[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

Brønsted酸触媒とヒドロシランによるシラFriedel-Crafts反応

[スポンサーリンク]

本記事では, Martin Oestreich教授 (ベルリン工大) らが昨年報告した「Brønsted酸触媒とヒドロシランを用いるシラFriedel-Crafts反応」を紹介します.1

芳香族化合物のC–Hシリル化反応

近年, C–H結合の切断を経るアリールシランの合成法が盛んに研究されています.2 たとえばHartwigらは, ロジウム, イリジウム触媒を用いて芳香族化合物のC–Hシリル化反応を達成しています.3,4 これらの触媒は, 位置選択性を「立体的」に制御しています. 実際, 1,3-二置換ベンゼンを用いると, 立体的に込み入っていないC–H結合がシリル化されます (図1).

図1. ロジウムおよびイリジウム触媒による芳香族化合物のシリル化反応

 

一方Oestreichらは, 「電子的」に位置選択性を制御したC–Hシリル化反応を精力的に研究しています. その中身は, 電子豊富な芳香族化合物とシリリウムカチオン等価体によるシラFriedel-Crafts反応5です. 2011年にOestreichおよび巽らは, 含硫黄ルテニウム錯体を触媒として用いると, 系中でヒドロシランからシリリウムカチオン等価体が生じ, 続くアニリンおよびインドール誘導体とのFriedel-Crafts反応により, 対応するアリールシランが高選択的に得られることを見つけました (図2).6 Friedel-Crafts反応なので, 反応は芳香環の電子豊富な位置で進行します. この様式の反応は近年目まぐるしく進歩し, カチオン性の卑金属塩やB(C6F5)3も触媒として利用できることが分かっています(関連記事:芳香族化合物のC–Hシリル化反応:第三の手法).7,8

今回は, 触媒量のBrønsted酸を用いるシラFriedel-Crafts反応を紹介します.

図2. 触媒的シラFriedel-Crafts反応

 

論文の概要

ヒドロシランにTfOHを作用させると, 水素ガスの発生を伴い, シリルトリフラートが得られることはすでに知られています.

この反応を参考に, Oestreichらは触媒量のBrookhart’s acid [H(OEt2)2][BArF4] (ArF = 3,5-(CF3)2C6H3) を用いてヒドロシランからシリリウムカチオンを発生させることで, 1-メチルインドールの3位C–H結合のシリル化を達成しました (図3).

条件最適化中, 酸の触媒量を1 mol%から4 mol%に増やすと副反応 (ケイ素上のフェニル基がプロト脱シリル化される) が併発し、目的生成物の収率が低下しました. それを受け, プロトンの一時的な補足剤としてノルボルネン (nbe) を添加することで, 副反応を抑制でき, シリルインドールを高収率で得ることに成功しました. (単純に触媒量をもっと減らしたらどうなるのか気になりますが, その記述はありませんでした.) なお, 中間体のシリリウムカチオンと副生する水素ガスはNMRで確認しています.

図3. 条件検討結果 (簡易版)

合成可能なアリールシランを以下に簡単にまとめました (図4). 反応には, いろいろなインドール, ピロール, アニリン誘導体が適用できます.

インドールの2位やアニリンの3位にメチル基が存在しても、反応は高選択的 (major:minor = >95:5)に進行します. 臭素などのハロゲンも共存可能です. 保護していないインドールを用いると, 窒素上がシリル化されます. しかしながら, ベンゾフランやアニソール, トルエンは適用できないそうです.

図4. 合成可能なアリールシラン

 

総括

以上, Brønsted酸触媒を用いるシラFriedel-Crafts反応を簡単に紹介しました.

既報のロジウムやイリジウム触媒では立体的に込み入った位置のC–Hシリル化は困難とされているので、立体障害があっても反応が阻害されないというのは、シラFriedel-Crafts反応の特徴といえると思います.

また, イリジウム触媒では電子不足な芳香環をシリル化できますが, 紹介した反応では電子豊富な芳香環がシリル化できます. 今回触れませんでしたがt-BuOK10やロジウム, イリジウム触媒ではインドール(保護基が小さい場合)の2位がシリル化されますが(関連記事:アルカリ金属触媒で進む直接シリル化反応), 本手法ではインドールの3位で反応が進行します. これらの手法を相補的に用いれば, 特定のアリールシランが容易に合成できます.

しかしながら本手法は, 含窒素芳香族化合物しか適用できない, 合成したアリールシラン次の合成変換に利用し辛い, などいくつか問題が残っていることも事実です. アニソールやトルエンが反応に利用できればより良いのですが. いずれにせよ, この分野は今まさに発展途上なので, 今後の展開に期待したいと思います.11

参考文献

  1. Oestreich, M. et al. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 7868. DOI:10.1021/jacs.6b04878
  2. Cheng, C.; Hartwig, J. F. Chem. Rev. 2015, 115, 8946. DOI:10.1021/cr5006414
  3. Cheng, C.; Hartwig, J. F. Science 2014, 343, 853. DOI:10.1126/science.1248042
  4. Cheng, C.; Hartwig, J. F. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 592. DOI:10.1021/ja511352u
  5. Kawashima, T. et al. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 14192. DOI:10.1021/ja906566r
  6. Oestreich, M.; Tatsumi, K.; et al. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 3312. DOI:10.1021/ja111483r
  7. Oestreich, M. et al. Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 3204. DOI:10.1002/anie.201510469
  8. Hou, Z. et al. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 3663. DOI:10.1021/jacs.6b01349
  9.  Corey, E. J. et al. Tetrahedron Lett. 1981, 22, 3455. DOI:10.1016/S0040-4039(01)81930-4
  10. Stoltz, B. M.; Grubbs, T. H. et al. Nature 2015, 518, 80. DOI:10.1038/nature14126
  11. Bähr, S.; Oestreich, M. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 52. (mini review) DOI:10.1002/anie.201608470

ケムステ内関連記事

関連書籍

[amazonjs asin=”4759814124″ locale=”JP” title=”現代ケイ素化学: 体系的な基礎概念と応用に向けて (DOJIN ACADEMIC SERIES)”][amazonjs asin=”3319248022″ locale=”JP” title=”C-H Bond Activation and Catalytic Functionalization II (Topics in Organometallic Chemistry)”]
Avatar photo

ゴン

投稿者の記事一覧

反応開発に携わる大学院生

関連記事

  1. 年収で内定受諾を決定する際のポイントとは
  2. ルィセンコ騒動のはなし(後編)
  3. ストックホルム国際青年科学セミナー・2018年の参加学生を募集開…
  4. 触媒と光で脳内のアミロイドβを酸素化
  5. 人工DNAを複製可能な生物ができた!
  6. 乾燥剤の脱水能は?
  7. 日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン P…
  8. カルコゲン結合でロジウム二核錯体の構造を制御する!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 付設展示会に行こう!ー和光純薬編ー
  2. 最新 創薬化学 ~探索研究から開発まで~
  3. 2009年ノーベル賞受賞者会議:会議の一部始終をオンラインで
  4. ステファン・ヘル Stefan W. Hell
  5. ブートキャンプ
  6. 化学系必見!お土産・グッズ・アイテム特集
  7. 遺伝子工学ーゲノム編集と最新技術ーChemical Times特集より
  8. 水素移動を制御する精密な分子設計によるNHC触媒の高活性化
  9. 「ELEMENT GIRLS 元素周期 ~聴いて萌えちゃう化学の基本~」+その他
  10. 中学入試における化学を調べてみた

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年1月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP