[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第14回 有機合成「力」でケミカルバイオロジーへ斬り込む - Joe Sweeney教授

[スポンサーリンク]

第14回はレディング大学化学科のジョー・スウィーニー教授です。スウィーニー教授は不斉反応と目的化合物の合成を指向した新たなプロセスのデザインとその遂行、そしてケミカルバイオロジー分野の研究をされています。究極の目標は、「世の中を良くすること」。
研究者たるモノ、人前で語れる己の哲学を持っている、という人は珍しく有りませんが(?)スウィーニー教授もその一人で、関心がお有りのありとあらゆることについてその哲学や信念を交え熱く語っておられます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

特にこれと決めるのは難しいですが、秩序性、幾何学性、複雑性、対称性、そういった直感的な魅力ですね。化学だけがこれら全てを扱うことができ、さらにそうして学んだコトからそれまで存在し得なかった新たな分子を作ることができる。化学とは「合成」のサイエンス、あらゆる領域に於いて最も創造性あふれる学問だと思います。

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

リバプールFCの攻撃的MFでキャプテン。ハイトン・ボーイ(※英国マージーサイド州リバプール近郊の住宅街が”Huyton”)の一員になって、スティーブン・ジェラード(※同チームの有名プレイヤー)の仕事は私のモノ。…あ、現実的な仕事の話ですね?それならおそらく作家です。ほとんどの科学者の人たちはモノを書くのが好きなのでは?いくつか書き起こしてベストな文章を選ぶ、贅肉を削ぎ落とす、荘厳だが簡潔で、正確なフレーズにまとめ上げる。そんな作業だけで私は充分に満足です(これ以上のコトと言ったら、リバプールの試合を見ることくらいなものです)。そういうわけで、執筆作業は現実的な理想の一つです。フィクションもノンフィクションも同じくらい扱いたいですね。フィクションなら戯曲や短編長編含めた物語、ノンフィクションならサッカーモノ、政治や歴史、その他のサイエンスモノ全て。

 

Q.概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

人が世の中をより良くしようなどと話す時、結局のところ(民主主義)政治のほうが科学全般よりも大きな影響があるんですよね。もちろん化学もこれまでに幾千もの発見をし、「普通の」人々に貢献してきたわけですが。過去200年と同じペースで発見や発明を続けていけるとしたら、創造した新たな分子を使って人々の困難を取り除く(化学療法など)のみならず、社会に新たな快適さや余暇の楽しみ方(iPod、携帯電話、PSPなどのように)を提供していけるでしょう。発見や発明をし続けて、そしてそれら新たなモノを有意義に使い続けていけたら、それはつまり我々がしていることの意味や価値を社会に伝え続けることなのですが、人々の人生は良いものになっていくはずです。心配は要らないと思います。

 

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

ジョージ・オーウェルです。理由が必要なら、もっと聞き出してくださいよ。OK,そこまで言うのなら
(a)当時の同世代では、彼こそが最高の作家であった

(b)彼が書いたことは遅かれ早かれ全て真実であった(※「animal farm」や「1984」など、登場人物が動物であったり未来を書いたフィクションの体をしていながら、現実に起きた/起こりうる社会の影を痛烈に批判しているコトを指す)

(c)彼は勇敢な人物で、遠い地で起きている紛争に彼自身の信念の為に参戦した(※スペイン内戦においてフランコ軍に対しマルクス主義者統一労働党の伍長として参戦。)

彼は博識で、そして真実の英雄です。
もしジョージ・オーウェルが歴史上の人物というには最近過ぎるというのであれば、アイザック・ニュートンです。だってニュートンですよ。まぁ光学の勉強のためにと言って自分の眼窩にピンを突き刺すような人物なら誰でも構いませんが。もしアイザックがアルケミー委員会で忙しければ、Shankly, Paisley, Busby, Stein…..(※順にビル・シャンクリー、ボブ・ペイズリー、マット・バズビー、ジョック・スタイン。皆、過去のリバプールFCの英雄的監督あるいは選手。)

 

 George Orwell

George Orwell

 

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

ええと、7年くらい前です。不斉アザ・ダルツェンス反応でした。我々がキラルなアジリジン、とても有用な化合物ですよ、を合成するための手法として開発してきたものです。当時を思い出してみると、研究グループのAndy McLarenという男に彼の反応の収率について文句を言ったところ、だったら私が自分でやってみろと挑戦を受けたのでした。グループのメンバー全員がハゲワシのように私の反応を仕込む様子を見つめ、そのやり方にあれこれとヤジを飛ばしていました。それで結局、私は彼よりも高収率を得たのですよ、1%だけね、ハッハー!

on-ether11

 

 

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

サイエンスとは本質的に社会性のある人間の領分です。個人よりも共同体を優先するが、システムはその最も弱い結合部が結びついている間しか機能しない。ニュートンの言う“shoulders of giants”もまんざらではありません(※Dwarfs standing on the shoulders of giants:自分たちは巨人(=過去の偉人達)の肩の上に乗っている小人に過ぎない、先人たちの偉大なる業績の上に自分たちの研究が存在している、という意味)。加えて、私の経験からどなたかのお役に立てれば、人生を豊かにするために何をするべきかを決める手段となる信仰、それは知識と学習。というわけでマニック・ストリート・プリーチャーズのCDを選びます。“Libraries gave us Power; then Work came and made us Free(※A Design For Life、の歌い出し詞)”、たった一行の歌詞ですがとても気に入っています。11個の単語が「サイエンスの真なるエトス(精神)」と「人生のパーフェクトデザイン」を見事に内包しています。ただこの11個の単語をタイピングしているだけで首の毛が逆立ち、目には涙が溢れてきます。ところでベストな一冊を選ぶのは無理です。オーウェルをディナーゲストに選んだものの、今思い浮かんでいる一冊はトルストイの「アンナ・カレーニナ」です。

[amazonjs asin=”B00JK4K07A” locale=”JP” title=”Futurology”][amazonjs asin=”4102060014″ locale=”JP” title=”アンナ・カレーニナ〈上〉 (新潮文庫)”] 原文:Reactions – Joe Sweeney

※このインタビューは2007年5月25日に公開されたものです。
Avatar photo

せきとも

投稿者の記事一覧

他人のお金で海外旅行もとい留学を重ね、現在カナダの某五大湖畔で院生。かつては専ら有機化学がテーマであったが、現在は有機無機ハイブリッドのシリカ材料を扱いつつ、高分子化学に

関連記事

  1. 第103回―「機能性分子をつくる有機金属合成化学」Nichola…
  2. 第51回―「超分子化学で生物学と材料科学の境界を切り拓く」Car…
  3. 第63回「遊び人は賢者に転職できるのか」― 古川俊輔 助教
  4. 【第一回】シード/リード化合物の創出に向けて 2/2
  5. 第75回―「分子素子を網状につなげる化学」Omar Yaghi教…
  6. 第61回―「デンドリマーの化学」Donald Tomalia教授…
  7. 第17回 研究者は最高の実験者であるー早稲田大学 竜田邦明教授
  8. 第101回―「高分子ナノ構造の精密合成」Rachel O’Rei…

注目情報

ピックアップ記事

  1. シラン Silane
  2. 光エネルギーによって二酸化炭素を変換する光触媒の開発
  3. ミカエリス・アルブゾフ反応 Michaelis-Arbuzov Reaction
  4. 学術論文を書くときは句動詞に注意
  5. ジンケ アルデヒド Zincke Aldehyde
  6. 第126回―「分子アセンブリによって複雑化合物へとアプローチする」Zachary Aron博士
  7. サイコロを作ろう!
  8. 真空ポンプ
  9. ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2017年版】
  10. 市販の新解熱鎮痛薬「ロキソニン」って?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年1月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP