[スポンサーリンク]

odos 有機反応データベース

シリル系保護基 Silyl Protective Group

[スポンサーリンク]

アルコール→有機金属化合物

 

概要

  • シリルエーテルは、アルコールの保護に有効である。研究室規模の精密合成では、必ずといっていいほど用いられる。
  • 3つの置換基R’は2つ以上同じものが用いられる。全て異なるとケイ素原子が不斉中心となってしまい、ジアステレオマーの取り扱いが面倒なためである。
  • TBS、TIPS、TBDPS基は立体的にかさ高いため、二級・三級アルコール存在下に一級アルコールのみを選択的に保護することが可能である。

基本文献

Review

開発の歴史

アルコールのシリル化剤として用いたのは米国のE. J. Coreyがはじめてである。1972年にTBSClを塩基としてイミダゾール存在下DMF溶媒中アルコールと反応させると収率よくシリル化体が得られることを発見した。さらにテトラブチルアンモニウムフロリド(TBAF)により除去可能であることも示した。現在ではもっとも頻繁に用いられる保護基の1つとなっている。

 

反応機構

1. 保護
ケイ素化学の常として、置換反応は5配位中間体を経由して進行する。脱離基(最も電気陰性な置換基)がアピカル位を占めるよう擬回転を起こしてから、脱離が起こる。
oh-si-3.gif
2.脱保護
保護の場合と同様、5配位中間体を経由して進行する。酸性条件であっても同様である。シリルカチオンは不安定なため、炭素置換におけるいわゆるSN1経路をとることはない。フッ素源で脱保護される駆動力は、強いSi-F結合形成による(Si-F結合はSi-O結合よりもおよそ30kcal/molほど強い)。
oh-si-4.gif

反応例

  • 保護・脱保護の典型例[1] oh-si-5.gif

 

  • NaHを塩基として用いるとジオールのmono-Protectionが効率よく行える。[2] oh-si-1.gif

 

  • ヨウ素触媒を用いるTMS保護[3]PG_silyl_7.gif

 

  • Si-BEZAを用いる保護[4]:三級アルコールのシリル保護ができる穏和な条件。 PG_silyl_8.gif

 

  • トリスペンタフルオロフェニルボランを用いたシリルエーテル合成[5]:官能基受容性の高さは勿論のこと、混み合ったアルコールを短時間で効果的に保護できる。 PG_silyl_9.gif
    PG_silyl_10.gif

 

  • より嵩高いシリル保護基BIBS[7]:Di-tert-butylisobutylsilyl基は最も嵩高いシリル基である。TIPSよりも1300倍塩基に強い。

2016-01-29_09-25-56

  • ケイ素ケイ素結合をもつトリス(トリアルキル)シリル基(スーパーシリル基)[8]:カルボン酸の保護基として用いることができる。例えば、トリス(トリエチル)シリル基は非常に嵩高いためカルボニル基に求核攻撃が進行しない。

2016-01-29_11-16-17

 

実験手順

 

PG_silyl_11.gif
アルコール(4.40g, 13.6 mmol)をDMF(90 mL)に溶解し、0℃にてイミダゾール(3.88g, 56.9 mmol) とクロロt-ブチルジメチルシラン(4.09g, 27.1 mmol)を加える。室温に昇温し,16時間撹拌する。十分量の水を加えて反応を停止し、水相を酢酸エチルで3回抽出する。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥、濾過後濃縮、残渣をカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=50/1)にて精製。目的物を黄色液体として得る(99%収率)。[6]

※ R’3SiCl/イミダゾールまたはR’3SiOTf/2,6-ルチジンの条件を用いることで、高収率でシリルエーテルを得ることができる。
後者のほうが反応性が高く、低反応性である二級、三級アルコールの保護目的に適している。
※ 脱保護は酸性条件下加水分解(AcOH-THF-H2O etc)あるいはフッ化物イオン(TBAF etc)による方法が一般的である。後者は強力なSi-F結合形成を駆動力とする。

 

実験のコツ・テクニック

※DMFを溶媒として使った際は、クエンチ時に多量の水で薄めた後、ヘキサン(or石油エーテル)/酢酸エチル 混合溶媒系で抽出すると良い。DMFが有機相に来にくくなり、抽出が楽になる。

※ 以下に良く使われる保護基を列挙しておく。TBSが一般的にFirst Choiceとして用いられるが、その他もよく使われている。TMS基はかなり外れやすいため、3級アルコールなどのかさ高いアルコールの保護、もしくは一時的保護目的以外では用いられることは少ない。
PG_silyl_2.gif

※ 酸性条件下での安定性はTMS(1)<TES(64)<TBS(20,000)<TIPS(700,000)<TBDPS(5,000,000)であり、塩基性条件では、TMS(1)<TES(10-100)<TBS, TBDPS(20,000)<TIPS(100,000)である(括弧内の数値はTMSを1とした際の強さを表す)フッ化物イオンに対する安定性はTMS<TES<TIPS<TBS<TBDPSの順である。

