[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第118回―「糖鎖のケミカルバイオロジーを追究する」Carolyn Bertozzi教授

[スポンサーリンク]

第118回の海外化学者インタビューは、キャロライン・ベルトッツィ教授です。カリフォルニア大学バークレー校化学科(訳注:現在はスタンフォード大学化学科)に所属し、生体内分子を調べるための化学ツールの開発や、糖鎖生物学、マイコバクテリア代謝、ナノテクノロジー分野における特定のプロジェクトに取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

大学では生物学を専攻していましたが、その中に有機化学の必修科目が含まれていました。その年、優秀な教授陣のおかげで有機化学の勉強が好きになり、専攻を化学に変えました。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

もし才能があれば、プロのロックミュージシャン、できればエレキベース(人生の半ばの危機状況で買ったのですが、いまだに弾き方がわかりません)に間違いなくなるでしょうね。そうでなければ、プロのスポーツチームのスタッフとして、アナリストかスカウトとして働きます。理想はサッカーですが、野球でも良いですね。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

我々は、生体内糖鎖をイメージングする戦略に大きく投資しています。ゼブラフィッシュの発生モデルでこれに取り組み、この技術をヒトの疾患の診断イメージングに応用したいと考えています。また、高度に複雑な体液から病気のバイオマーカーを明らかにしうる、糖鎖修飾のプロテオミクス解析法も開発しました。ナノサイエンスの分野では、質量分析法を用いてナノメートルスケールで組織イメージングを行う方法の開発に取り組んでいます。他にもたくさんの研究を行っています。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

私の父方の祖母です。彼女は世界でいわれるような「歴史的存在」ではありません。しかし祖母のことをよく知らなかったということもあり、彼女は我が家では伝説的な存在でした。祖母は私が小学生の時に亡くなりましたが、子供時代の私は祖母とコミュニケーションを取るのに十分な英語を話すことができませんでした。祖母の簡単な話はこうでした。1920年代のムッソリーニファシスト政権下で、祖母はイタリアからアメリカに逃げてきました。祖母はイタリアの社会党に積極的に参加し、女性の労働力への参入を促進するために、イタリア初のデイケアセンターの建設を支援しました。しかし、その政治的同盟は自らの命を危険にさらしたため、19歳の時に文盲の農民を装い、船でアメリカに逃亡しました。ボストンに上陸した後、祖母は夫と出会い、恐慌時代(酒の密売もしていたようです)に5人の子供をもうけ、(娘たちも含めて)全員を全額奨学金で大学や大学院に行かせ、末っ子の父がMITの物理学教授になるまで生きました。イタリア料理を食べながら、祖母の話を直接聞くことができたら、どんなに素晴らしい経験になるでしょう。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

1996年頃、大学院生が必要としていた出発原料をスケールアップ合成しました。その後、気の入らない実験的試みを何度かして学生たちから批判を受け、それからは学生たちに頼りきりです。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

音楽:ビートルズのアルバム『リボルバー』にします。

本:期間限定で追放された場合は、『戦争と平和』にします。そういう機会でもなければ、決して読み終えることはありませんね。無期限に追放された場合は、きっと成人向けの何かにしますね。

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

同僚の Richmond Sarpongです。Dancing with the Starsというシークレットキャリアへの願望を彼が公の場で認めるか見てみたいです。

 

原文:Reactions –  Erin Carlson

※このインタビューは2009年6月5日に公開されました。

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第111回―「予防・診断に有効なナノバイオセンサーと太陽電池の開…
  2. 第121回―「亜鉛勾配を検出する蛍光分子の開発」Lei Zhu教…
  3. 第26回 有機化学(どうぐばこ)から飛び出す超分子(アプリケーシ…
  4. 第141回―「天然と人工の高分子を融合させる」Sébastien…
  5. 第28回 錯体合成から人工イオンチャンネルへ – P…
  6. 第40回「分子エレクトロニクスの新たなプラットフォームを目指して…
  7. 第24回 化学の楽しさを伝える教育者 – Darre…
  8. 第23回「化学結合の自在切断 ・自在構築を夢見て」侯 召民 教授…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. クライゼン転位 Claisen Rearrangement
  2. 製薬各社 2010年度 第1四半期決算を発表
  3. L・スターンバック氏死去 精神安定剤開発者
  4. 最新プリント配線板技術ロードマップセミナー開催発表!
  5. CAS Future Leaders Program 2022 参加者インタビュー
  6. 武田薬品、糖尿病薬「アクトス」に抗炎症作用報告
  7. 胃薬のラニチジンに発がん性物質混入のおそれ ~簡易まとめ
  8. 白血病治療新薬の候補物質 京大研究グループと日本新薬が開発
  9. 富士フイルム、英社を245億円で買収 産業用の印刷事業拡大
  10. 米ファイザー、感染予防薬のバイキュロンを買収

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

活性酸素種はどれでしょう? 〜三重項酸素と一重項酸素、そのほか〜

第109回薬剤師国家試験 (2024年実施) にて、以下のような問題が出題されま…

産総研がすごい!〜修士卒研究職の新育成制度を開始〜

2023年より全研究領域で修士卒研究職の採用を開始した産業技術総合研究所(以下 産総研)ですが、20…

有機合成化学協会誌2024年4月号:ミロガバリン・クロロププケアナニン・メロテルペノイド・サリチル酸誘導体・光励起ホウ素アート錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年4月号がオンライン公開されています。…

日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました

3月28日から31日にかけて開催された,日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました.筆者自…

キシリトールのはなし

Tshozoです。 35年くらい前、ある食品メーカが「虫歯になりにくい糖分」を使ったお菓子を…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP