[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

超大画面ディスプレイ(シプラ)実現へ

[スポンサーリンク]

 10月下旬と前の話ですが、「FPD (Flat Panel Display) International 2009」(パシフィコ横浜)にて篠田プラズマ 篠田傳会長の講演を聴講しました。化学領域の話題とは、少し離れますが研究開発の進め方に関して、大変有意義な内容でしたので、概略を紹介させて頂きたいと思います。

 

 

篠田氏は、プラズマディスプレイの開発という化学とは異分野の第一人者ですが、ガイアの夜明けに出演されたこともあり、ご存知の方も多いかもしれません。講演ではベンチャー篠田プラズマ株式会社を立ち上げ、PTA(プラズマチューブアレイ)技術を実用化した体験をお話頂きました。

 

shinoda.GIF

 

篠田氏は富士通でPDP開発を行っていたとき、ディスプレイの未来はどうなるか?を考え、「産業・商業用の巨大化」を考えたとのことでした。対角インチ100インチオーバーとなる場合、重量・消費電力・製造設備など現状技術からのブラッシュアップでは不可能であり、新技術の開発が必要であると開発を始めたそうです。しかし、富士通がPDPから撤退。援助を受けつつ独立し、一緒に富士通を退職した技術者・研究者と篠田プラズマを設立しました。

新技術を必要とする新しい超大画面ディスプレイは、大きいだけではなく、次の3点が必要になると開発の方向性を決めました。

 

超巨大ディスプレイ開発

体感・体験できるディスプレイ (その場に行ったような、その場にいるような臨場感 → 人のサイズを超えた2 x 3 mのサイズを目標)

人にやさしい (ディスプレイ・キーボード・マウスなどのインターフェースが不要であり、声や指-タッチパネル-や動作で動く)

環境にやさしい (低消費電力だけでなく、低製造・低運搬・低設置エネルギー)

 

その解として氏は、画像エレメントを貼り合わせるPTAを考えました。画像エレメントをガラスチューブにすることで、フィルム上の電極に張り合わせディスプレイにし、①を解決することにしました。画素を張り合わせるため、軽く、ディスプレイを設置する場所へ運びやすく、設置は巨大な一枚のディスプレイを張るよりも容易、さらに曲面表示さえも可能になりました。製造工程では画素を作成するので省スペース、そしてガラスチューブ内に発光体を封入するためクリーンルームも不要となり③の低製造・低運搬・低設置エネルギーとなりました。技術面は駆け足で話されていましたが、発光効率や材料などかなりの苦労が感じられました。(シプラの技術説明はこちら

 

PTAの事業化に向けて

PTAを事業化するために、氏は①入り口市場 ②死の谷を避ける ③積極的な出展や発表を意識されたとのことでした。

「入り口市場」とは氏の造語で、LCDが小さなく個人用途の画面サイズから拡大、またPDPが巨大な公衆的用途の画面サイズから市場を拡大したことを例として、競合が少ない市場=「入り口市場」から技術をブラッシュアップし、徐々に市場を拡大する戦略を意味します。PTAの場合、画面サイズがPDPと、ビル壁の大型広告など使われるLEDアレイとの間のサイズに競合がなく、入り口市場として算入が成功すると考えていたそうです。(実際、OLEDに関してですが、経営サイドからすると量がでない。メーカーサイドからするとLCDの投資設備を回収しないことには切り替えづらい等の話を聞いたりしたことがあります。)

②死の谷を避けるとは、技術開発と量産化のための生産技術の時間的な谷とのことであり、篠田プラズマでは、両者の開発を平行して進め、また、③対外発表を積極的に行い、エンジニアに次回の発表までに達成すべき目標を提示することで、短期間で開発から実用化を達成したと説明されていました。

実用化し、明石市立天文科学館にてシプラ製品第一号が展示されています。

研究テーマの選定・律速段階の把握と解決・目標の設定と非常に示唆に富んだ講演でした。氏は、私みたいな年寄りでも、ベンチャーとして結果を出していくことで、日本の技術者に元気を与えたいとの内容を述べていて、非常にエネルギッシュであり、刺激をうけました。

 

(画像は篠田プラズマ株式会社のHPから転載させて頂きました)

lcd-aniso

投稿者の記事一覧

企業にてディスプレイ関連材料の開発をしております。学生時代はヘテロ原子化学を専攻していました。私のできる範囲で皆様に興味を持っていただける 話題を提供できればと思います。

関連記事

  1. 有機フォトレドックス触媒による酸化還元電位を巧みに制御した[2+…
  2. 自宅で抽出実験も?自宅で使える理化学ガラス「リカシツ」
  3. 機能性ナノマテリアル シクロデキストリンの科学ーChemical…
  4. オキソニウムイオンからの最長の炭素酸素間結合
  5. 2007年度ノーベル医学・生理学賞決定!
  6. 銀を使ってリンをいれる
  7. ボロールで水素を活性化
  8. 研究者の活躍の場は「研究職」だけなのだろうか?

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ケムステイブニングミキサー2019ー報告
  2. 研究倫理を問う入試問題?
  3. 富士フイルムのインフルエンザ治療薬、エボラ治療に
  4. トム・メイヤー Thomas J. Meyer
  5. 化学大手4社は増収 4-6月期連結決算
  6. 東大、京大入試の化学を調べてみた(有機編)
  7. スルホニルフルオリド
  8. KISTECおもちゃレスキュー こども救急隊・こども鑑識隊
  9. 危険物データベース:第3類(自然発火性物質および禁水性物質)
  10. アルケンとニトリルを相互交換する

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

活性酸素種はどれでしょう? 〜三重項酸素と一重項酸素、そのほか〜

第109回薬剤師国家試験 (2024年実施) にて、以下のような問題が出題されま…

産総研がすごい!〜修士卒研究職の新育成制度を開始〜

2023年より全研究領域で修士卒研究職の採用を開始した産業技術総合研究所(以下 産総研)ですが、20…

有機合成化学協会誌2024年4月号:ミロガバリン・クロロププケアナニン・メロテルペノイド・サリチル酸誘導体・光励起ホウ素アート錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年4月号がオンライン公開されています。…

日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました

3月28日から31日にかけて開催された,日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました.筆者自…

キシリトールのはなし

Tshozoです。 35年くらい前、ある食品メーカが「虫歯になりにくい糖分」を使ったお菓子を…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP