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スポットライトリサーチ

巨大ポリエーテル天然物「ギムノシン-A」の全合成

 

第7回目となるスポットライトリサーチは、名城大学薬学部 分子設計化学研究室 助教の坂井健男先生にお願いしました。

坂井先生は今回紹介します超巨大天然物「ギムノシン-A」の全合成を達成され、その成果報告にて今年の天然物有機化合物討論会奨励賞(優秀発表賞)を受賞されました。またこの成果はつい先日J. Am. Chem. Soc.誌に登場したばかりでもあります。

“Total Synthesis of Gymnocin-A”
Sakai, T.; Matsushita, S.; Arakawa, S.; Mori, K.; Tanimoto, M.; Tokumasu, A.; Yoshida, T.; Mori, Y. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 14513–14516. DOI: 10.1021/jacs.5b10082

研究室を主宰される森裕二教授曰く、坂井先生には着任当初からポリ環状エーテルの合成研究を担当してもらっており、最初は力一杯反応を行かせようとしすぎて、化合物に駄々をこねられることもあったのだとか。巨大分子ギムノシン-Aの合成研究を通して、反応や化合物の気持ちを理解できるようになったということです。

そんな坂井先生が力を込めた合成研究と、それにまつわる思いをインタビューしてみました。それではご覧ください!

 

Q1. 今回受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単に説明してください。

赤潮形成渦鞭毛藻が作る、細胞毒性を有する14環性ポリ環状エーテルGymnocin-Aの全合成です。私たちの研究室では、エポキシド求核剤の反応、すなわち、スルホニル基によって安定化されたオキシラニルアニオンを、アルキルトリフラートに求核置換させる手法(オキシラニルアニオン法)を基盤としたポリ環状エーテル類の収束合成研究を展開してきました。このオキシラニルアニオン法を合計5回繰り返し用いてGymnocin-Aの長大な連続縮環骨格を完成させたのが本全合成研究の最大の特徴です。

図:Gymnocin-Aの合成戦略

図:Gymnocin-Aの合成戦略

 

Q2. 本研究テーマについて、工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

収束合成の3つのフラグメントであるABCトリフラート[2], FGHトリフラート, KLMNエポキシスルホン[1]それぞれの合成については全て学部5, 6年生がルート検討も含め行ってくれました。そこから先の全合成完了の30工程近くは自分が手を動かしたわけですが、結構プレッシャーがかかりました。森教授からは、「もし、学部生に最後をやらせて失敗しサンプルを失ったら、任せたことを僕も君も後悔する。でも、もし君が失敗しても、君でもダメだったとみんなあきらめがつく」と言っていただき気持ちが楽になり、最後まで完了させることが出来ました。各フラグメントを一生懸命立ち上げて、最後を自分に託してくれた研究室メンバーに非常に感謝しております。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところ、またそれをどのように乗り越えたか教えてください。

 実際のところ、時間を要したのは全合成の後半よりも各フラグメント構築です。特に、KLMNフラグメントのL環やFGHフラグメントのG環を構築する局面において、第3級アルコールをブロモケトンへ分子内求核環化させているのですが、再現性の良い結果を得るのに非常に時間がかかりました。当初は、無水条件下でNaHを使ってうまく行っていたのですが、試薬を新調したととたん急に再現性がなくなりました。最終的に、NaOHが正解だと分かった時は試薬管理について反省させられましたが、研究当初はNaOHでうまく行くとは全く予想していませんでした。古いNaHを使うことがなければ、見つかってこなかった反応かもしれないと思うと本当に幸運だったと思います。

図:第3級アルコールからブロモケトンへの分子内求核環化反応

図:第3級アルコールからブロモケトンへの分子内求核環化反応

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

個人的には、ごちゃごちゃした反応を考えるのが好きなので、短期間的な目標としては、ポストオキシラニルアニオンとなる独自の合成方法論・触媒を確立させたいと思っています。長期的には、もう少しバイオなり材料なりをきちんと勉強しながら、多方面に展開させないと、世界から取り残されるという危機感を持っています。ただ、自分のフィールドでもっと独自性を確立してからの方が戦いやすいのかなあと思うと、どうしても二の足を踏んでしまっているのが現状です。

あと、教育面になりますが、薬学部全体の問題だとは思いますが、「有機化学が嫌い・苦手」という学生さんが多い現状を何とかしたいと思っています。なかなか難しい問題ですが。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

実験できることに対して、感謝の気持ちを忘れず持ち続けたいと思っています。良い研究を行うには、独創的で革新的なアイディアはもちろん必要なのですが、一人だけで今の環境が作れるわけではありません。仏教的かもしれませんが、いろいろな人と人との縁を大事にし、他人を思いやっていく中で、自ずと化合物の気持ちも分かるようになっていくのだと思います。

 

参考文献

  1. Sakai, T.; Asano, H.; Furukawa, K. Oshima, R.; Mori, Y. Org. Lett. 2014, 16, 2268–2271. DOI: 10.1021/ol500788c
  2. Sakai, T.; Matsushita, S.; Arakawa, S.; Kawai, A.; Mori, Y. Tetrahedron Lett. 2014, 55, 6557–6560. DOI: 10.1016/j.tetlet.2014.10.014

研究者の略歴

TSakai_0坂井 健男

所属:名城大学薬学部薬学科 分子設計化学研究室(森 裕二 研究室) 助教

テーマ:「オキシラニルアニオン法を用いたポリ環状エーテル天然物の収束合成」「テトラシアノシクロペンタジエニド類を特徴とする触媒の開発」

経歴:1981年福岡県生まれ。京都大学卒業後、2003年より同大学薬学研究科へ進学(富岡 清研究室)。2007年より日本学術振興会特別研究員(DC2)。2008年3月に博士(薬学)取得後、2年間、マサチューセッツ工科大学のRick L. Danheiser研で博士研究員を務めた。2010年4月より現職。2013年有機合成化学協会東海支部奨励賞、2014年度有機合成化学協会第一三共研究企画賞、2015年第57回天然有機化合物討論会奨励賞。

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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