[スポンサーリンク]

天然物

セレノネイン selenoneine

[スポンサーリンク]

 

セレノネインはマグロから発見された含セレン有機化合物。活性酸素の除去、および有機水銀の無毒化に関与していると考えられています。

 

水銀耐性を持つマグロはセレン濃度が高い

海産食用魚の水銀汚染は、水俣病の発覚以来、たびたび問題になっています。とくに、日本人の水銀摂取の8割以上が海産魚介類に由来するとされます。海産魚介類は、良質なタンパク質と、高機能な不飽和脂肪酸を豊富に含み、優れた栄養特性を持っています。したがって、水銀蓄積の程度について適切な理解がもとめられます。厚生労働省[5]によって、胎盤が完成する妊娠4ヶ月以上の妊婦では、マグロ等の一部の海産食用魚の摂食に際し、1回およそ80グラムとして、週に1回程度までに控えることが、推奨されています。胎児は、微量水銀の暴露に対するリスクが高いと考えられるからです。

自然界に存在する水銀は、食物連鎖の過程で蓄積します。したがって、食物連鎖の中で上位にある動物種のほうが、水銀を蓄積しやすい傾向があります。また、魚類の場合、赤身魚のほうが、白身魚よりも、蓄積しやすいとされます。海洋生態系で食物連鎖の上位にあり、かつ流通量が多い赤身魚であるマグロは、水銀蓄積の有無について関心が高い食物でした。しかし、水銀が蓄積しても、マグロが障害なく生存できる仕組みは、分かっていませんでした。

ただ、マグロが含有するセレン濃度が高いことは知られていました。

 

マグロに含まれるセレンの大部分がセレノネイン

セレノネインはマグロ血液を分画する過程で発見されました[1]。海洋を泳ぐマグロ血液を測定したところ、マグロ血液に含まれるセレンの75パーセント程度が、セレノネインでした。マグロでは血液に次いで赤身の筋肉でも、1グラムあたり100ナノモルオーダーと高濃度のセレノネインが含まれていました。ブタやニワトリの場合では、1グラムあたり1ナノモル未満しかセレノネインは含まれず、ほとんど検出できませんでした。セレノネインは還元剤としてはたらき、活性酸素の除去に加えて、毒性の高いメチル水銀など有機水銀から毒性の低い無機水銀への変換を仲介する機能のあることが、試験管レベルおよび細胞レベルで確認できました。

 

セレノネインの生合成と吸収

セレノネインは、活性酸素を除去する能力を持つ既知の化合物であるエルゴチオネイン硫黄原子が、セレン原子に置き換わった構造をしています。エルゴチオネインは、一部の細菌および真菌によって生合成されます[3]。土壌中でエルゴチオネインは植物の根から吸収され、食物として摂取した動物からも検出される成分であり、ヒトではエルゴチオネインを運ぶ輸送体OCTN1も見つかっています[4]。ヒトに取り込まれたエルゴチオネインでも、活性酸素の作用があります。ヒトOCTN1はエルゴチオネインとセレノネインを区別できず、エルゴチオネインだけでなくセレノネインも運びます[2]。したがって、マグロを調理して食べたとき、栄養素として、エルゴチオネインと同様にセレノネインは吸収されると考えられます。

 

ヒトOCTN1遺伝子と相同な遺伝子は、魚類にも存在すると考えられます。実際、セレノネイン存在下でゼブラフィッシュに致死量のメチル水銀を投与する実験を行った場合、ヒトOCTN1と相同なゼブラフィッシュ遺伝子産物をノックダウンすると、セレノネインによる生存率の回復が抑制されました[2]。セレノネイン生合成の少なくとも一部は海洋細菌および海洋真菌によって行われ、セレノネインもしくは前駆体が食物連鎖の中でマグロに吸収され、マグロ組織でセレノネインが蓄積しているものと考えられます。

 

参考文献

  1.  “Identification of a Novel Selenium-containing Compound, Selenoneine, as the Predominant Chemical Form of Organic Selenium in the Blood of Bluefin Tuna.” Yumiko Yamashita et al. J.Biol. Chem. 2010 DOI: 10.1074/jbc.C110.106377
  2. “Selenoneine, a Novel Selenium-Containing Compound, Mediates Detoxification Mechanisms against Methylmercury Accumulation and Toxicity in Zebrafish Embryo.” Michiko Yamashita et al. Marine Biotechnol. 2013 DOI 10.1007/s10126-013-9508-1
  3. “In Vitro Reconstitution of Mycobacterial Ergothioneine Biosynthesis.” Seebeck FP et al. J. Am. Chem. Soc. 2010 DOI: 10.1021/ja101721e
  4. “Discovery of the Ergothioneine Transporter.” Grundemann D et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2005 DOI: 10.1073/pnas.0408624102
  5.  厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/051102-1.html  http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/
Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. ペリプラノン
  2. ヘロナミドA Heronamide A
  3. 虫歯とフッ素のお話② ~歯磨き粉のフッ素~
  4. エチルマレイミド (N-ethylmaleimide)
  5. 【解ければ化学者】ビタミン C はどれ?
  6. メバスタチン /Mevastatin
  7. シラン Silane
  8. 重医薬品(重水素化医薬品、heavy drug)

注目情報

ピックアップ記事

  1. シンプルなα,β-不飽和カルベン種を生成するレニウム触媒系
  2. 世界最高の耐久性を示すプロパン脱水素触媒
  3. 医薬品の合成戦略ー医薬品中間体から原薬まで
  4. スコット・デンマーク Scott E. Denmark
  5. 今冬注目の有機化学書籍3本!
  6. AJICAP-M: 位置選択的な抗体薬物複合体製造を可能にするトレースレス親和性ペプチド修飾技術
  7. 超臨界流体 Supercritical Fluid
  8. 【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)
  9. 化学者の卵に就職活動到来
  10. 化学者のためのエレクトロニクス講座~めっきの基礎編~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年4月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

【新規事業のヒントをお探しの方へ】イノベーションを生み出すマイクロ波技術の基本と活用事例

新しい技術を活用したビジネスの創出や、既存事業の付加価値向上を検討されている方向けのセミナーです。…

わざと失敗する実験【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3.反応操作をしな…

CIPイノベーション共創プログラム「有機電解合成の今:最新技術動向と化学品製造への応用の可能性」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「有機電解合…

CIPイノベーション共創プログラム「世界を変えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界を変え…

年会特別企画「XAFSと化学:錯体, 触媒からリュウグウまで –放射光ことはじめ」

放射光施設を利用したX線吸収分光法(XAFS)は、物質の電子状態や局所構造を元素選択的に明らかにでき…

超公聴会 2026 で発表します!!【YouTube 配信】

超公聴会は、今年度博士号を取得する大学院生が公聴会の内容を持ち寄ってオンライン上で発表する会です。主…

日本化学会 第106春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part II (3/16 追記)

さて、Part Iに引き続きPart II!年会をさらに盛り上げる企画として、2011年より…

凍結乾燥の常識を覆す!マイクロ波導入による乾燥時間短縮と効率化

「凍結乾燥は時間がかかるもの」と諦めていませんか?医薬品や食品、新素材開発において、品質を維…

日本化学会 第106春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part I (3/16追記)

まだ寒い日が続いておりますが、あっという間に3月になりました。今年も日本化学会春季年会の季節です。…

アムホテリシンBのはなし 70年前に開発された奇跡の抗真菌薬

Tshozoです。以前から自身の体調不良を記事にしているのですが、昨今流行りのAIには産み出せな…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP