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ニセクロハツの強毒原因物質を解明 “謎の毒キノコ” 京薬大准教授ら

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中毒死が近年続いたキノコ、ニセクロハツの毒物を、橋本貴美子京都薬科大准教授、中田雅也慶応大教授らの研究グループが突き止め、強毒性を確認した。ニセクロハツが生えるツブラジイ(コジイ)の林は京滋に多く、注意を求めている。英科学誌「ネイチャーケミカルバイオロジー」で24日に発表した。(写真・本文引用:京都新聞)

ニセクロハツ(Russula subnigricans)は偽黒初とも書く猛毒のキノコです。クロハツ(黒初)という食用キノコと間違って食べて中毒死する事故が多発しています。最近でも3年連続で死者が出ているそうです。

なぜこのような強毒性を持つのか、その詳細はこれまで明らかとなっていませんでしたが、先日、原因物質の解析研究がNature Chemical Biology誌に報告[1]されました。

その正体は2-シクロプロペンカルボン酸という、きわめてシンプルそのものな物質でした。

 

このシクロプロペンカルボン酸をマウスに投与すると、ごく少量でも筋融解を引き起こし、死に至らしめるそうです。同程度の分子量でこれほどまでに強毒性をもつ物質は、これまで天然からは見つかっていないそうです。

 

一見して不安定そのものな化合物を、そもそも生物はどうやって合成しているのか?はたまた、これほどまでにシンプルそのものな物質が強毒性を発現するメカニズムはどのようなものか?この物質をわざわざ合成することは、キノコにとってどういう利点があるのか?――事実はシンプルなれども、新たな謎はたくさん提示されてきます。今後の研究が進展することを期待したいです。

 

話は変わりますが、論文の著者である中田・橋本・犀川らは以前に「カバの赤い汗」の原因物質(hipposudoric acid)を解明し、Nature誌に報告[2]しています。天然物化学という一見地味に見えてしまう分野から、数々の予想外かつ高インパクト研究を成し遂げてくる彼らには、これからも注目していきたいと思います。

 

  • 関連文献

[1] “Identification of the toxic trigger in mushroom poisoning”
Matsuura, M.;  Saikawa, Y.; Inui, K.; Nakae, K.; Igarashi, M.; Hashimoto, K.; Nakata, M. Nature Chem. Biol. 2009, Advanced online publications. doi:10.1038/nchembio.179

nchembio.179_toc

We have isolated the small, highly strained carboxylic acid cycloprop-2-ene carboxylic acid from the Asian toxic mushroom Russula subnigricans. This compound is responsible for fatal rhabdomyolysis, a new type of mushroom poisoning that is indicated by an increase in serum creatine phosphokinase activity in mice. We found that polymerization of the compound at high concentrations via ene reaction abolishes its toxicity.

 

[2] “The red sweat of the hippopotamus.”
Saikawa, Y.; Hashimoto, K.; Nakata, M.; Yoshihara,M.; Nagai, K.; Ida, M.; Komiya, T. Nature, 2004, 429, 363. doi:10.1038/429363a

The red and orange pigments in this secretion account for its protective properties.

Top of pageAbstract
Within a few minutes of perspiration, the colourless, viscous sweat of the hippopotamus gradually turns red, and then brown as the pigment polymerizes. Here we isolate and characterize the pigments responsible for this colour reaction. The unstable red and orange pigments turn out to be non-benzenoid aromatic compounds that are unexpectedly acidic and have antibiotic as well as sunscreen activity.

 

  • 関連リンク

ニセクロハツ – Wikipedia

毒キノコの話

Toxic mushroom molecule discovered (Cheistry World)

慶応大学 中田雅也研究室

京都薬大 橋本研究室

おもしろ化合物:「カバは血の汗をかく」

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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