるか
5.4 装置の概要
5.5 測定法:光学配置
5.6 測定法:試料の扱い方
5.7 近赤外吸収スペクトル
5.8 スペクトルの解析法

6 ラマン分光法(執筆者:水谷泰久(大阪大学大学院理学研究科))
6.1 はじめに
6.2 ラマン散乱光の生じる原理
6.3 ラマンスペクトルから読み取られる情報
6.4 ラマン分光計の概要
6.5 操作方法
6.6 ラマンスペクトルの較正
6.7 ラマンスペクトルの解析方法
6.8 おわりに

7 ESR分光法赤外分光法(執筆者:河合明雄(神奈川大学理学部))
7.1 はじめに
7.2 原理
7.3 ESRで何が測れるか
7.4 装置の概要(諸注意含む)
7.5 操作方法(試料の前処理含む、諸注意含む)
7.6 結果の見方と解析方法
7.7 特殊なESR測定法
7.8 おわりに

8 スペクトルによる化合物の構造決定法(→付録;WEB上での公開、詳細は後述)
(執筆者:奥野恒久(和歌山大学システム工学部)、楠川隆博(京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科)、中原佳夫(和歌山大学システム工学部))

感想

赤外分光法(IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、質量分析法(MS)、紫外・可視・近赤外分光法(UV-Vis)、蛍光分光法、近赤外分光法(NIRS)、ラマン分光法、電子スピン共鳴分光法(ESR)のそれぞれの分析法について、その原理、物理的・量子化学的な基礎から装置の構造、試料の調製法、分析や校正の方法、結果の解析、応用事例に至るまで、かなり詳細まで踏み込んで解説しています。図や写真もふんだんに盛り込まれており、抽象的な議論や複雑な装置構成についてもわかりやすく工夫されています。

第1章の赤外分光法を例にとると、現在有機化学の研究室で化合物データ等の測定を行う上ではもっぱらフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)を用いるのが一般的と思われますが、本書ではそれ以前に主流であった古典的な分散型赤外分光法について触れた上でその問題点を挙げ、それを補完した新たな測定法としてのFT-IRについて解説したうえで、その基礎となるフーリエ変換の原理まで踏み込んで説明しています。さらにフーリエ変換に由来する特有の問題としての広義積分計算の困難さについて述べ、それを打開する手段としてのアポダイゼーション関数の導入に繋げています。また、実際の測定に際しての注意事項についても充実した内容となっています。透過法と反射法の相違点や大気の吸収、ベースライン補正の必要性などを説明したのち、透過法と反射法のそれぞれを詳説しています。透過法で一般に用いられるのはKBr錠剤法やヌジョール法ですが、それ以外にもドロップキャスト法や液膜法、溶液法、ガス測定の実際についてもまとめられています。反射法についても同様に、最も一般的なATR法にとどまらず、拡散反射法、正反射法、反射吸収法などのややマイナーな手法についても、サンプル調整の注意点も含めて詳しく記されています。さらに、スペクトル解析における各種補正やピークのカウント、帰属の手順がまとめられています。そのほかにも赤外顕微鏡や時間分解測定などのトピックスにも触れられています。分析化学そのものを専門にせず、あくまで有機化合物の構造決定に機器分析法を用いるのであれば、これだけの知識を押さえておけば十分すぎるほどでしょう。
NMRなどそのほかの項目でも、一般的な分析化学の教科書が原理に、有機化学の教科書が構造決定に偏重しているのに比し、本書はサンプルの調製や機器の設定、測定時の注意点などにも触れつつバランスよくまとめられており、始めて測定を行う際にはこれほど親切な参考書はないと感じました。MALDIやラマン分光、ESRをはじめとするややマイナーな測定法についても詳細に解説されており、これらを含めれば一般的な有機化合物やラジカルを含む化学種の構造決定にはまず事欠かないことと思われます。

また、有機化学の教科書ではどうしても紙面の都合上核分析手法の内容が浅くなりがちですが、代表的な手法を網羅しているために、分析法に困ったときに差し当たって手に取るような使い方も可能なのが本書の魅力です。これほどの内容がもれなく掲載されているにもかかわらず、全体としてはA5版でわずか180ページに凝縮されているのが大変な驚きです。
私の学生時代にこのような良書と出会えなかったことが悔やまれます。

最後に

大学の研究室、あるいは企業等で新たに機器分析を行うにあたって、本書の内容を基礎事項として臨んでおくと、理解不足からの思わぬトラブルや手戻りは防げるのではないかと思います。必要に応じてさらに詳しい書籍や総説をあたるのがよいのではないでしょうか。

また、本書には続編として、有機元素分析法や各種クロマトグラフィーなど分光分析以外の有機化合物の分析を主眼に置いた「機器分析ハンドブック 2 高分子・分離分析編」や、熱分析、原子吸光分析、X線を用いた分析法など無機化合物の分析法に特化した「機器分析ハンドブック 3 固体・表面分析編」の刊行予定もあります。こちらも目が離せませんね。これらについても後日特集できればと思います。

付録

化学同人ウェブサイト上のみで付録が公開されています(PDFファイル、ダウンロード無料)。

実際に有機化合物の未知試料を同定することを念頭に、MS、IR、1H NMR、13C NMRのスペクトルの情報だけを頼りに構造決定するための考え方が説明されており、あとに問題演習が続きます。この手の構造決定関連の問題集は多数刊行されていますが、無料で利用できるというのは学習者には大きなメリットだと思います。

ただ、本書の強みはあくまで機器分析法・分析装置の原理から実際の操作法までをつぶさに記載している点にあると思います。専門書籍は高額で学生が購入するのが難しいものが多いのが難点ですが、本書は定価¥2,200とこれだけの内容に対して手の届きやすい価格となっているので、ぜひ書籍も手に取ってご覧いただければと思います。

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化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

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