2016-01-29_09-14-28

塩基および酸性メタノール溶液中のシリルエーテルの半減期

2016-01-29_09-14-45

TBAF, HClO4を作用させた場合のシリルエーテルの半減期

※ TBAF条件での脱保護後に生じるアンモニウムアルコキシドは強塩基として働くので、塩基に弱い化合物には用いることが出来ない。緩衝目的で酢酸を加えたり、さらに温和な条件(HF・Py、3HF・Et3Nなど)を試す必要がある。

 

参考文献

  1. Oguri, H.; Hishiyama, S.; Oishi, T.;Hirama, M. Synlett 1995, 1252. DOI: 10.1055/s-1995-5259
  2. McDougal, P. G.; Rico, J. G.; Oh, Y.; Condon, B. D. J. Org. Chem. 1986, 51, 3388. DOI: 10.1021/jo00367a033
  3. Karimi, B.; Golshani, B. J. Org. Chem. 200065, 7228. DOI: 10.1021/jo005519s
  4. Misaki, T.; Kurihara, M.; Tanabe, Y.; Chem. Commun., 2001, 2478. doi:10.1039/b107447b
  5. Blackwell, J. M.; Foster, K. L.; Beck, V. H.; Piers, W. E. J. Org. Chem. 1999, 64, 4887. doi:10.1021/jo9903003
  6. Panek, J. S. et al. J. Org. Chem. 2009, 74, 1897. DOI: 10.1021/jo802269q
  7. Liang, H.; Corey, E. J. Org. Lett. 201113, 4120. DOI:10.1021/ol201640y
  8. tan, J.; Akakura, M.; Yamamoto, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 7198. DOI:10.1002/anie.201300102
     

 

関連反応

 

関連書籍

 

外部リンク

関連記事

  1. コンラッド・リンパック キノリン合成 Conrad-Limpac…
  2. クレメンゼン還元 Clemmensen Reduction
  3. 水素化リチウムアルミニウム Lithium Alminum Hy…
  4. バンバーガー転位 Bamberger Rearrangement…
  5. ジオトロピー転位 dyotropic rearrangement…
  6. ジェイコブセン速度論的光学分割加水分解 Jacobsen Hyd…
  7. シュミット グリコシル化反応 Schmidt Glycosyla…
  8. ボラン錯体 Borane Complex (BH3・L)

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第44回―「N-ヘテロ環状カルベン錯体を用いる均一系触媒開発」Steve Nolan教授
  2. ジン=クアン・ユー Jin-Quan Yu
  3. Z選択的ホルナー-エモンズ試薬:Z-selective Horner-Emmons Reagents
  4. 「フラストレイティド・ルイスペアが拓く革新的変換」ミュンスター大学・Erker研より
  5. 一人二役のフタルイミドが位置までも制御する
  6. 光触媒による水素生成効率が3%に
  7. 9‐Dechlorochrysophaentin Aの合成と細胞壁合成阻害活性の評価
  8. 最新の産学コラボ研究論文
  9. TFEDMA
  10. オルト−トルイジンと発がんの関係

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

注目情報

最新記事

薬学会一般シンポジウム『異分野融合で切り込む!膜タンパク質の世界』

3月に入って2022年度も終わりが近づき、いよいよ学会年会シーズンになってきました。コロナ禍も終わり…

【ナード研究所】新卒採用情報(2024年卒)

NARDでの業務は、「研究すること」。入社から、30代・40代・50代…と、…

株式会社ナード研究所ってどんな会社?

株式会社ナード研究所(NARD)は、化学物質の受託合成、受託製造、受託研究を通じ…

マテリアルズ・インフォマティクスを実践するためのベイズ最適化入門 -デモンストレーションで解説-

開催日:2023/04/05 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

ペプチド修飾グラフェン電界効果トランジスタを用いた匂い分子の高感度センシング

第493回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 物質理工学院 材料系 早水研究室の本間 千柊(ほ…

日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 2

第一弾に引き続き第二弾。薬学会付設展示会における協賛企業とのケムステコラボキャンペーンです。…

有機合成化学協会誌2023年3月号:Cynaropicri・DPAGT1阻害薬・トリフルオロメチル基・イソキサゾール・触媒的イソシアノ化反応

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年3月号がオンライン公開されました。早…

日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 1

さて、日本化学会春季年会の付設展示会ケムステキャンペーンを3回にわたり紹介しましたが、ほぼ同時期に行…

推進者・企画者のためのマテリアルズ・インフォマティクスの組織推進の進め方 -組織で利活用するための実施例を紹介-

開催日:2023/03/22 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

Part 1・Part2に引き続き第三弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP