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メカニカルスターラー

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容器内の液体や固体を撹拌するための実験器具であり、撹拌機と実験器具のカタログでは紹介されている。ここでは、同じく撹拌させるための道具であるマグネチックスターラーと特徴を比較する。

メカニカルスターラーの構造

メカニカルスターラーは主に、モーターと撹拌棒という二つの部品で構成されている。モーターは、撹拌棒を回転させる役割を持つ。モーターの性能は、回転数と最大トルクに示され、激しく回転させる必要がある場合には、回転数が高いものを選択する必要があり、一方粘度が高いか、固体を多く混ぜる場合には最大トルクが高いモーターを選択する必要がある。これは、ミニ四駆などのミニカーと同じことで、速いモーターでもトルクがないと坂道を登れないのと同じことである。また多くの撹拌機がオーバーロード(過負荷)などを検知して自動的に運転をストップしモーターを守る保護装置が付加されている。

モーターと撹拌棒(アズワンAXELより引用)

撹拌棒は、回転して混ぜる部分であり、様々な形の羽が売られている。ビーカーで撹拌する場合には形の制限はないが、ナスフラスコで効率よく撹拌する場合には、すりを通過することができ、底面の形に合っている必要がある。材質は、SUS、ガラス、PTFEなどがあり、スターラーバー同様使用する系に合わせて使う。

様々な形の羽(アズワンAXELより引用)

すりから入れる際には、羽が縦になり(右の羽の写真)通過でき、回す際には開いて羽が回る(左の羽の写真)(アズワンAXELより引用)

開放系で使用する場合は問題ないが、窒素下や減圧で撹拌する場合には、撹拌棒をシールする必要がある。その場合には、撹拌シールという部品を使ってシールを行う。

適合するサイズの撹拌棒を刺して使う(アズワンAXELより引用)

さらに密閉性を気にする場合にはマグネット真空撹拌装置というものを使う。これは、撹拌機とパーツ上部のマグネットを棒で接続しマグネットを回転させる(フラスコ外)。そしてマグネットの磁気が内部の回転軸とそれにつながった撹拌棒を回転させる(フラスコ中)。このような機構のため系の内外を貫通している動くパーツはないので密閉性が高い中で撹拌できる。

上部の金属パーツがマグネット、下部には、撹拌棒のシャフトを接続固定できる。(アズワンAXELより引用)

特徴

筆者は学生時代、このメカニカルスターラーを使ったことがなく、これを使って実験をすることに無駄に憧れていた。しかし、いざ使ってみると便利なこと以外にも使う上で気を付けなくてはならない面を知った。ここでは、実体験をもとにマグネチックスターラーと比較する。

長所

  1. 撹拌子を入れる必要がない
  2. 回転が安定している
  3. 液体の粘性が高くても撹拌できる

1は当たり前のことだが、スケールが大きくなってくる(5L以上のフラスコを使った実験)と撹拌子一つとっても取り扱いにリスクが出てくる。例えば、撹拌子を入れる際に重力の勢いがついてフラスコを割ってしまったことがある。また、冷却・加熱用のバスをフラスコとスターラーの間に挟むと磁力が弱くなって回転しなくなってしまう。このようなことはメカニカルスターラーでは起こらない。2に関して、撹拌子で撹拌を始めたが、ちょっと目を離したら回っていなかった経験を誰でもあるだろう。メカニカルスターラーの場合は回転が安定している上、色が濃い液体を低速で撹拌していても撹拌の確認が容易である。3に関して固体と少量の溶媒を入れて徐々に液体を加える実験などでは、初期に撹拌子が回転しない場合がある。その点も十分なトルクがあるメカニカルスターラーはしっかりと撹拌できて便利である。

短所

  1. モーターが重い
  2. 羽の取り扱いに注意が必要
  3. 羽の位置決めが重要

上記の写真のモーターの重さは2.8 Kgあり、しっかりと頑丈なジャングルに固定しないとジャングルともども倒壊してしまう。また、羽によっては構造が複雑で、反応物の回収率が悪くなる。また、きれいに洗う手間がかかる。3に関して羽の位置を固定する際に、フラスコの底面かつ側面に接触しないで固定する必要がある。

羽の無い撹拌機

遠心力が水流を生み出して撹拌する撹拌棒もあり、より効率よく泡立ちも少なく撹拌できる。

上記のようにモーターが重く小さなフラスコに対しては使いにくかったが、小型の撹拌機も開発されていて、その場合には湾曲したPTFEの棒が回転することで撹拌される。

関連書籍

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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