[スポンサーリンク]

chemglossary

動的コンビナトリアル化学 Dynamic Combinatorial Chemistry

動的コンビナトリアル化学(Dynamic Combinatorial Chemistry: DCC)は、分子認識・超分子化学の考え方に基づいた、新たなホスト-ゲスト相互作用の探索手法である。1997年にノーベル賞学者のジャン=マリー・レーンによって提唱された概念[1]

安定に単離された分子を構成要素とする従来のコンビナトリアルライブラリとは異なり、動的コンビナトリアルライブラリ(Dynamic Combinatorial Library:DCL)は、分子集合体の平衡混合物をその構成要素とする。それらはすなわち、ライブラリ内で仮想的に存在する構造体であり、その意味で仮想的コンビナトリアルライブラリ(Vertual Combinatorial Library: VCL)と呼ぶこともある。

ライブラリ混合物にホストとなる鋳型(Template)を加えれば、そのホストともっとも強力に結合しうる特定の集合体が熱力学的平衡を経て増幅されてくる(ル・シャトリエの原理)。つまり、構成要素の混合物それ自体がもっとも相性の良い組み合わせを自動的に見つけ出してくる。各要素の増幅度を分析すれば、新しい(超)分子相互作用の組み合わせを少ない試行回数で見いだすことが出来る。

原理的には様々な応用が可能と考えられる。例えば、ホストをタンパク質、ゲストを有機小分子集合体にできれば、タンパク質に強固に結合できる有機(超)分子が探索可能である。これはすなわち、医薬リードの探索[2]そのものといえる。

現時点では分析手法・増幅度・分解能の上限に由来するハードルが存在し、適用可能なライブラリサイズが制限されることが大きな課題となっている。DCLに速度論的な生成/開裂過程を組み込み、分解能を向上させるアプローチ(pseudo Dynamic Combinatorial Library: pDCL)も、解決策の一つとして提唱されている[3]

関連文献

  1. (a) Huc, I.; Lehn, J.-M. Proc. Natl. Acad. Sci., USA 1997, 94, 2106. [Link] Review: (b) Lehn, J.-M.; Eliseev, A.V. Science 2001, 291, 5512. DOI:10.1126/science.1060066 (c) Corbett, P. T.; Leclaire, J.; Vial, L.; West, K. R.; Wietor, J.-L.; Sanders, J. K. M.; Otto, S. Chem. Rev. 2006, 106, 3652. DOI:10.1021/cr020452p
  2. Ramstrom, O.; Lehn, J.-M. Nat. Rev. Drug Discov. 2002, 1, 26. DOI:10.1038/nrd704
  3. (a) Cheeseman, J. D.; Corbett, A. D.; Shu, R.; Croteau, J.; Gleason, J. L.; Kazlauskas, R. J. J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 5692. DOI: 10.1021/ja017099+ (b) Corbett, A. D.; Cheeseman, J. D.; Kazlauskas, R. J.; Gleason, J. L. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 2432. DOI:10.1002/anie.200453769

関連書籍

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 光薬理学 Photopharmacology
  2. アルカロイド alkaloid
  3. エレクトロクロミズム Electrochromism
  4. リード指向型合成 / Lead-Oriented Synthes…
  5. 陽電子放射断層撮影 Positron Emmision Tomo…
  6. 抗体触媒 / Catalytic Antibody
  7. 色素増感型太陽電池 / Dye-sensitized Solar…
  8. Z-スキームモデル Z-Scheme Model

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 井上 佳久 Yoshihisa Inoue
  2. 第19回 有機エレクトロニクスを指向した合成 – Glen Miller
  3. 薬学部6年制の現状と未来
  4. コーリー・ギルマン・ガネム酸化 Corey-Gilman-Ganem Oxidation
  5. 素粒子と遊ぼう!
  6. 始まるPCB処理 利便性追求、重い代償
  7. 高峰譲吉の「アドレナリン」107年目”名誉回復”
  8. メルマガ有機化学 (by 有機化学美術館) 刊行中!!
  9. マイクロリアクターで新時代!先取りセミナー 【終了】
  10. 人名反応に学ぶ有機合成戦略

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

電池長寿命化へ、充電するたびに自己修復する電極材

東京大学大学院工学系研究科の山田淳夫教授らは、充電するたびに自己修復を繰り返し、電池性能の劣化を防ぐ…

(−)-Salinosporamide Aの全合成

(−)-salinosporamide Aの立体選択的全合成が達成された。アザ-ペイン転位/ヒドロア…

クラウド版オフィススイートを使ってみよう

クラウド版オフィススイートとはOffice onlineやGoogle ドライブなどのことで、ソフト…

NHCが触媒する不斉ヒドロフッ素化

キラルなN–ヘテロ環状カルベン(NHC)を触媒として用いたα,β-不飽和アルデヒドに対する不斉ヒドロ…

ケミカルバイオロジーとバイオケミストリー

突然ですが、質問です。有機化学と無機化学。違いは説明できますか?「生体物質をあつかうものが有…

改正特許法が国会で成立

特許を侵害したと疑われる企業に専門家が立ち入り検査する制度を新設する改正特許法が10日午前の参院本会…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP