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海外化学者インタビュー

第50回―「糖やキラル分子の超分子化学センサーを創り出す」Tony James教授

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第50回の海外化学者インタビューは、トニー・ジェームズ教授です。英国バース大学の化学科で超分子化学の分野、特に糖類用センサー分子の開発に取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

これは二階層のプロセスだと捉えています。第一に、なぜ化学を選んだのか?第二に、なぜ自分のためにアカデミックキャリアを選んだのか?

一つ目は単刀直入です。大学で化学を学ぶことにしたのは、アブラハム・ダービー校での先生が、化学を楽しく勉強できるようにと、相当な努力をしていたからです。

アカデミックキャリアを決めた理由は、より曖昧なものですが、素晴らしい講演に刺激を受けたことも含まれています。中でも、故 Donald J. Cram (Pacifichem 1987)はカルセランドのCPKモデルを聴衆に回し、J. Fraser Stoddart (1990 Halifax, カナダ)は、難解な概念を伝えるべく言語と色彩を巧みに使っていました。化学者としてのスキルを磨き、「猿も木から落ちる」と私に教えてくれた新海征治教授には、特に感謝しています!

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

芸術家です――芸術はいつも、最も情熱を注げるものの一つでした。特に彫刻と3Dアートに感銘を受けています。彫刻への愛があるからこそ、私は化学者たり得ている、とも言えるでしょう。なぜなら化学では、分子彫刻の形で芸術を創造するからです。

Q. 概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

科学者としての我々が行うことは、より大きな善のためであるべきだと信じています。私はまた、化学者としてではなく、為しえた化学こそが貢献すべきだと信じています。科学で重要なのは個人ではなく、達成されたことなのです。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

リチャード・ファインマンです。20世紀で最も刺激的な科学者の一人でした。特に1981年のHorizon Interview―「発見する喜び」では、科学者のあるべき生き様が要約されています。一つ問題になるかもしれないのは、彼が食事中に氷水へOリングを落とすことを止めなければならないことです。とはいえ、夕食後の娯楽にボンゴを提供できれば、埋め合わせできるかもしれません。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

できるだけ実験に参加したいと思っています。今年の夏、イギリス王立協会の国際共同プロジェクトに参加している日本人学生が蛍光データを集めるのを手伝いました。これは結果として益のある経験で、学生(Jusaku Minari)と関わっていたアカデミック研究者(Kazuo Sakurai, John S. Fossey, Steven D. Bull, Tony D. James)を著者とする論文が発表できました。実験時間を見つけるのは難しくなっていますが、JSPSのおかげで、九州大学の客員教授として1月の終わりから60日間(短期フェローシップ)を得て、心ゆくまで実験に時間を費やすことができています。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

「ながら」でもできるので、本を読むよりは音楽を聴く方が好きです。

博士課程学生としてカナダで過ごした時を思い出す歌と、日本での博士課程修了後の研究を思い出す歌が入ったCDを2枚選びました。一つは ピンク・フロイドの「Time」が収録されている「The Dark Side of the Moon」、もう一つは「島唄」が収録されているTHE BOOMのCDです。前者はガリアーノ島でのキャンプを、後者は蒸し暑い夏に日本中をサイクリングして過ごしたことを思い出させてくれます。

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原文:Reactions – Tony James

※このインタビューは2008年2月1日に公開されました。

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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